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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
16章 奪われた姫君
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「さて……それで、今日はどうすっかな。下で準備してるんなら、手伝いに行ったほうがいいかな」


「あ、それなら」


と、フランが部屋を横切っていく。なんだろうと見ていると、両手に大きな羊皮紙の束を抱えて戻ってきた。


「フラン、それは?」


「ごはんと一緒に、城の人が置いてった。これを見て、分かることがないか調べて欲しいって」


なに?俺たちにか?フランがテーブルに羊皮紙を広げたので、俺はそいつを覗き込む。ウィル、とロウランも興味をひかれたのか、テーブルの周りに集まってきた。アルルカ?やつは広くなったソファを堪能しているよ。


「桜下さん、これは……?」


「ウィルも知らないのか?なんか、日付と名前が書いてあるけど……」


「事件記録だって」とフラン。


「事件記録?」


「そう。ここ最近の、失踪事件について」


え!それはつまり、例の誘拐事件についての記録か。


「でも、なんで俺たちに?」


「忙しくって、手が回んないんだって。何か法則性とかがあれば、女王の手がかりになるかもしれないでしょ」


「ふむ、なるほど」


「あと、この王都でも被害が出てるみたい」


「え?あ!そうか、ロアだけじゃなくて……」


「うん。あの日、何人かが連れ去られてる。まだ調査中だから、はっきりした人数は分からないみたい」


そうだったのか……あの日、王都に人が全くいなかったのは、モンスターに見つからないように隠れていたからか。


「なら、その人たちの手がかりにもなるんだな。よぅし、頑張ろうか」


俺は巻紙に目を落とす。みんなも覗き込んだ。書かれていたのは、直近の事件の概要と発生場所、および攫われた人たちの名前。細かな字で、みっちりと書かれている。


「思ったより多いな……こんなにやられてるのか」


「二の国だけじゃなくて、ほかの国のことも書いてあるみたいだよ」


ふむ。だとしても、多いことに変わりないが。ざっと見ただけでも、たぶん百件は越えている。


「へー、結構しっかり調べてあるな……地区の名前とか、攫われた時間帯まで書いてあるぞ」


「人一人が消えるんですから、それだけおおごとってことなんでしょうね……」


「うーん……」


俺はさーっと、事件記録を眺めていく。こうして見ると、町も時間帯も攫われた人たちも、てんでバラバラだ。例えば、どこそこの町が集中的に狙われているとか、同じ家の人間(例えば貴族とか)が大勢攫われているとかがあれば、法則性を見出すのは簡単なんだが。けど、全く手掛かりが無いわけではなかった。


「ざっと見た限り……女性が多い、気がしますね」


ウィルの意見だ。俺もうなずく。


「ああ。全員ってわけじゃないが、十人のうち七、八人は女の人だな」


「それだけじゃないの」と、ロウランが付け足す。


「みんな、若いコばっかじゃない?」


「うーん……?そう言われれば、確かに」


十代や二十代の記述は多く見えるが、それ以上となるとかなりまばらだ。つまり、傾向としては、若い女性の被害者が多いってことか。


「じゃあ、それの意味するところだけど……」


「それなら、たぶんわたしが説明できるよ」


おっ。みんなの目が、フランに注目した。何か法則を見つけたのか!


「狙いやすいから」


「……へ?」


「屈強な男より、女の方が連れ去りやすいでしょ。同じ理由で、大人より子どもの方が狙われたんだ」


「あ、ああ~。なるほど……でもそれだと、爺さん婆さんも含まれないか?」


「ん……そうだね。でも、年寄りだと、長期間の幽閉に耐えられないかもしれない。魔王は、人質としての価値なら、若い方が高いと考えたのかもよ」


ははぁ、確かに筋は通っている。人質としての価値か……非人道的な話だが、そもそも相手は人間じゃなくて、魔王だ。あり得るのかも。


「となると、この人たちに繋がりみたいなのは、一切ないってことに……」


「矛盾があるわね」


え?俺たちは一斉に、背後のソファに振り返った。寝そべって頬杖をついたアルルカが、眠たげに細めた目でこっちを見ている。


「なんだアルルカ、聞いてたのか?」


「聞こえてたのよ。で、マヌケな間違いがあるのに気づかないから」


むっ……カチンとくるが、改めて考えても、特におかしなところは見つけられない。癪に障るが、教えてもらうしかないだろう。


「教えてくれよ、アルルカ」


「んん~?んふふふ」


くっ、こいつ……猫みたいな口の形しやがって。


「まーあ、しょうがないかもね、気づかないのも。その紙を見てるだけじゃ」


「なに?記録を見ているだけじゃダメって……事件に関係してないことなのか?」


「そうじゃないわ。その紙、記述漏れがあるってことよ」


「は?そら、そうだろ。完璧に記録されているとは俺も……」


「そーじゃなくって。ほら、直近にあったじゃない。あたしたちしか知らない事件が、一件」


うん?何を……あ!


「そうか!フランだ!」


俺が叫ぶと、ウィルもパチンと手を打つ。


「ああ、そうでした!フランさんは、どう考えても攫いやすい相手じゃありませんよ!」


フランの推測は、攫いやすい相手から攫われているというものだ。だが、肝心の彼女自身が、その条件に決定的に当てはまらない。


「ほんとうだ……」


フラン自身も、口元に手を当てて、それには気付かなかったという顔をしている。


「ねえ、それにさ。もう一個、おかしなことがあるの」


ロウランがテーブルに手を付き、ずいっと身を乗り出す。


「このコが襲われた時、ゴブリンたちは、ずっとアタシたちを観察してたんだよね?ただ襲いやすい相手を襲うだけなら、そこまで入念な下調べは必要ないはずじゃない?」


確かに!そのことも忘れていた。これらを加味すると……


「フランの言った説は、一部に矛盾か、例外があるんだ。狙いやすい以外にも、ターゲットにされてしまった条件があるはず……」


よく思い出せ、ゴブリンに襲われた時、奴らはフランの何を調べていた?


(あの日は、確か……)


フランの名前や、年齢。モンロービル出身だってこともか?顔を合わせているのだから、当然外見も分かったはず。だがそれだけで、他の誰かとの差別化が図れるとは思えないんだけどな……例えば、同じ村出身のジェスでも、条件は満たせるだろ。


(何か、フランだけの特別な理由があるはずなんだが)


俺はその何かの手掛かりを求めて、再び事件記録に目を通した。ここに手掛かりがある保証もないが、とにかく藁にも縋る思いだ。……ん?


「え?なんだ、これ」


「桜下さん?どうかしましたか」


俺は、返事ができなかった。ある一件の記録から、目を離すことができない。


「なんだよ、これ……!ふざけんな!」


「きゃっ。お、桜下さん……?」


「……何か、あったの?」


俺の異変を察してか、フランが声のトーンを落として訊ねてくる。くっ……俺は“それ”を口に出すことができず、指でその箇所を指し示した。フランの赤い目が、その先を追う。


「…………!」


「え……嘘!これって……」


ウィルはぱっと口を押えた。そこには、こう記されている。

発生場所:ミストルティン 失踪者:コルト(姓不明)


「そんな……コルトさんが……!」


ウィルの顔からは、すっかり血の気が引いてしまった。

……ちっくしょう!なんだって、あいつが!やっと町に居場所ができた、これからって時だったのに……!


「ちくしょう!」


俺は何かを思いっきり殴りたい衝動に駆られたが、あいにく適当なものは無い。やり場のない感情に任せてドスンと腰を下ろしたら、椅子がみしっと(かし)いでしまった。くそっ、エドガーの気持ちが、今なら分かる。


「……戦う理由が、増えちゃったね」


フランがつぶやく。


「ああ……人類の発展とか、悪の追放とか、んなことはどうでもいい。俺たちは、奪われたみんなを取り戻す……!」


皮肉なもんだ。俺たちの意志は、コルトの不幸によって固められた。そしてコルトがもたらしてくれた情報は、さらにもう一つあったのだ。


「……」


時間が経ち、みんなが少しずつコルトのショックから立ち直って来ても、フランだけはいつまでも顔を上げず、うつむき続けていた。いつも冷静な彼女からしたら、珍しいことだ。


「フラン……?」


「……わかった、かもしれない」


わかった?それは、つまり……


「……!まさか、攫われる条件か?」


フランは顔を上げないまま、頭をかすかに動かした。


「わたし、ロア、コルト、そしてマルティナ」


ん?これは……今まで、誘拐のターゲットにされた人たちだ。この人たちに、共通点があるってことだろうか?まずわかるのは、全員女性だってこと。あとは……


「……っ!!!」


「……あ。まさか、これって……?」


ああ、わかった。この四人に、共通していること。それは。


「全員が、セカンドミニオンだ……!」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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