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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
16章 奪われた姫君
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「ギヘヘヘヘ。サア、女ヲ置イテイッテモラオウカ……!」


「ベタだなぁ~……こいつら、中身は人間なんじゃないのか?」


『そんなわけないでしょう。ゴブリンですよ』


ゴブリン。これは俺でも聞いたことあるぞ。ゲームとかじゃ、割と序盤のザコキャラにされていた気がする。

初めて見た現実のゴブリンは、緑色の肌をした醜いモンスターだった。ブルドッグから愛嬌を全て取り去ったような顔。体格はまちまちで、全部で四匹いる。大柄で縦にも横にもでかい力士みたいな奴、普通の人間サイズの奴、小柄で犬みたいなのが二匹だ。


「アニ、ゴブリンって強いのか?」


『まあ、大したことはありません。危険度はC相当です。主様たちの敵ではないでしょう』


「なら、そこまでビビる必要はないな」


相手はさして数も多くない。あんまり時間を取られるのも癪だし、とっとと抜けちまおう。


「いつも通り、サクッと行こう。フラン、頼めるか。ウィルはサポートを」


「了解」「しました!」


フランはとんとんと地面を蹴ると、ドンッと勢いよく走り出した。勢いそのままに、一番でかいゴブリンに向かって、強烈なキックを繰り出す。これで、まずは一匹だ!

バシィン!


「え!?」

「なに!?」


うけ、止めた……?フランのキックを、大柄なゴブリンは片手で止めた。し、信じられん!


「くっ」


フランは足を捻るが、ゴブリンは手を放さない。ウィルがロッドを振り回して、ようやく振りほどくことに成功した。

フランは素早く距離を取ったが、掴まれた足首をさすっている。対してゴブリンは、余裕だとでも言うように、手を握ったり開いたりした。


「……こいつは、サクッとは行かないかもしれないな。予定変更、ライラも攻撃に回ってくれ!ロウラン、守りは任せた!」


「わかった!」「なの!」


フランの蹴りが効かない相手だ。こいつは、総力戦で行かないときつそうだぞ。ライラは低い声で呪文を唱え始める。俺は上を向いて、大声を張り上げた。


「アルルカー!お前も手伝えー!」


「ああ~?だらしないわねー!」


およそ了解の返事とは思えないが、これがアルルカ流だということにしておこう。とにかく、これでフルメンバーだ。油断せず、全力で敵を排除する!


「やああ!」


フランは再び、大柄なゴブリンに攻撃を仕掛けた。単純な力押しでは効果がないと悟ったのか、フランは小刻みにステップを踏み、素早い動きで敵を翻弄するスタイルに切り替えた。あのでかいゴブリンは、力はあるが、スピードは無い。フランの速度にはついてこられず、隙が生じる。そこに強烈な一撃が炸裂した。バシーン!

フランの拳は、奴の脇腹にクリーンヒットした。にもかかわらず、ゴブリンはびくともしない。それどころか、脇腹の肉に、フランの拳が埋まっている!あいつめ、攻撃を喰らったふりをして、すでにフランを捕まえている!


「ギヘヘヘ……」


ゴブリンは鋭い牙を覗かせながら、フランに手を伸ばす。まずい!


「このぉー!」


ウィルがロッドを振り上げると、ゴブリンの頭をやたらめったら殴りまくった。ゴン、ゴキ、ゴィン!ゴブリンにはまるで効いていない様子だったが、さすがに無視するには鬱陶しかったのか、手ではらい退けようとする。その間に、フランは両足で踏ん張って腕を引っこ抜いた。


「ほっ……けどなんなんだあいつ、とんでもない馬鹿力だぞ!?」


『お、おかしいです。ゴブリンに、あんなにパワーがあるわけは……』


「でも現に、フランの攻撃を受け止めてるじゃないか!」


あいつの一撃は、ガーゴイルだってぶっとばす。ならあのゴブリンは、ガーゴイル並みなのか?しかもガーゴイルと違って生きているので、フランも毒の鉤爪を抜けずにいる。くそ、頭が痛い!


「ちっ、しょうがないわね。メギバレット!」


地上の苦戦を見かねたアルルカが、上空から援護射撃を放つ。ダァーン!


「ジギギギ!サセン!」


え?ご、ゴブリンの腕が、伸びた。並みの体格のゴブリンの片腕が、ゴムのようにびょーんと伸びる。そして、アルルカの弾丸をはたき落としてしまった。そ、そんなのありか?


「お、おいアニ!ゴブリンって、腕が伸びるのかよ!?」


『そ、そんなはずは。王国編纂のモンスター図鑑に、そのような記述など……』


「くそ!なら、新しく書き加えてもらわないとな!」


どうにも俺たちが相手をしている連中は、普通のゴブリンではないらしい。腕が伸びたり、怪力を持っていたり。なんでそんな連中が、街道のど真ん中に現れるんだ!?


「ガスト・オブ・スカイラーク!」


混乱の最中、ライラの呪文が完成した。ザァァァァ。塵が渦を巻き、複数羽の小鳥の姿になっていく。これは、見たことがあるぞ。クラークの仲間の、コルルが使っていた魔法だ!


「いけぇ!」


ライラがぶんと腕を振ると、魔法の小鳥たちはV字の隊列を組んで、ゴブリンめがけて飛んでいく。だがそれに合わせるように、並ゴブリンも両腕を伸ばしてきた。


「なに!?」


今度は腕だけじゃなく、指まで伸びた!網のように広がったゴブリンの手に、小鳥が激突する。ドン、ドンドン、ドン!小鳥の編隊は、一瞬で全滅してしまった。


「ぜ、全部防がれた……」


「ちぃ!攻撃が来るぞ!ロウラン!」


「まっかせてー!腕だろうが槍だろうが、防いでみせるの!」


ロウランの体から、液体の金が溢れ出した。あのゴブリンの伸びた指は、そのままこちらに向かってくるはず。だがな、こっちにも強固な盾がある!ロウランの魔法があれば!


「て、あれ?」

「ん、んん?」


待てど暮らせど、ゴブリンの攻撃が来ない。ロウランが首をかしげる。それもそのはず、伸ばしたゴブリンの腕は、そのままフランの方へと向かっていたのだ。


「ギゲゲゲゲ!」


「くそっ!」


ゴブリンがこっちを無視したせいで、結果的に一対多数の形になってしまったフランは、苦戦を強いられていた。大柄ゴブリンだけでも厄介なのに、並ゴブリンの伸びる腕も加わる。さらにそこに、チビゴブリンどもまでちょっかいを出し始めた。


「ケケケケー!」「キキキキー!」


「うわっ。ちょっと!」


チビゴブリンは二匹そろって、フランの両足に飛びついた。フランは引っぺがそうとするが、チビゴブリンはフランの足に、鋭い歯を立てた。ガブリ!ゾンビのフランに痛みは無いだろうが、ゴブリンは食らいついて離れない。


「ギギギギ!」


「っ!しまっ……」


フランの足が止まった瞬間、並ゴブリンの伸びた腕が、フランの両腕を捕らえた。ぐるぐると巻き付くと、そのまま思い切り下へと引っ張る。ゴキン、ボギン!嫌な音を立てて、フランの両腕が、だらんとぶら下がった。そこに、大柄ゴブリンが腕を叩きつける!


「ぐあ……!」


「フラーン!」


大柄ゴブリンは、その大きな手のひらで、叩き潰すようにフランを殴りつけた。地面に倒されたフランを、大柄ゴブリンはむんずと掴みあげる。


「コノ女ヲヨコセ。ソウスレバ、オ前タチは見逃シテヤル」


「な、なんだと?」


大柄ゴブリンは、俺たちに見せつけるように、捕えたフランを突き出してくる。奴の太った人差し指が、フランの顔を無遠慮に撫でた瞬間、俺は体中の血が沸騰しそうな怒りを覚えた。


「ふざけないで、ください!フレーミングバルサム!」


バチバチバチ!ウィルがロッドを振り下ろすと、激しく弾ける火花が、ゴブリンの顔面で飛び散った。


「グギギギ!?」


これにはさすがに面食らったのか、よろよろと数歩後ずさる。そのすきに、フランはゴブリンの手に噛みつくと、足で奴を蹴り飛ばして、脱出した。


「いいぞ!フラン、一度退け!」


フランは素直に、こちらに走ってきた。どのみち、腕が使えないんじゃ、ろくに戦うこともできない。しかも、フランの両脚にはまだ、チビゴブリンどもが食いついている。


「ダーリン、アタシに任せて!いい加減に、離れるの!」


ロウランが包帯を伸ばすと、チビゴブリンたちを絡め取る。ゴブリンはようやくはがれたが、一緒にフランの肉まで、バリッと剝がれてしまった。うぐぐ……


「ロウラン!そいつを、あいつらの方に投げて!」


ライラが叫ぶ。ロウランはこくんとうなずくと、包帯をしならせて、チビゴブリンを投げ飛ばした。ゴブリンが、一か所に固まった!ライラ、これが狙いか!?


「ギググ!オノレ!」


だがゴブリンも、大人しくじっとしているはずがない。その瞬間、上空で声が轟いた。


「スノーフレーク!」


ピシピシピシ!銀色の冷気が、地面を凍結させていく。アルルカが放った魔法は、ゴブリンどもの足を釘付けにした。いいぞ!重ねるように、ライラの呪文が響き渡る。


「ボルカニック・バーナクル!」


ゴゴゴゴ……!じ、地面が揺れている。地震か!?いや違う、地面が盛り上がっている!ゴブリンたちの足下が、むくむくと膨らんでいく。臨界点に達したそれは、ドカンと弾けた。


「どわぁ!」


ドゴーン!地面が大爆発し、真っ赤な炎が噴き出した。爆風と轟音と振動に、俺は思わず尻もちをつきそうになる。ご、ゴブリンたちは?あの爆心地に居たんじゃ、一匹残らず消し炭になったんじゃ?

だが、その心配は無用だった。ライラはちゃんと威力を調整したらしい。俺ははるか遠くに、飛んで行く四つの影を見つけた。ライラは、ゴブリンを吹っ飛ばしたんだ。やがてそれは落下し、大きな音を立てた。ドッポーン!そう言えば、目の前を川が流れていたっけ?


「おお、完璧なホールインワンだな……」


「けど、また戻ってこられると厄介だよ!馬を出すから、早く行こう!」


「あ、お、おう。わかった」


ライラはすぐさまストームスティードを呼び出した。俺たちは急いで馬に乗り込むと、即座にその場を離脱した。


(でも、なんだか……妙な戦いだったな……?)



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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