表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
642/860

11-4

11-4


テレジア容疑者の家は、小高い丘の上にぽつんと建っていた。ていうか、あれは家か?テントじゃないか。


「すごいお家だねぇ」


「ん、ああ……ところでロウラン、ほんとに一緒に来る気か?」


「んもう、ここまで来て、それゆ~?」


ロウランがもちっとしたほっぺを、ぷぅっと膨らませる。誰がどう見ても、幼い女の子にしか見えないよなぁ……中身がゆうに三百歳を超えると言っても、絶対信じてもらえない。


「はぁー……まあ、仕方ないか。上手くやってくれよ、ランちゃん」


「はぁーい、おにぃちゃん♪」


ぎゅっと手を握ってくる。ロウランは妙にノリノリで、このためだけにコードネームまで作った。恐ろしく単純なものだが……不安だなぁ。


テントの前まで来ると、まず目に入ったのは、軒先に吊るされた毛むくじゃらの物体だった。動物の毛皮を干しているらしい。この人は確か、猟師だったっけ?

テントの中からはごそごそと人の気配がする。在宅ではあるようだ。ようし、気合を入れて。


「ごめんくださーい」


「はいはーい。どなたですかー?」


うん?俺とロウランは、顔を見合わせた。聞こえてきた声は、鈴のようなコロコロした声。はて?この家に住んでいるのは、テレジアさん一人じゃなかったか?

やがて入り口の布がめくれると、長いブロンド髪の女の子が顔をのぞかせた。あれえ?子どもがいたのか?少女は俺たちを見ると、目を丸くする。元々大きい目が丸くなると、いっそう幼く感じるな。


「うぅん?どうしたの、君たち?」


「あ、えっと。家の人っているかな?」


「はぁ?そりゃ、いるけど」


「じゃあ、呼んできてくれないか?」


「……?いいけど。もしもーし、テレジアさーん!はいはーい、なんですかー!」


はい?女の子はテントの中に向かって叫ぶと、なぜか自分で返事をした。


「まだ分かんない?あたしがテレジア。ここの家主」


「え!」

「えぇ!」


俺とロウランは、同時に声を上げた。だって、どう見てもライラと同い年か、少し上くらいにしか……


「むー。しっつれいしちゃうなぁ。こんなちびっ子たちにまで、子どもだと思われてるわけ?」


自称テレジアさんは、ぷくっと頬を膨らませる。ますます子どもっぽい……


「え、ええっと……あの、ほんとに……?」


「そうですぅー。あたしを何歳だと思ってるの?今年で二十八だよ」


ええー!み、見えない。この見た目で、俺の倍は生きているのか?ロウランまであんぐり口を開けている。おい、お前に驚く権利はないぞ。


「で、なんなの?用がないなら、もう戻るけど」


「ああ、待った待った!えっと、実は俺、いや僕たち、道に迷ってしまって……」


あまりの衝撃に本題を忘れていた。まあこの際、鬼だろうと蛇だろうと関係ない。大事なのは、この人が犯人かどうかだ。


「迷ったぁ?こんな、なんもない野っぱらで?」


テレジアは呆れたように肩をすくめる。


「君たち、筋金入りの方向音痴だね。後ろ向いてまっすぐ歩いてけば、そのうち町に着くよ。それじゃ」


「あああー、ちょっと待ってくれ!」


ここで引っ込まれちゃ意味がない。何とか引き留めないと。


「ぼ、僕たち、最近越してきたばかりで。町がどっちだったか、分かんなくなっちゃって……」


「えー?もう、しょーがないな」


テレジアはとことこと、テントの外に出てきた。横に並ばれると、ほんとに小さいことが分かる。俺の胸のところに頭があるぞ。

さて、なんとか釣り出すことには成功した。頼むぞ、ロウラン。俺が目配せすると、ロウランはわずかにこくりとうなずいた。


「ねーえ、おにぃちゃん?せっかくだから、あのことも訊いてみたらどう?」


「お、おお。そうだなライン。あの、すみません。もう一つ訊いてもいいですか?」


「うん?町の方角ならあっちだよ」


「えっと、それとは別にですね。実は僕たち、いなくなった母さんを探していて……」


かくかくしかじか。事前に決めた“事情”を話すと、テレジアは深くうなずいた。


「なるほど。それはさぞかし大変だねぇ」


「ええ、だから……」


「けど、それウソでしょ」


えっ。俺もロウランも面食らって、固まってしまった。テレジアは子どものような目で、俺をじっと見据えている。だが確かに、この人は大人だ。瞳の奥に、子どもじゃあり得ない、鋭い光が見える。


「あの、これはほんとのことで……」


「ダメダメ。君たちは、つい最近この町に来たんでしょ?それなのに、親が子を捨てて去るかな。初めから捨てる気なら、わざわざお金と手間の掛かる引っ越しなんてしなくない?」


「で、でも、母さんは何かの事件に巻き込まれたのかも……」


「だったら、なんで探しているのが君たちだけなの?それこそ、他の人たちにも事情を話せばいいのにさ。町民一人が消えたなら、さすがに手を貸してくれるはずだと思うけど」


「ぐ、う……」


「あとついでになんだけど、君たちは、本物の兄妹でもないんじゃない?」


「……」


二の句が継げないとは、まさにこのことだ。何も言えずにいると、テレジアはなぜか、ふっと笑った。


「でも、そう身構えなくていいよ。君たちの嘘を責める気はないから」


「え?」


「なにか事情があるんでしょ?ただのいたずらにしちゃ手が込んでるし、かと言ってタチの悪い詐欺にしちゃ、詰めが甘い」


うぅ……顔が熱くなる。


「だったらさ、腹を割って話そうじゃない。あんたたちの本音を聞かせてよ」


え?てっきり追い返されるかと思ったら、話を聞いてくれるのか?こっちとしては、願ってもないことだが。すると、ロウランがゆっくりと口を開く。


「……そう言ってくれるなら、お言葉に甘えちゃうの」


「え。おい、ロウラン……」


「もうこうなったら、ごまかしてもしょうがなくない?ストレートに訊いたほうがいいよ、きっと」


うーん……仕方ない。確かに、いまさら取り繕いようもないしな。


「……わかった。テレジアさん、単刀直入に言うぜ。俺たちは、とある事件の犯人を捜してるんだ。で、俺はあんたが、その容疑者の一人だと考えている」


「おお、いきなりだね」


俺はテレジアの顔色を注意深く伺った。かなり不躾な物言いだが、テレジアは特に気分を害した様子はない。もちろん、上機嫌というわけでもないが。


「あんまり楽しい話じゃあないね。けど、疑いを晴らすためにも、まずはよく聞く必要がありそう。続きを話してみて」


ほっ。テレジアは怒ってはいないようだ。ふぅむ、この人、子どもっぽい見かけによらず理知的だな。


「じゃあ、続きを。その事件が起こったのは、二週間前の昼過ぎだ。一日中薄暗かったその日に、事件は起きている。あんた、その日は何してたんだ?」


「二週間前……だいぶ前だね。でも、その薄暗かった日っていうのは覚えてるよ。で、幸いなことに……君たちにとっては残念かな?あたしはその日、仕事でずーっと外に出てました。つまり、この町自体に居なかったってわけ」


ふむ。犯行はできなかったと言いたいわけか。


「なら、それを証明できる人は?」


「いるよ。ん?待って……いた、の方が正しいかも」


「いた?過去形なのか」


「うん。その人、あたしが獲物を卸している革職人なんだけどさ。ちょうどその時間、あたしはその人と会ってるんだ」


「なるほど……でもその人、どうかしたのか?」


「いやぁそれが、帝都まで買い付けに行っちゃってるんだよ。二、三日前までは、隣町に居たんだけどね。たぶん一カ月は戻ってこないだろうなぁ」


なに?こりゃまた、厄介な状況だな。テレジアには、アリバイの証人はいる。が、その人とすぐには会えないと言う。アリバイがないことをごまかすための嘘とも捉えられるし、だがもし本当なら、下手に追及したこちらの方が悪者になってしまう。


「さあ、どう?あたしが嘘をついていると思う?犯人だって告発してもいいけど、一か月後、その職人が帰ってくれば、あたしの無実は証明されるよ」


テレジアもそれが分かっているのか、余裕の表情だ。決めつけてかかるには、あまりにもリスキーか……


「……現時点じゃ、判断はできないよ」


「んふふ、懸命だね。子どもの探偵ゴッコ、ってわけじゃなさそうかも」


テレジアはニマニマと笑っている。くうぅ、手玉に取られている感が否めない。


「ねえ。ところで君たちは、どうして犯人探しなんてやってんの?その被害者って、君たちの家族だったり?」


「いや……事情があるんだよ。そいつを見つけないと、仲間の大事な目的が果たせないんだ」


「ふーん、そっか。うーん、お手伝いしてあげたいところだけど、あたしが容疑者なんじゃなぁ。お仕事も放ってはおけないし」


「仕事……確か、猟師だっけ」


「猟師……?」


ん?突然黙り込むテレジア。なぜだか、プルプルと震えている……?


「そんなんじゃ……なぁーい!」


うわ!テレジアが突然、大声を出した。


「誰が猟師なんて!あたしはトレジャーハンターですぅ!」


「え?トレジャー……でも、さっき獲物を卸してるって」


「それは冒険の資金を得るため!本職はあくまでもこっち!まったく、そんなデマが飛び交っているの?」


テレジアは腕を組んでむくれている。


「デマ、かどうかは知らないけど……大体トレジャーハンターって、何してるんだよ?」


「ふふん。それはもちろん、この世に隠された財宝を見つけだすんだよ。そして手に入れる!」


「財宝……?」


俺とロウランは、そろってテレジアの背後の、小さなテントを見た。どこをどう探しても、銅貨一枚見つけるのが関の山に見えるが……テレジアはふっと自嘲気味に笑う。


「……お宝探しは、見返りが大きい分、準備も大変なんだよ。空振りが続けば、あっという間に干からびるものなの。それにほら、あたしらみたいな性分で、コツコツ貯金なんてできるわけないし」


ああー……一攫千金を狙う人たち、だもんな。今度は急に、この人が子どもに見えてきたぞ。


「っとまあ、あたしはロマンを追うので忙しいわけ。悪いけど、君たちの問題は、君たちで解決しなね。他に訊きたいことは?」


「あっ。ええっと……」


「なさそうね。ま、頑張りなよ。おねーさんは応援してあげるから。んじゃね!」


もたもたしている間に、テレジアはテントに引っ込んでしまった。後には俺と、ロウランだけが残される。


「……ダーリン、犯人、分かりそ?」


「……だはぁ~~~」


頭を抱えるしかない。今日聞き込みをした、容疑者三人。一体誰が、襲撃犯なんだ?



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ