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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
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「怪しぃ~。あやしいの、その人」


俺とライラが報告を終えると、ロウランはぐーっと眉根を寄せた。


「だってそいつ、ダーリンたちのこと、ぶっ殺すって追いかけてきたんでしょ?絶対ヤバイやつなの」


「ま、だよなぁ」


俺たちが会って来た、ダンゲルとか言う大男は、事前に聞いていた通りの乱暴者だった。おまけに、あからさまな怪我までしていると来たもんだ。つい最近、怪我するようなことをしたってことだろ?


「もうそんなんじゃ、犯人じゃないところを探すほうが早い気すらしちゃうの」


「背格好の大きい男、斧を軽々と担ぐ筋力、粗暴な性格、不可解な怪我……ロウラン嬢のおっしゃる通りですな」


エラゼムも同じ意見のようだ。俺も特に異論はない。現時点では、もっとも犯人像に近い。


「……」


だけどフランは、黙り込んで、なにかを考えているようだ。ウィルが不思議そうに首をかしげる。


「フランさん、なにか気になる点でも?」


「まあ、ちょっとした違和感だけど……そいつ、あなたたちの話も聞かずに、追いかけてきたんでしょ」


フランがこちらを向いたので、俺とライラはうなずいた。


「そこだけ聞くと、ずいぶん向こう見ずで、単細胞な奴みたい。けど、今回の事件の襲撃犯は、かなり入念にシスターのことを調べ上げてた。そんな計画性が、その男にあるのかな、って」


「あ」


た、確かに。あいつはいちおう、俺たちを川岸に追い詰めるくらいの知恵はあった。が、見ず知らずの子どもを追いかけ回すような男に、計画性があるのかと言われると……あいつの家の荒れ具合を見ても、かなりガサツな性格であることは見て取れる。


「うーん、なるほどな。それは盲点だった」


「まあ、あくまで違和感ってだけだけどね。計画犯と実行犯は別なのかもしれないし。今のところは、そいつが第一候補ってことでいいんじゃない」


「そう、だな」


フランの指摘も見逃せないが、確かに決定打には少し足りない気もする。判決を下すのは、少し保留、だな。


「ところで、そろそろお昼時じゃありませんか?」


ウィルが思い出したように手を叩く。お、そういや、もうそんな時間か。


「三人目の容疑者んとこに行くのは、メシを食ってからにするか」


となれば、宿の食堂に行こう。あそこは、味はまあまあだが、お値段はお手ごろだ。質実剛健が、我が軍勢のモットーだからな。

おかみさんの食堂は、まぁまぁ人が入っていた。宿の客だけでなく、町民たちも利用しているようだ。俺はテーブルの間を行きかうおかみさんを捕まえて、パンとスープを注文した。


「はいよ。それはそうと、あんたさんたち。グランテンプルには行ってきたのかい?」


「お、そうそう。聞いた通り、なかなか凄い神殿だったよ」


「そうだろう。ははは、若いのにあんた、見る目があるね」


おかみさんはカラカラと笑う。顔の半分を布で覆っているけれど、本人はいたって明るい人だ。


「あ、そうだおかみさん。この食堂って、町の人もよく来るんだよな?」


「うん?ああ、そうだね。お昼はこうしてよく人が集まるよ」


「なあ、それならさ……町はずれに住んでる、木こりの男のこと、知らないか?」


俺はさっき会ったダンゲルのことを訊ねてみる。予想通り、おかみさんはさっと顔を曇らせた。


「もちろん、知ってるよ。あの悪党のことだろう。あんた、なんであんな奴のこと知ってるんだい?」


「まあ、ちょっと噂を小耳に……で、悪党だって?」


「そうさ!木こりだなんて、あいつが勝手に言ってるだけ。実際は山の木を勝手に()っちまう、山賊みたいな男さね」


ふぅーん……やっぱり町の人たちからしたら、鼻つまみ者みたいだな。


「あんた、どこであの男のこと知ったのか知らないけど、関わり合いになるのだけはやめときな。顔を合わしたら、殴り掛かってくるかもしれないよ」


ははは……斧でぶった切られかけました、とは言えないな。


「肝に命じとくよ……ところでおかみさん、変なこと訊くんだけど」


「うん?」


「二週間前のことなんだ。すっごく暗かった日のこと、覚えてないかな?」


「二週間前?ああ、覚えてるよ。あの日は暗かったねぇ。手元を見るのも苦労したよ」


「そう、その日なんだ。その日に、さっきの男のこと、見かけたりしなかった?」


二週間前のその日に、マルティナは襲われた。その日、ダンゲルが何をしていたのか……宿の主人であり、大勢の人の顔を見るおかみさんなら、何か知っていないだろうか?


「さぁねえ……あの男は、町には滅多に顔を見せないからね」


「そっか……」


「あいや、ちょっとおまち。そう言えば、あいつ自身じゃないけど、その日あいつに会ったって人ならいたよ」


「おっ。その人、なんて?」


「なんでも、あの男に殴られたそうなんだよ。まったく困った男だよ」


「そりゃあ、災難だったな、その人。そういうことは、しょっちゅうあるのか?」


「まあね。でもその日は、特に不機嫌だったみたいだね。手を怪我したのか、血だらけだったみたいだよ」


「……!その怪我って、どうしたんだろう?」


「どうだかねえ。ただ、話を聞く限り、どうにも自分で付けた傷みたいだよ」


「へ?」


「ほら、その日は暗かったろ?手元が狂っただかなんだかで、斧を自分の手にぶっつけちまったんだとさ。そのことをからかったかなんかで、怨みを買っちまったみたいだね。腫れた目元を撫でながらぼやいてたから、よく覚えてるよ」


な、なに?その話が本当だとすると、ダンゲルの怪我は、仕事の怪我。それに、町の人に目撃されている……


「あ……ありがとう、おかみさん。ために、なったよ」


「そうかい?ま、あまり危ないことに首突っ込むんじゃないよ。それじゃあね」


おかみさんは奥へと戻っていった。しかし、これじゃあ……ダンゲルにも、アリバイがあるってことにならないか?だってその日、彼は木こりの仕事をしていたことになるだろ。そして怪我をした。その怪我を、町民は目撃しており、あまつさえ殴られてもいる。もし彼がマルティナを襲撃しに行っていたのなら、不運な町民は殴られずに済んだはずだ。てことは……


(ダンゲルも、犯人じゃない、のか……?)


おいおい……勘弁してくれよ。




「ええーい!こうなったら、全ての望みを三人目に託すぞ!そいつに全賭けだ!」


俺はパンを噛み砕くように食らうと、食堂を飛び出した。

朝からの調査は、進展らしい進展をほとんど見せていない。無論、土台困難な調査になることは覚悟の上だったが……こうも成果が伴わないと、なかなかしんどいものがあるよな。

この後に行くところが、最後の容疑者の家だ。ここもダメだと、いよいよ調査は総当たりしかなくなってしまう。


「何としても、そいつには犯人であってもらう!」


「桜下さん、それって冤罪って言いませんか?」


ウィルが若干引いている。うるさいな、それくらいの気合だってことだって。


「で、三人目はどんな方でしたっけ」


「ああ、えーっと……名前は、テレジア。猟師をやってる女の人だって」


「え?女の人?だって、マルティナさんが襲われたのは男性じゃ?」


「そのはずなんだけどな……とりあえず一度会ってくれ、行けば分かるって、マルティナは書いてあるんだ」


「はあ……男の人顔負けな女性、とかですかね」


「うーん……」


俺はムキムキテカテカな女性を想像してみた。どうしよう、今度は女版ダンゲルみたいな奴だったら?不安だなぁ……


「はーい!はいはいはい!」


わっ。考え事をしていたので、急に大声を上げたロウランに面食らう。なんだ?ロウランはぴょんぴょん跳ねながら、しきりに手を上げている。


「……?はい、ロウランくん」


「はい!提案があるの!」


「提案?なんか、調査法に考えでも?」


「調査法っていうかぁ。今度こそ、アタシが一緒に行きたい!」


はぁ?ロウランのやつ、まだ諦めていなかったのか。俺はがくりと肩を落とす。


「あのなぁ……さっきも言ったじゃないか。俺たちは、迷子の兄妹って設定で聞き込みするんだって。お前じゃ妹役は無理だろ」


そうだとばかりに、ライラが無い胸を張る。威張ることでもないと思うが……


「ふふん、アタシだって、ちゃーんと考えたの。要は、妹に見えればいいんでしょ」


「は?まあ、そうだけど……」


「じゃ、これでいいよね」


なにが?と訊き返す前に、ロウランはばんざいのように両手を上げた。降参?


「んしょ」


しゅっ。え?……見間違いか?ロウランの腕が、縮んだように見えたんだが……?


「よっ。はっ」


「えっ。ええ!?」


ど、どうなっているんだ!べき、ごきという音と共に、ロウランの体がどんどん縮んでいく!胴体が細くなり、足が短くなり……成長を逆再生しているよう、とかじゃない。目の前で起こっている変化を言い表すなら、恐らく“変形”が一番近い、が……


「うん、だいたいこんな感じかな。あ、声も変えないとだね」


元々の半分くらいになったロウランが、喉もとに手をやる。


「あー、あー……あーあーあー。うん、いい感じ♪」


元々高めのロウランの声は、さらに半オクターブほど高くなった。俺たちが唖然とする中、ロウランはその場でくるりと回る。


「じゃーん♪どう、かわいいでしょ?」


そこにいたのは、どう見ても十歳にも満たないくらいにしか思えない、小さな女の子だった。背丈はライラよりも低い。声には小児特有のかん高さがあって……俺、夢でも見ているのか?


「……」


「ちょっとー!何か言ってくれなきゃ、さみしいの……」


「あ、ああ……えっと、ロウラン……なんだよな?」


「そうだよ♪」


「あー……じゃあ、魔法かなにかで?」


「それはちょっと違うかな。アタシの、特性?みたいなものだって思ってくれればいいの」


「特性……」


そういえば……ロウランは自分の体を、ちょっと特別だって言っていたっけ。実体を取り戻す前、どうしてロウランの体が小さな箱に収まっていたのか、その理由が垣間見えた気がする……


「さ、行こ?これで文句ないよね、ダーリン?」


さすがに、目の前で小さくなられちゃ、ぐうの音も出なかった。小さくなったロウランは、俺の腕をぎゅうと抱きながら、意気揚々と歩き始めた。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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