表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
640/860

11-2

11-2


「ねぇねぇ、ライラの演技、うまかったでしょ?」


ウォルフ爺さんちからの帰り、ライラは得意げにくるくる回りながら、褒めて欲しそうにこちらを見てくる。


「ああ、正直驚いたよ。お前、大人は苦手じゃなかったか?」


「へへへ。頑張ったんだよ?」


「助かったぜ。俺一人じゃ、ああは行かなかっただろうから」


頭をぽんぽん撫でると、ライラは気持ちよさそうに目を閉じた。犬みたいでかわいいな。


「しかし、頑張ってもらったけど、あの爺さんはたぶんハズレだな」


「そーだねぇ。あんなおじぃさんが犯人のわけないもんね」


マルティナいわく、襲撃者は相当の手練れ。あの曲がった腰じゃ、とても機敏には動けまい。


「仕方ない。とりあえず、みんなのとこに戻ろうか」


「うん」


みんなには少し離れたところで待機してもらっている。合流してから、さっき聞いたことを話すと……


「ウォルフ老には、その日家にいたという証言がある、と」


話を聞いたエラゼムが、あごのあたりに手を添えながら言う。


「うん、爺さんの娘が見たって。だから可能性はないと思う。それに、すっごいよぼよぼだったしな」


「ふむ。見た目で判断しきれぬ部分もありましょうが……」


「あの爺さんのよぼよぼが演技だって?可能性はなくはないけど、どっちにしろアリバイがあるしな」


ライラが不思議そうに「アリバイってなーに?」とたずねてきたので、犯人じゃないっていう証明だと説明してやった。


「じゃあ、最初は空振りですか」


ウィルはうーんと唸りながら、ほっぺに指を添える。


「まあでも、嘘を言っているようには聞こえませんね。おじいさんが庭いじりをしていたというのは、たぶん本当です」


「へ?ウィル、んなこと分かるのか?」


はて、ウィルに読心術の心得が?と思ったが、ウィルの分析はかなり別角度からのものだった。


「おじいさんが育てていたっていう野菜、確かコタマネギでしたよね?」


「へ?ああ、そうだけど」


「コタマネギって、わりとありふれた野菜なんですよ。どこでもすぐ大きくなるし、手間もかからないし。前に神殿でも育てたことがあるんです。そのお家にあったものは、どれくらいの大きさでした?」


「大きさ?結構でかかったぞ。確か、窓のサッシと同じくらいの高さだったから……この辺かな?」


俺は自分の腰のあたりに手をやった。たぶん、一メートルくらいだったと思うけど。


「ふむふむ。それで確か、花が咲いていたんですよね?私の時も、だいたい二週間でそのくらいになって、花を付けました。ぴったりですよね」


「おお、確かに!それなら、爺さんが二週間前に庭にいたことは事実か。そんで、その爺さんと会話してた娘さんも事実を言っていたことになる……」


エラゼムが総括する。


「では。やはりウォルフ老は、犯人でないようですな」


うん。憶測じゃなくて、確かな証拠に基づいた推論だ。さっきよりよっぽど信憑性があるな。


「まあ、しょうがないよ。次に行こう、次!」


「ねぇ、今度はアタシが付いてきたいの」


え?ロウランがイタズラを思いついた子どものような顔で、腕を絡めてくる。


「ロウランが?だって、道に迷った兄妹作戦で行くっつったろ」


「あーん、そうじゃなくてぇ、こ・い・び・と、ってことでいいでしょ?」


ぞわぞわ。み、耳元で言わなくてもいいだろ!すると、怒った顔のライラがロウランを押し戻した。


「ちょっと!それはライラの役目でしょ!」


「あん。ちょっとくらい譲ってよぉ」


「お前は引っ込んでて!だいたい、恋人よりおばあちゃん役の方があってるでしょ」


「あー!ひどいのー!」


ハハ、まあ生まれた年を考えれば、ロウランは大大大大ばあちゃんくらいが妥当かな……

ロウランは拗ねたが、結局二回目もライラと俺で行くことになった。ライラはどこか勝ち誇った様子だ。

で、二軒目はと言うと。


「ライラ、気を付けろよ。なるべく俺のそばを離れるな」


「う、うん……」


町はずれの、古ぼけた小屋。屋根のはげかけた家が、二軒目の容疑者の家だ。家の前には、大きなまさかりと、それにぶった切られたであろう丸太が転がっている。それ以外にも、食べ物のカスやがらくた、さらには獣のものと思われる毛皮や骨なんかが、汚く捨てられていた。もう少し奥には、うえぇ。ハエのたかった排泄物っぽいものまで見える……


「噂通り、なかなかのやつだな……」


この家の主は、ダンゲルという。マルティナいわく、熊のような大男らしい。林業を営む木こりだそうだが、半年ほど前によそからふらりと流れてきて、そのまま居ついてしまったのだそうだ。山の木は勝手に切るし、素行は悪いしで、町民からは忌み嫌われている。


「玄関は家の顔とか言うけどな……」


この惨状を見るに、あまり眉目秀麗とは言えなさそうだ。家主の顔まで透けてきそうだぜ?


「よし……じゃあ、行くぞ」


俺は深呼吸をすると、木戸を叩いた。トントン。


「……出てこないな」


「いないのかな?」


「どうだろう。もう一度呼んでみっか」


今度は少し強めに、そして声も出した。どん、どん、どん!


「すみませーん!」


少し待つと、扉がいきなり、ぱっと開かれた。

戸口に立っていたのは、男のような熊だ。あ、逆だ。熊のような大男だ。

黒髪は汚らしく伸び放題。もじゃもじゃのひげはもみあげまで繋がっている。おまけに黒い毛皮の服を着ているから、本当に熊そっくりだ。

男は俺たちに気付くと、ギロリと小さな目を向ける。俺は一瞬怯んだが、すぐに気を取り直した。


「あの、すみません……ってぇ!?」


ぐい!いきなり胸倉を掴み上げられた。俺を片手で宙づりにすると、男が大声で怒鳴る。


「うるせぇぞ、クソガキが!殺されてえか!」


男の酒臭い息がぶはっとかかる。男は俺を地面に投げ飛ばすと、荒々しく扉を閉めてしまった。バターン!


「お、桜下、大丈夫?」


「ああ、いてて……」


ライラが心配そうに駆け寄ってくる。俺はお尻をさすると、立ち上がった。


「くっそー、一ミリも聞きゃしねぇ。聞いてた通りの男だな」


「ほんとだよ!どーする?ライラが家ごとぶっ飛ばしてあげてもいいよ」


「いや、それはやめとこう……でもこれじゃ、調査になんないな。しゃーなし、もう一度呼んでみるか」


「え。だいじょーぶかな……?」


「ま、腹を括っとこうか。ライラ、いつでも俺の背中に乗るつもりでいてくれ」


ライラがうなずいたのを確認し、俺は深呼吸してから、再度扉を力強く叩いた。中にはっきり聞こえるように、大声で叫ぶ。


「すーみーまーせーん!」


そしてすぐさま口を閉じて、扉に耳を寄せる。さあ、どう来るかな。

扉の向こうからは、荒っぽい足音がすごい勢いで近づいてきていた。ドス、ドス、ドス!


「やっべ。ライラ、にげっぞ!」


「う、うん!」


ひょいとライラをおんぶすると、俺は全速力で駆け出した。すぐに背後で、バァーンとけたたましい音がする。


「ぶっ殺す!待ちやがれ!」


背後を振り返ると、男が放り出してあったまさかりを担いで、こちらに駆け出すところだった。うひゃ、あいつ、正気か?

だがその時、俺は確かに見た。男の左手、まさかりを持つのと逆の手に、包帯が巻かれているのを。


「止まれ、ガキども!逃げられると思うな!」


おおっと、のんびり観察している場合じゃない!俺は風のように走った。体がでかいだけあって、男の足はそんなに速くない。が、俺もライラを背負っているからな。油断していると追いつかれてしまう。


「って、桜下!前、まえ!」


「え?うおぉ!?」


目の前に、垣根が!


「くっそぉ、ライラ!つかまってろ!」


「う、うん!」


ライラの腕が首元に回される。おりゃあ!足を振り上げると、自分でも驚くほど高く跳ぶことができた。うひゃ、本当に俺の足か?難なく垣根を飛び越え、どすんと着地する。この辺は、フランみたく行かないな。どうしてあいつは、あんなにふわっと着地できるんだろう?


「って、それはいいか。走るぞ!」


俺は再び走り出す。走ってから気が付いたけど、ここ、畑の中だ。焦ったせいで、道から外れてしまっていたらしい。どうりで、見覚えのない垣根があるわけだ。


「はあ、はあ……どうだ、ライラ?あいつ、まだ追ってきてるか?」


「うん、来てる!今ちょうど、さっきの垣根を越えてるとこ!」


しつっこいなぁ!扉叩いただけで、こんなに追ってくるか普通?だが垣根をスムーズに飛び越せたおかげで、距離をあけることはできた。このペースなら逃げきれ……


「って!なんじゃこりゃ!」


「え?う、うわ!」


じ、地面が無くなっているじゃないか!俺たちの前方で、畑が途切れている。そこから先は一段下がって、川になっていた。まさか……


「野郎!この先が行き止まりだって知ってやがったな……!」


だからあんなにしつこく追ってくるのか。ここで必ず追いつけると知っていたから。くそ、左右に迂回するしかないが、それじゃあせっかく開いた距離を詰められてしまう。後方にいるあいつは、斜めに最短距離を突くことができるからだ。


「ちぃ!俺としたことが、マヌケなミスを!すまんライラ、すぐに……」


「ううん、だいじょーぶだよ、桜下。このまま進んで!」


へ?な、何を……と思ったが、背中からライラの囁くような詠唱が聞こえてくる。魔法か!


「よし、わかった!このまま突っ込むぜ!」


俺は緩めていた足に力をこめ、全速力で川へ直進する。ライラを信じて、跳べっ!


「どりゃあああ!」


俺が足を踏み切る直前、ライラの声が響き渡る。


「ブリーズ・アイヴィ!」


ドンッ!地面を蹴ると、俺の体は弾丸のように、前方へと打ち出された。お、おおお!?はるか眼下に、川のせせらぎが見える。数秒の空中遊泳の後、俺の体はゆっくりと重力に従い、向こう岸へと着地した。


「っとと。お、驚いた……鳥になったのかと思ったよ」


「身体きょーかまほーだから、そこまでじゃないけどね。ほら見て!あいつ、びっくりしてるよ」


後ろを振り返ってみると、対岸にさっきの男が、ぽかんと口を開けて立ち尽くしているのが見えた。追い詰めたつもりが、逆に追いつけなくなってしまったな?くくくっ。俺はにやりと笑うと、のんびりとしたペースで走り出す。仮にあの川を渡ってくるとして、その頃にはとっくにはるかかなただろう。


「ふぅー。ナイスだぜ、ライラ。助かったよ」


「えへへへ。でも、ちょびっとどきどきしたよ」


「ほんとだな。聞き込みのつもりが、かなりスリリングになっちまった。怖かったか?」


「ううん。桜下が一緒だったもん。ね、これでライラたち、またいっこ、おんなじ気持ちになったよね?」


「へ?ああ、うん。そう、だな」


ひょっとして、この前のことを言っているのか?真意は分からなかったが、ライラはご機嫌そうにくすくす笑うと、もうその必要もないのに、ぎゅっと抱き着く力を強めた。な、なんだろうな。うーん……



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ