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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
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6-5

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夕方になると、谷あいにあるミツキの町は一気に暗くなる。

湯あたりから何とか回復した俺は、ウィルとフランの二人と一緒に、町はずれの竹林の中を歩いていた。ほの暗い竹林には夕方の涼しい風が吹き込み、さわさわと葉の鳴る音がする。のぼせて火照った体には気持ちよかった。


「桜下さん、ほんとうにもう大丈夫なんですか?」


隣をふわふわ飛ぶウィルが、心配そうにこちらを伺う。


「おう。ようやくまともになってきたよ。ここは涼しいし、飛んだり跳ねたりするわけじゃないしな」


この夕方の散歩に二人を誘ったのは、俺だった。調子が戻ったからっていうのもあるけど、二人にだけ話したいこともあったんだ。


「あのさ」


俺が足を止めると、二人も立ち止まった。空気を読んだのか、風すら止んで、辺りが静かになる。


「あーっと……フラン。さっきのこと、ウィルにも話すけど、いいよな?」


俺がそう伺うと、フランは少し頬を赤らめてうなずいた。そのやりとりだけで、ウィルは何となく、話を察したようだった。


「ああ、そういうことですか」


「ウィル、わかんのか?」


「男の子と女の子、二人が一緒にお風呂に行って、男の子がのぼせて帰ってきた。読解問題としては、だいぶ易しいと思います」


うっ、それもそうか……ウィルはふぅっと息をつくと、腰に手を当ててこっちを見る。


「それで?フランさんには、ちゃんと言ってあげたんですか?好きだよって」


「え……そんなことまで、わかるのか?」


「当たり前です!ていうか、好きとも言わずにフランさんにあれやこれやしたのなら、ちょっと怒りますよ?」


「え?ご、誤解だ!そういうやましいことは、一切してないぞ!」


「あれ?なんだ、てっきりキス以上のことに進んじゃったのかと」


ぐぅ、ウィルのやつ、何て鋭い……この前ウィルとあんな話をしたばっかりなのに、危うく越えかけたことは、黙っておこうっと……


「それじゃあ、ちゃんと返事はしたんですね?」


「ああ……だいぶ時間がかかっちゃったけどな」


「そうですねえ。でも、よかったじゃないですか。フランさん、おめでとうございます」


ウィルが素直に祝うと、フランは照れたように顔を逸らした。


「それじゃあ、その報告をしに、わざわざここまで?」


「それもあるけど……ウィル。お前にも、話がある」


すると、そこまで普段通りに見えていたウィルの顔が、固く強張った。


「……それって、いい話ですか?悪い話ですか?」


「そうだな……あんまり、いい話じゃないかも」


「ですか……」


ウィルの顔は、話すうちにどんどん沈んでいった。


「……やっぱり、そうですよね。桜下さん、ずっとフランさんが好きだったから。私なんかが入り込める余地なんて……」


「え?」


「いいんです。気にしないでください。でも……だったら、デートも断ってくれればよかったのに。あはは、桜下さんって、結構ザンコクなんですね?」


うわ、わ。ウィルの顔は笑っていたけど、声は完全に泣いていた。その奇妙なちぐはぐ感に、脳がバグって動かなくなる。


「待って、ウィル!この人が言いたいのは、そんなんじゃないから!」


フリーズしてしまった俺の代わりに、フランが急いで言う。お、おお。そうだった。


「ウィル、一度最後まで、俺の話を聞いてくれないか。そっから先の判断は、ウィルに任せるから」


「……はい」


鼻声がちに、ウィルがうなずいた。


「ええっと……うぅんと……わあ!何をどういう順で話そうとしてたのか、全部忘れちまった。最初から言うぞ。俺は、フランに惚れてる。シェオル島でそれをはっきり自覚した。だから何もなければ、フランの告白にそのまま応じてたと思うんだ。でも……」


「……私、ですね」


「そう。こっからするのは、すぅごく情けない話なんだけど……はっきり言って俺、それで完全にこんがらがっちまったんだ」


「こんがらがる……?」


「取り繕わずに言えば……ウィルのことも、気になるようになった、というか……」


言っていて情けなくなるが、これが俺の本音だった。

あの夜、俺は精神的にかなりグラついていた。だけどその後になっても、俺はウィルの告白を断る気にはなれなかった。それに、まさか二人が、お互いを認め合うとも思っていなかったし……とまあ、ここまでは全部、俺の言い訳だ。

だけど、それももう、終わりにしないと。こういう時、けじめをとるのは俺の役目だろう。


「ごめん!」


ばっと、頭を下げる。


「俺、どっちか一人を選べなかった。どちらかを選ぶと、どちらかとは疎遠になるだなんて、どうしても嫌だったんだ」


何度倫理というふるいにかけても、残ったのはそれだった。だから、これが俺の本心なんだろう。


「サイテーなこと言ってるのは分かってる……だから、それでもよければ、なんだけど……」


俺は恐る恐る、顔を上げた。すると、ウィルが胸を押さえて、大きなため息をついているところだった。


「はぁぁ~……なぁんだ、そうだったんですね。私てっきり、振られるものかと……」


「え、俺が?まさか、逆こそあれど、んなことしないよ」


「だって、悪い話だって言ったじゃないですか!」


「い、いい話じゃないって言ったんだ!嘘は言ってないだろ?」


「ああ、桜下さんからしたらそうですよね……でも正直、十分いい話ですよ。よかった……」


いい話、なんだろうか?まあ俺は、ウィルとフランが、三人でもいいと思っていることを知っている。だから、ちょっとズルをしているんだよな。けど、心変わりは誰にだってあるから。きちんと確かめておきたかったんだ。


「ウィルは、それでもいいのか……?」


「もちろんです。そう決めましたから」


「フランも?」


「うん。やっぱり、そう決めたから」


二人とも、決意は固いようだ……大したもんだな。俺がなんにも考えていない裏で、二人はあれやこれやと話し合っていたんだろう。


「えっと、じゃあ……これから、よろしくお願いします……」


妙に改まった口調になってしまった。改めて、二人とそういう関係になったと自覚すると、なんだか照れるな……

と、俺がもじもじしていた時だ。フランの一言を聞いて、俺は凍り付いた。


「まあそもそも、こうなるように仕向けてたんだしね。わざとあなたに聞こえるようにしたし」


へ?俺がマヌケに口を開けると、フランはこくりとうなずく。


「あの夜の、わたしとウィルの会話。あれ、わざとだよ。面と向かって言うより、偶然聞こえたほうが、あなたが受け入れやすいだろうって」


「あっ、ちょ、フランさん!それは秘密にって……」


な……なんだと?じゃあ、フランもウィルも、俺が二人の決めごとを知っていると、知っていて……?じゃあ俺が悩むことも、全部承知の上だったってことじゃないか……!


「ずっと手のひらの上だった、てことか……」


がくっと肩を落とすと、俺はその場にしゃがみこんだ。


「お、桜下さん?」


うつむいたままの俺の頭に、ウィルのハラハラした声が降ってくる。


「あの、そんなに気にしました……?」


「ご、ごめん。だって、そうでもしないとダメだと思ったから……」


フランまで焦っているみたいだ。

……ふ、ふふふ……


「ふふふふふ……」


「お、桜下さん……?」


「だ、大丈夫……?」


「……お前らぁー!いっぺん死んでみろやぁー!」


「きゃあー!と、止まって、止まって!」


「それに、もう死んでるんだけど」


「うるせぇー!!」


ここに、人間対ゾンビ&幽霊の、仁義なき戦いの火ぶたが切られた。懐かしいな、前にもこんなことがあった気がする。あの時の結果は、人間の惨敗だったけれど……まあ、歴史は繰り返すって言うしな。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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