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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
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「た、倒すっ!?ダイダラボッチを!?」


一番驚いたのは、やっぱりというか、アルアだった。


「できっこない!あいつは、不死身なんだってば!」


「いいや、そう見えているだけだ。そもそも、普通の生き物が不死身だなんて、おかしな話なんだ。だから必ず、そこにはカラクリがある……たぶん」


最後の方に自信が揺らいだ。俺が閃いたコレは、あくまで仮説にすぎない。百パーセントあっている保証はないけれど……


「わかった。わたしは、何をすればいい?」


フランは当たり前のように、そう言ってくれた。少しも疑ったりせずに、ただ俺の言葉を待っている。信頼、してくれているんだ。俺は胸が熱くなった。


「フラン。奴の、“足下”だ。どうにかして、そこまで行ってほしい」


「足下?そこまで行ったら?」


「たぶん、そこまで行けば、全部分かるはずなんだ……その先は、フランに任せてもいいか?」


「わかった。その場の判断ってことね」


フランはやっぱり、こくりとうなずいた。そんなフランだからこそ、俺も任せられるんだ。


「で、俺たちの方は、フランが邪魔されないようにサポートに回る。魔法でなら一時的に無力化できるから、それで……」


「それなら、アタシに任せてほしーの」


おっ。ロウランがぴしっと手を上げた。


「せっかくの復帰戦なんだから、アタシもいいとこ見せたいな」


「ロウラン、行けるのか?」


「あの白いのが、そのコんとこに行かないようにすればいいんでしょ?お安い御用なの」


ロウランは胸を張ると、そこをとんと拳で叩いた。


「わかった。ロウラン、頼む」


「えへへへ。頼まれたの♪」


ロウランのやつ、ずいぶんはしゃいでいるな。よっぽど実体に戻れたのが嬉しいのか?


「よーし。それなら、タイミングを合わせよう。一、二の、三で、ロウランはドームを消してくれ。それと同時に、フランがスタートだ」


「わかった」「りょーかいなの」


「みんなは、万が一に備えて、防御の準備を頼む」


「わかりました」「うん!」「御意に」「はいはい」


うっしゃ、作戦開始だ!フランがぐっと姿勢を低くし、スタート位置につく。ロウランがカウントを開始した。


「それじゃあ、いくよぉ。いち、にぃの……」


ドクドクと、耳の奥で音が鳴っている。緊張と興奮で、はち切れそうだ。俺のひらめきには自信がある。だけど、絶対の保証はない。頼むぜぇ、うまくいってくれ……!


「さんっ!」


シャァ!俺たちを囲っていた金の膜が、一瞬でなくなった。それとほとんど同時に、フランがどんっと飛び出す。


「ううっ……!」


俺は息をのんだ。ロウランが言っていた通り、ドームの外側には、おびただしい数のダイダラボッチの触腕がひしめいていた。俺たちがこもっている間に、さらに数を増したようだ。フランが走る足音を聞きつけて、触手が彼女を追い始めた!


「ロウラン!」


「そうは、させないのっ!」


ロウランが腕を伸ばすと、彼女の全身から伸びた金が無数のワイヤーとなって、触手に絡みついた。ギチィ!


「つっかまえたの♪」


「ははっ、いいぞロウラン!フラン、いっけー!」


ロウランがダイダラボッチの動きを封じている間に、フランは猛スピードで駆け抜け、あっという間に森に消えていった。よし、これなら……


「あれ?うわわわ!」


お、おお!?ロウランの体が引っ張られて、ふわりと宙に浮く!


「ロウラン!」「ロウラン嬢!」


俺とエラゼムが飛びついて、なんとかロウランの体を捕まえた。


「ごめんなの!あっちも、本気を出してきたみたい……!」


ロウランはぺろりと唇を舐めると、再びぐっと腕を伸ばす。触手が振りほどこうと、とんでもない力で引っ張っているんだ。


「おとなしく、する、のぉぉ……」


ギチギチと、ロウランから伸びる金がしなっている。今ロウランは、ダイダラボッチ相手に、力勝負の綱引き対決を仕掛けているんだ。今のところ、勝負は五分だが……

だが相手には、フェアプレイの精神はないみたいだ。ダイダラボッチは、新たな触腕を生やしてきた!


「あいつ、きたねーぞ!」


「ふ、ふーん。そっちがそう来るなら、こっちにも考えがあるよー……!」


さわさわさわ。ロウランが体に巻いている包帯が、風に吹かれたようにうねうねと動き始めた。


「これで、どうだ!」


シャアアー!包帯がほどけて、猛スピードで飛んで行く!って、え?明らかに、巻いてあった長さよりも長くないか!?まあとにかく、その包帯は、新たに生えた触手に絡みついた。


「まだまだなのぉぉぉ!」


う、うわ。ロウランが叫ぶと、絡みついた包帯がさらにぐんぐん伸びていく。包帯はぐるぐるとダイダラボッチの周りに渦を巻き、触手どころか、ダイダラボッチの上半身をほとんど覆い隠してしまった。


「はぁ、はぁ……包帯法、完了なの……♪」


ひ、ひええ。山ほどもある怪物を、ぐるぐる巻きに……何メートル、いや何キロ分の長さがあるんだろ……俺が目の前の光景にぽかんとした、その瞬間だった。

パーン!

突然、あぶくが弾けるような音がした。


「あれ?」

「うわっ!」

「ぬおっ!?」


俺とエラゼムとロウランは、そっくりそろってひっくり返った。ドッシーン!ライラが驚いた顔で、倒れた俺たちのそばに膝をつく。


「ど、どうしたの?みんな……」


「い、いや。急に軽くなってな……」


「軽く?」


「ああ。綱引きの綱を、ぱっと放されたみたいにさ」


さっきまで必死に押さえていたロウランの体が、きゅうに引っ張られなくなったんだ。綱を放された、ということは……俺は体を起こして、ダイダラボッチがいたあたりを見た。


「っ!しゃあ!ビンゴだ!」


いやっほう!俺は思わず小躍りしたくなった。ロウランの包帯がはらはらと解けていくと、中にいたダイダラボッチの姿は、跡形もなく消えていたからだ。


「フランのやつ、上手くやったんだな!やった、勝った!」


「や、やったー?」


よく分かっていない顔のライラの手を掴んで、俺はくるくると踊った。


「か、勝った?んですか?」


やっぱりよく分かっていない顔のウィルは、喜んだらいいのか、それともまだ気を引き締めるべきなのか、決めかねているみたいだった。


「はあ、あはは。そっか、ごめんごめん、ちゃんと説明してなかったな」


回り過ぎてライラが目を回してしまったので、俺は腰を下ろした。仲間たちも輪になって座る。あ、アルアだけは呆けているので、その輪には加わろうとしなかったけど。


「ええっと、何から話せばいいか……」


するとウィルが、おずおずと口を開く。


「まず、フランさんが何をしに行ったのか、教えてくれませんか?」


「ああ、そうだな。フランには、ダイダラボッチの本体を叩きに行ってもらったんだ」


「ほ、本体?」


俺はこくりとうなずき、ウィルはぽかんと口を開けた。


「あのダイダラボッチは、偽物だったってことですか?」


「偽物というか、仮の姿というか。俺は、あのダイダラボッチを、別の何かに操られてるものだって考えたんだ」


「操られている?」


「そ。ちょうど、人形劇みたいな要領でさ。あいつは、泡でできた巨大な人形だったんじゃないかな」


「人形……にわかには、信じられません。どうして、そんなことに気付いたんですか?」


「いくつかあるけど……まず、あいつが不死身だったこと。けどさ、やっぱりおかしいだろ。死なない生き物なんて、ありえないよ」


「それは、まあ……」


「で次が、あいつに電気が流れてたこと。これで、俺はあいつが人形だって確信したんだ」


「はぁ……どうして電気が流れてると、人形確定なんです?」


おっと、それの説明は難しいかもしれない。だって、俺がそれに気づいたのって、ロボットを思い出したからなんだ。ロボットは、電気で動くだろ。そうじゃないロボもいるかもだけど、ほとんどはそのはずだ。で、ダイダラボッチが電撃攻撃をしてこなかったことから、電気は攻撃目的に使用されていないことが分かった。攻撃以外の電気の使い道が、俺には動力しか思いつかなかったんだ。


(ただ、それをどう説明すっかな)


ロボットは、前の世界じゃありふれていた。けどこの世界には、電子機器なんてあるわけがない。ロボットを知らないみんなに、一からロボットの説明ができるほど、俺も機械に詳しくないしな……


「まあ……知識と、直感、かな?」


結局俺は、そうはぐらかした。ウィルとライラは、素直におぉーっと感心してくれている。う、ちょっとだけ罪悪感……


「けどそんなら、どうして本体が足下だって分かったのよ?」


アルルカからの質問だ。やつにしては珍しく、興味津々な様子だった。


「それはまあ、消去法かな?」


「はぁ?」


「いやまあ、そこには俺も確信がなかったんだけどさ。あいつって、音に敏感に反応してただろ?逆に言えば、音しか情報源がなかったのかなって」


「……どういうことよ」


「まあ単純にさ、俺たちが見えない位置に居たんじゃないかな」


「見えない……」


「うん。でもって一度、ライラがあいつの体を吹っ飛ばしてる。だからあいつの体、頭とか腕とかには、本体はいないって分かった。そこにいたなら、俺たちが見えてたはずだしな。そうなると残るのは、俺たちが見えない位置にあって、なおかつダイダラボッチのすぐそばの場所だけだ」


「それで、足下ってわけね……」


俺は再度うなずいた。ずーっと木々に隠れて見えなかった、あいつの下半身が怪しいっていうのは、割とすぐに思い至ったことだ。


「ただし、音を頼りにしているのなら、ここからうーんと離れた場所に潜伏している可能性もあった。だから確証はなかったんだけど……」


「それもそうね」


「ただ、一度ライラが体を吹き飛ばした時、あいつは足下から徐々に再生したからな。本体がそこにいたからこそ、そういう復活の仕方をしたんだろうなって」


「……」


アルルカは腕を組んで、俺の推理を反芻しているようだ。エラゼムががしゃりとうなずく。


「相も変わらず、見事な観察眼ですな、桜下殿。ではフラン嬢がその本体を叩いたことで、あの巨人が消え去ったということですか」


「そういうことだと思う。ただ、本体がどんなのかまでは、さっぱりわかんねーな。そこは、フランが戻ってきてから……」


っと。噂をしたそばから、足音が近づいてきた。すぐに木々の間から、フランが髪をなびかせて戻ってきた。


「フラン、おかえり!上手くやってくれたんだな」


「まあ、うん。ほとんど何もしてないけど」


うん?フランは何とも言えない、微妙な顔をしている。何かあったのか?


「フラン?どうした?」


「……見てもらったほうが早いか。これ」


そう言ってフランは、ガントレットのはまった手を差し出してきた。手に何か握っているようだ。俺たちみんなが注目する中、ぱっと、フランが手を開く。すると、そこには……


「な?なんだ、これぇ?」


「虫、ですか?」


そこにいたのは、数センチ程度の大きさしかない、小さな虫だった。どことなくセミに似ているけど、頭には角が生えている。だけど、それだけだ。


「え、フラン?もしかして、こいつが?」


「……うん。あの化け物の足下に行ったら、こいつがたくさんいた。わたしが近寄ったら、みんな一斉に逃げて行って。それと同時に、化け物の体が消え去った」


「なんと……」と、エラゼムが呆れたようにつぶやく。


「では、ダイダラボッチの正体は、小さな虫……」


なんてこった。俺も力が抜けてしまった。あの馬鹿でかい巨人を、こんな小さな虫が操っていたのか?

俺たちが呆れている中、フランの手の上の虫は、ぷくぷくと泡を吐いて威嚇していた。やがて羽を広げると、ぶーんと森の方へと飛んで行ってしまった。


「……幽霊の、正体見たり、枯れ尾花なんていうけれど……」


なんとまあ、びっくりだ。幽霊と聞いて、ウィルが首をかしげているけど、説明する気にもなれない。


「し……信じられない……」


あん?俺は声のした方へ振り返った。そこにいるのは、腰を抜かしていたアルアだ。ぽかんとしたアルアは、静かになった夜の空を見上げて、それから俺たちを見つめた。


「あなたたち……ダイダラボッチを、倒したの……?」


「倒したというか、追っ払っただけだけどな」


「だとしても、信じられない……あいつは不死身で、誰だって敵わなかったのに」


「ん、まあ、不死身も不敗もありえないってことだ……さてと。フランが追っ払った虫たちも、またいつ戻ってくるかも分からないな」


エラゼムが同意する。


「長居は無用ですな。ライラ嬢、お疲れでしょうが、馬を呼び出せますか?」


「うん!任せて」


すっかりエラゼムと仲直りしたライラは、素直にストームスティードを呼び出した。俺はアルアの馬を見る。


「アルア、あんたの馬、ちゃんと走れそうか?」


アルアの茶色の馬は、騎手と同様に、地面に倒れて呆けている。怪我をしたってよりか、ショックが大きすぎて腰を抜かしているようだ。俺の問い掛けに、アルアははっとして、馬をなだめ始めた。幸い、それから五分と経たずに、馬は再び立ち上がってくれた。馬も馬で、恐ろしい存在がいなくなったことを理解しているみたいだ。


「よし。かなりの回り道になっちまったけど、当初の予定に戻ろう。さあ、とっとと森を抜けようぜ」


「わ、わかった」


アルアはたどたどしく返事をすると、俺たちの先を進み始めた。森は再び静かになった。ダイダラボッチの脅威が去った以上、多少のひづめの音は気にしなくていい。俺たちはなるべく急いで、夜の森を駆け抜けた。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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