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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
15章 燃え尽きた松明
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3-3

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ソトバの村に着いたのは、西日がまぶしい時間帯だった。

川沿いに作られた小さな集落には、前の世界で言うところの田園のような畑が広がっていた。陽が落ちてきて、カエルがクアクアと鳴く声が聞こえる。


「なんでこの畑、水浸しなんだろ?」


ライラが馬の上から身を乗り出している。エラゼムが心配そうだ。


「ライラさん。きっと、雨でダメになっちゃったんですよ。かわいそうに……」


ウィルが神妙な声を出すもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。


「ぷはは。ウィル、たぶん違うよ」


「え?違うって、何がですか?」


「これで正しいんだ。この作物は、水の中で育つんだよ」


「へ?そうなんですか?」


これが稲かどうかは分からないけど、田んぼを作るってことはそういうことなんだろう。


「水の中で育つなんて……一体、どんな野菜が採れるのかしら……」


ウィルは稲作を知らないらしい。ふむ。でも確かに、こっちの世界じゃ珍しいよな。実は全く別物だったりして。どっちにしても、少し懐かしい光景だった。

さて、村や町についてまず初めにすることは、宿をとることだ。いい加減旅慣れてきた俺たちは、何も言わずとも、全員が自然と宿を探す形になる。がしかし、ここでもアルアとは足並みがそろわない。


「あれ、アルア?どこ行くんだ」


「私は、私で宿を取りますので。何かあったら呼んでください。では、ごきげんよう」


アルアはちっともご機嫌じゃない顔でそう告げると、さっさと行ってしまった。何も、同じ部屋に泊まろうって言ってんじゃないんだぜ?なのに、宿すら変えるとは……同じ屋根の下にいることすら耐えられないらしい。ここまで来ると、病気だな。


病名:慢性二の国の勇者アレルギー症候群

症度:重症、ほぼ不治

感染:遺伝に限る

症状:二の国の勇者に対して、非常に強い嫌悪感を抱く。症状がひどい時には、無関係な人間に八つ当たりすることも辞さない、はた迷惑な病。


ふうむ。医学会に、レポートを書いて提出してみようか?そんな学会がこの世界にあるのか、知らないけど。




宿を決め、食事も済み、俺たちは部屋でゆっくり過ごしていた。陽が暮れると、外ではカエルの大合唱が始まる。やかましいとは思わないが、なかなかに圧巻だ。そんなカエルたちに興味を引かれたのか、今フランはただ一人、宿の外へと出ている。最近ようやく知ったことだけど、フランは小さな生き物が好きみたいだ。


「ぬうぅ~ん」


さて、俺は今、群青色の小箱に手をついて唸っている。この子箱の中には、ロウランの“本体”が収まっているのだ。


「はあっ。どうだ?ロウラン」


「うん、いい感じなの」


俺の隣に浮かぶ霊体のロウランは、手を握ったり開いたりした後、にっこり笑った。


「もうだいぶ、カラダの感覚が戻ってきたみたい。ほら」


うわっ。手の下の箱が、ゴトゴトと動いたっ。


「い、いい感じみたいだな……でも、こんな小さいのに、本当に体が入ってるのか?」


「まあね。アタシ、ちょこっとカラダが、人と変わってるの。うまいことやれば、結構色々いじれるんだよ?」


「へ、へぇ~……」


何をどう、いじるっていうんだろう……怖いから訊かないけどさ。


「ロウラン嬢が力を取り戻しましたら、頼もしい仲間となりそうですな」


俺たちの様子を見ながら剣を研いでいたエラゼムが、手を止めて言う。


「ロウラン嬢は確か、金属を操る魔術を使えるのでしたな」


「そうだよ。金属って言っても、何でもってわけじゃないけどね。主には鉄を、なの」


「鉄を操るって、属性で言うとなんになるんだ?」と、俺が口を挟む。するとそれに答えたのは、ライラだった。


「たぶん、鉄属性まほーじゃないかな」


「鉄属性?んなもんがあるのか?」


「うん。とっても珍しい属性だよ。まほーというよりは、錬金術に近いみたい」


「へえー(魔法と錬金術の違いってなんなんだ?)……珍しいって、光とか、闇くらい?」


「ううん、そこまでじゃないよ。割合的には、三属性持ちとおんなじくらいかな」


「ああーん、アタシが説明したかったのにぃ」


お株を奪われて、ロウランは拗ねてしまった。鉄属性、また不思議な属性魔法だな。思い返せば、俺が最初に出会ったアンデッドである、あの骸骨剣士もこの魔力を持っていたのかもしれない。

あ、珍しい属性と言えば。


「なあエラゼム。前に、メアリーさんは光の魔力を持っていたって、言ってたよな?」


「ええ。その通りです」と、エラゼムがうなずく。


「え?エラゼムの知り合いに、光の魔力の持ち主がいたの?」


ライラが目を丸くしている。あれ?ここに来るときに、それは話したはずじゃなかったか。あそっか、あん時ライラって、寝起きで寝ぼけていたのか。


「ライラ、エラゼムの城主さまが、光の魔力を持っていたんだ」


「へぇ~。あ、だから光の魔力の噂があった町に向かってるんだ」


「お前、今まで理解してなかったのか……?」


俺が呆れると、ライラはえへへ、と頭をかいた。


「でもそれなら、そのじょーしゅしゃ()まは、大変だったんだね」


「え?大変?」


「だって、そうでしょ。光の魔力は、奇跡のまほーを使えるんだよ。そんな強い力を持てったら、絶対大変な目に遭うよ。ライラみたいにさ」


おっと、それは……確かにそうだ。強い力を持つ人は、何かとトラブルに巻き込まれやすい。それに確か、エラゼムはメアリーが、自身の力のことを隠していたって言っていたはずだ。


「エラゼム、だからメアリーさんは、魔力のことを隠していたのか?」


するとエラゼムは、重々しくうなずいた。


「ライラ嬢のおっしゃる通りです。まさにそれを嫌って、メアリー様は力のことを秘匿しておりました。それでもなお、どこかで噂を聞きつけたのか、(よこしま)な連中は後を絶ちませんでしたが」


「うわ。やっぱり、そうなんだ……」


「はい。力が目当ての者、力ある者を伴侶にしたい者、力を利用して一儲けしたい者。実に様々でした。騎士としてお(そば)にお仕えする傍ら、辟易するメアリー様を何度も目にしたものです……」


そこでいったん言葉を区切ると、エラゼムは考えるようにうつむいた。


「……故にメアリー様は、行き先も告げずに、姿をくらませたのやもしれません」


「え?」


「メアリー様は、母方の実家であるグラスゴウ家に向かうと言って、城を旅立って行かれました。しかし実際には、グラスゴウ家の墓に、メアリー様はいらっしゃらなかった……」


うん、そうだ。あの北の果ての町で、俺は実際にこの目で確かめた。


「吾輩は、メアリー様が旅の途中で不慮の事故に遭い、命を落とされた可能性も考えました。ですが、吾輩たちが北へと向かう途中に寄ったどの町にも、メアリー様の痕跡はなかった……無論、大昔の事。痕跡が残っていない可能性もございます。しかし、なんと言いましょうか……吾輩には、もしそこにメアリー様が眠っておられたのなら、それが分かる気がしているのです。根拠も何もない、ただの六感ではありますが」


「いや、分かる気がするよ」


もしもそんな形で、メアリーが命を落としたのなら……きっと、未練が残ったはずだ。だとしたら、ネクロマンサーである俺も、絶対に気付く。


「はい……そこから考えるに、恐らくメアリー様は、北などはなから目指してはいなかったのだと思われます。初めから、どこか見知らぬ土地へ行くつもりだったのだろうと……」


「それは……光の魔力を、隠すためにか?」


「それもあったとは思います。加えて、メアリー様を取り巻くしがらみ……当時二の国では、家督を継ぐ者は長男もしくは長女でした。どちらもいる場合は、より生まれが早い者が優先されます。遅かれ早かれ、メアリー様はお世継ぎをもうけるために、どこぞの名士と婚礼を挙げることになっていたでしょう。それを、あの方は渋っておられた……恐らく、自分の力目当てに擦り寄って来る男に、うんざりしていたのでしょう」


「だから、自分の事を誰も知らない土地へと旅立った、か……」


なるほどな……メアリーがその後どうするつもりだったのかは、俺にも分からない。自分の存在が忘れられたころに戻るつもりだったのか、それとも一生戻るつもりがなかったのか。ただ、結果として、彼女は戻らなかった。そして城は、今はもぬけの殻になっている。


「その気持ち、分かります……やっぱり結婚は、好きな人としたいですものね」


うわ。いつの間にかウィルが、話の輪に加わっている。なんだかちらっとこちらを見た気がするけど、気が付かないふりをした。まだ正式に付き合ってもないのに、気が早すぎる!


「アタシもわかるの。結婚するなら、大好きなダーリンとがいいもの」


ロウランが首に腕を絡めて引っ付いてくる。まったく……いい加減、このくらいのスキンシップには慣れてしまった。


「嘘つけよ、ロウラン。お前は結婚した相手を好きになるタイプだろうが」


「ああー、ひどーい!ダーリン、アタシの愛を疑ってるの!?この愛が本物だって、教えてあげよっか?」


ロウランはそのまま、じりじりと顔を近づけてくる。


「うわ、やめろ!近いってば!」


「近づけてるもの。このままだと、どうなっちゃうと思う……?」


ひ、ひぃ!俺がジタバタともがいていると、後ろでんんっ、と咳払いが聞こえてきた。


「ちょっと。盛りあってるとこ悪いんだけどね」


お?ロウランが動きを止めたので、俺はそのすきに腕をほどくことに成功した。ふう、助かった。

振り返ってみると、アルルカが窓のそばに立って、こちらを見ている。


「アルルカ、ナイスアシストだ」


「いや、そんなつもりじゃないわよ。じゃなくて、いちお、言っといたほうがいいかなってね」


「ん?なにを?」


するとアルルカは、窓の外を指さした。


「さっきまでそこにいたゾンビ娘が、いなくなってるわよ。どっかに走って行ったわ」


「へ?」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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