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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
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俺は、ウィルを見つめていた。幽霊であり、シスターであり、料理上手であり、そして戦闘は得意じゃなかったウィル。そのウィルが、この戦いの鍵を握っているのだ。


「……はい。ライラさん、さっき私が訊いた事、覚えていますか?」


ウィルは、俺が抱っこしているライラに目線を合わせた。ライラがうなずく。


「うん。オーバーフローのことだよね。考えたんだけど、一つだけ、相性の良いまほーがあるの。“ファイアアント”って言うんだけど」


「ファイア、アント……?」


ウィルの顔が曇る。俺の知る限り、そんな名前の魔法をウィルが使う所は、一度も見たことがなかった。たぶん、覚えていない魔法なんだ。


「ごめんなさい、ライラさん。その魔法は……」


「ううん、あのね。ファイアアントは、ファイアフライととってもよく似たまほーなんだよ」


「え?」


ウィルの顔に、再び力が戻る。


「マナ配列が近しいってことですか?」


「うん。ていうか、ほぼ同じ。ファイアアントは、ファイアフライのマナ回路をいくつもコネクションしたサーキット構築をしてるんだ」


「それは、中心座標固定式のオーバーレイという意味ですか?」


「そう。二方向からマナが流れるときに、共鳴現象で副次回路が設定されるでしょ?それを利用するんだけど……」


な、何の話をしているんだろう。俺には全く分からなかったが、話が進むほどに、ウィルの顔色は明るくなっていった。少なくとも、いい話らしい。


「……ってことだから、マナをオーバーフローさせればさせるほど、威力を上げることができると思うんだ。ただ、その分制御はすごく難しくなると思う……」


なんとか、最後の部分だけ理解することができた。できるにはできるが、難易度は相応に高いらしい。大丈夫だろうか……?

ウィルは一瞬怯んだ顔をしたが、すぐにきりっと顔を上げた。


「……やってみます。女は、度胸です!」


おお!ははは、言いやがったぞ、こいつ!


「いいぞ、ウィル!」


俺が拳をぐっと握ってガッツポーズをすると、ウィルは照れ臭そうにはにかんだ。


「自信は、あんまりないんですけどね」


「いや、そんなこともないだろ。だっていっつもウィルには、無茶振りばっかしてきたしな」


「ううう、本当ですよ……」


ウィルはしょぼんと肩を落とす。でもウィルは、なんだかんだ言いながら、こういう場面では決めてきている。王都では失敗したけど、それをバネにして、見違えるほどいろんな魔法を使えるようになったよな。だからこそ俺は、自信を持って言えた。


「きっとうまくいくさ。大丈夫、自信持ってかましてこい!」


「桜下さん……はい!」


よし、そうと決まれば作戦会議だ!次の攻撃のインターバルまで、あまり猶予はない。俺は早口で、自分の考えを伝えた。


「いいか、ウィル。お前には、あのでかい手の指先まで行ってほしいんだ」


「ギリギリまで近づいて、不意を突くってことですね。私の姿は、あの魔導士には見えませんから」


「そういうこと。そこで、ありったけの高温をぶつけて欲しい。で、ここがミソなんだけど、魔法を撃つのは、あのジジイが攻撃する手前くらいにしてほしいんだ」


「え?でも、それだと……私が魔法を撃ったすぐに、水の魔法がぶつかる形になりませんか?」


ウィルの疑問ももっともだった。火に水を掛けたらどうなるかなんて、それこそ火を見るよりも明らか、ってやつだ。けれど、その火が、とてつもない温度のマグマだとしたら。


「炎魔法は、水属性と相性が悪いんです。どれだけ威力が高くても、基本的に勝てはしませんが……それでも、いいんですか?」


「ああ。俺の考えが当たっていれば、それで大ダメージを与えられるはずだ……」


つっても、確証があるわけじゃない。おぼろげな知識の上に成り立った、おぼろげな作戦だ。くうぅ、不安なのはウィルだけじゃないってことだ……けど、口には出さない。俺がウィルを信じているように、ウィルも俺を信じてくれている。それを知っているから。


「……わかりました。どのみち、私は魔法の維持で精いっぱいで、自由に操るなんてとてもできそうにありません。当てればいいだけなのであれば、好都合ってもんです」


「そうだな。魔法同士がぶつかりさえすればいいから、事はそう難しくない……」


と、そこまで言いかけた時、エラゼムがかすれた声で、兜をゆるゆると振った。


「いえ。存外、甘くはないかもしれませぬぞ」


「え?」


「ウィル嬢は幽霊ですから、敵に知覚されません。ですが、魔法が発動すれば、さすがにあの魔導士も気が付くでしょう。その時点で警戒し、攻撃を中断するやもしれません」


あ……確かに、そうだ。突然空中に炎が上がったら、普通は手を止めるよな。


「ですので、魔法を撃つのは、攻撃の直前でなければなりません。当然、遅すぎても失敗です。攻撃が発射されれば、その時は……」


「俺たちを直撃、か」


するとウィルは、老魔導士が魔法を撃つ寸前のタイミングを見計らって、カウンター気味に魔法を撃たなきゃいけないことになる。しかもその魔法は、一度も使ったことのない、完全初見の魔法だ。これは……俺が提案しておいてなんだが、かなり厳しいぞ……


「……水を差すようで、申し訳ございませぬ」


エラゼムがすまなそうにうなだれる。


「いや……大事なことだよ。事前に知っておいてよかった……な?」


「はい……」


けどウィルも、明らかに勢いを失ってしまっていた。

土台無茶な上に、さらに厳しい条件まで追加になるなんて……ウィルを信じてはいるけれど、これは信頼どうこうの問題じゃなくなってきた気がするぞ。信じないのも問題だけど、信じているの一言で、あらゆる難題をウィル一人に背負わせるのは、あまりに酷だ。エラゼムもそれが分かっていての発言だったんだろう。


「それなら……」


「ん?」


「それなら、ライラが合図を出すよ」


俺の腕の中で話を聞いていたライラが、ウィルを見ながらうなずいた。


「おねーちゃんの代わりに、ライラがタイミングを計る。それならおねーちゃんは、まほーに集中できるでしょ」


「え、でも、それは……ライラさんの腕は、私もよくよく知っていますけど。でも、私の詠唱の速さなんて、分かりっこないじゃないですか。だって、私自身も初めてで分からないのに……それに、あの魔導士の場合もそうです」


「うん。でも、おねーちゃんがまほーを使う所は、ライラ何度も見てきたもん。あいつのも、さっき何回か見た。たぶん、できるよ」


「で、ですけど……」


「心配なら、一度れんしゅーしてみよ?そうすれば、だいたいの詠唱時間がわかるよ」


おお、それは名案じゃないか。一度試しておけば、本番でも心強いだろう。ウィルはほっとした顔で、それなら、とうなずきかけた。


「あー。悪いけど、そんな暇はないみたいよ?」


は?振り返ると、アルルカがしかめっ面で、背後に親指を向けていた。


「動き出したわ。次が来るわよ」


な、なにっ!本当だ、魔導士の操る手が、ゆっくりと動き出している!


「ままま、まずいぞ!ウィル、急げ!」


「えええ!?そんな、無茶ですよう!」


「ああーもう、うるさいわね。落ち着きなさい!」


アルルカにぴしゃりと言いつけられて、俺たちは口をつぐんだ。


「一発くらいなら、あたしが何とかしてあげるわ。けど、この一回っきりよ。次はないわ……だから、一度で確実に決めなさい。分かったわね」


ごくり……ウィルが生唾をのむ音がする。だがすぐに、アルルカの目をキッと見つめ返した。


「分かりました。どのみち、何度もチャンスがあるとは思っていません……やってやります」


どうやら、腹を括ったようだ……これは、俺も覚悟を決めないとな。


「よーし……一回こっきりの、反撃作戦だ。みんな、覚悟はいいな……?」


さあ、作戦開始だ……!



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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