表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
584/860

11-3

11-3


「桜下殿、皆様。お怪我はございませぬか?」


おっと。考え込んでいたところに、しんがりのエラゼムが追い付いてきた。


「ああ、エラゼム。おかげさまで、なんとかだ」


「なによりです。して、何か思案中でしたか。お邪魔をしたようなら、申し訳ない」


「いや、大したことじゃ……なんか、引っかかった気がするんだけどさ。よく分かんなくて」


俺自身、さっきのがひらめきなのか、それとも単なる思い違いなのか、分からなかった。


「けど、桜下さん。さっき何か、言いかけてませんでしたか?」


ウィルにそう訊かれて、思い出した。


「そうだった。一つ思ったことがあったんだ」


すると、エラゼムが後ろを振り返りながら言う。


「それならば、しばしの猶予があるかと。次の攻撃は、今すぐには飛んでこないはずです」


「え?それはどうして」


「先ほどと初めの攻撃、間隔がほぼ同一でございました。おそらく、詠唱の時間(クールタイム)ではないかと」


「ああ、なるほど!」


冷静なエラゼムは、あの状況下で、正確に敵を分析していたのか。大したもんだな、まったく。


「それなら、ちょっとの余裕があるな」


あのじじいは今、超巨大な要塞を操っている。それと同時に強力な魔法を撃つのは、かなり難しいに違いない。連発は出来ないんだ。


「よし、じゃあ今のうちに話をまとめよう。俺がさっき思ったのは、あのでかい手もミクロに見れば、パーツの集合体に過ぎないだろってことなんだ」


「……え?みくろが、なんですか?」


む、ウィルには伝わらなかったらしい。それか、ミクロという単位は、こっちの世界には存在しないのか。


「ええっと、つまりだ。前にアイアンゴーレムと戦った時のことを思い出してくれ。あいつはカチカチだったから、足の関節とかを狙ってただろ。そして最後には、核をぶっこわしてとどめを刺した」


「え、ええ……なら今回は、あの大きな手の関節を攻撃するってことですか?」


「それもいいと思ったんだ。アルルカの氷で動けなくすれば、無力化できるんじゃないかって。でも、今は……」


そう。アルルカは連日の奮戦がたたって、魔力が限界寸前だ。事情を把握していないエラゼムが首をかしげていたので、俺はそのことを伝えた。


「そうでしたか……アルルカ嬢も、獅子奮迅の活躍でしたからな。しかし、それではその案は、却下せざるを得ませんな」


「ああ……残りは、核を狙う方法だけど」


「核って、どこになんのよ?」とアルルカ。それに答えたのは、俺が抱いているライラだった。


「……術者。あの魔導士だね」


「その通りだ。あのじじいを直接叩けば、屋敷全体の機能を停止させられる、んだけど……」


「でも、どこにいんのか、わかんないじゃない」


「そこなんだよなぁ」


老魔導士の声は、屋敷そのものから響いている。場所の特定は困難だった。ウィルが自分の唇を引っ張りながらまとめる。


「では、今現状、取り得る案としては……あのおっきな手の、関節部分を狙って攻撃していく、ってところでしょうか。ただそのためには、空を飛びでもしないと届きません。私の炎はほぼほぼ無力ですから、実際はアルルカさんに頼ることになっちゃいますけど……」


(……んん?)


む、まただ……なんなんだ、さっきから。今もまた、ウィルの“炎”という言葉を聞いた瞬間、頭の中にノイズのような違和感が走った。


(何に引っかかってるんだ?ウィルは、自分の魔法じゃ歯が立たないって言っただけだろ)


それは、事実なように思える。ウィルは、超高火力の魔法は使えない。ファイアフライで火の玉を出しても、あのウォーターカッターの前じゃ、一瞬でかき消されるだろう。まさに、焼け石に水……


「……焼け石に、水……?」


「え?桜下さん?」


呟いた俺に、ウィルが怪訝そうな顔を向ける。他の仲間も、こっちを向いた。


「焼け石が、どうかしたんですか?」


「……焼けた石に、水をかけるとどうなる?」


「はい?それは、じゅうぅってなるでしょうけど……煙がもわぁって」


ウィルは、ロッドを持っていないほうの手をひらひら動かして、煙が立ち上るジェスチャーをした。煙……水蒸気……


「……あっ!」


「ひゃっ。桜下さんってば、さっきからどうしちゃったんですか?」


「これだ!いけるかもしれない!ああけど、原理がなぁ……」


「???」


ウィルは頭の上にハテナを浮かべている。だけどこの作戦、もし実現可能だとしたら、キーになるのは他でもない、彼女だ。


「確かめてる暇はないか……!よし、ウィル!お前、何か高熱が出せる魔法、持ってないか!?」


「え?え?高熱?えっと……トリコデルマじゃ、ダメですか?」


「いや、できればもっとだ……」


俺にも、具体的な温度は分からない。だけど、生半可じゃ駄目だ。


「もっと高温の……それこそ、溶岩くらいの」


「溶岩……」


ウィルは眉根をぎゅっと寄せている。難しいか……


「……私の魔法では、そこまでの高温はだせません。すみません、私には……」


……ん?そこまで言って、ウィルはぴたっと固まってしまった。ど、どうしたんだろう。するといきなり、ウィルが動いた。手首の内側で、自分の頬をべちっと力強く挟む。


「え?うぃ、ウィル?」


「……メよ、そんなんじゃ……きになってもらえないわよ……」


なにか、小声でぶつぶつ呟いている……なんだなんだ?今度は俺が困惑する番だった。


「……よし。桜下さん」


「は、はい」


「高温の魔法が……いいえ、超高温の魔法がいるんですよね。ごめんなさい、今の私にはそれはできません。でも、少し時間をくれませんか?」


「え?ああ、そりゃいいけど……どうにか、できるのか?」


「絶対の保証は、ありませんが……どうにか、足掻いて見ます。ライラさん?」


「なあに?おねーちゃん」


ウィルが、俺が抱くライラに顔を近づける。


「私が使える魔法の中で、“超過”ができそうなものって、ありますか?」


「えっ。おねーちゃん、まさかオーバーフローを使う気なの?」


ウィルがこくりとうなずく。オーバーフロー?それはなにか訊ねようとしたとき、エラゼムの鋭い警告が聞こえてきた。


「次が来ます!お気を付けを!」


「ええい、くそ!人が話し合ってるってのに!」


巨大な手は、今度は握り拳のような形になっていた。老魔導士の呪文が轟く。


「スパウトホエール!」


くるぞ!……あれ?


「何も、起こらないぞ……?」


失敗した?いや、きっとそれはない。相手はいちおう、熟練の魔導士だ。と、思ったその時、ぐらぐらと足元が揺れ始めた。


「まさか、下から……!」


次の瞬間、地面が割れて、とんでもない勢いの水柱が噴き出してきた!


「ぐぼっ!が、がぼっ!」


ゴボゴボゴボ!視界が一瞬で、白い泡に覆い尽くされる。冷たい水が全身に打ち付け、目にも鼻にも喉にも、水が流れ込んできた。何も見えないし、何も聞こえない。完全に前後不覚となる中で、俺はライラだけは守ろうと、腕に力をこめ続けた。


「げほっ!えほ、えほ」


「桜下……!桜下、しっかり……!」


ライラの苦しそうな声で、俺はようやく冷静さを取り戻し、目を見開いた。そして、自分たちの置かれた状況を認識する。


「なぁ、なんじゃこりゃ!」


俺とライラは、空高くを飛んでいた。屋敷の屋根が眼下に見える。さ、さっきの水流で、上空に吹っ飛ばされてしまったのか!


「くそ……!そうだ、アルルカは!?」


このままでは、俺もライラも助からない。万歩譲って俺だけならともかく、それだけは、絶対にダメだ!


「アルルカー!」


「わぁーってるわよ!」


おっと。声は思ったよりも近くで聞こえた。アルルカのやつ、ずいぶんそばまで飛んできていたらしい。アルルカは俺のシャツの首根っこを摑まえると、ぐいぃっと引っ張り上げた。ぐえ、く、首が……


「まったくもう、吸血鬼使いが荒いわね!」


「わ、悪い、げほ。助かっ……!!!」


「あん?なんで変なとこで区切るのよ……って」


俺とライラとアルルカは、そろって青ざめた。老魔導師の操る巨大な手が、握り拳を作って、こちらにぐんぐん迫ってくる!


「物理攻撃までできるのかよ……!」


ちくしょう!ライラは小柄とは言え、俺と合せて二人分の重さを抱えたアルルカに、瞬時の方向転換は無理だ。完全に捉えられた!


「アルルカ嬢ー!」


大きな叫び声で、俺とアルルカは我に返った。見れば、すぐ隣を、エラゼムが落っこちていくところだった。彼も吹き上げられていたのか。


「吾輩をそこへ!」


エラゼムが手を伸ばす。アルルカは無我夢中と言った様子で、杖をそちらに差し向けた。エラゼムが杖の先端を掴む。それと同時に、アルルカは体ごと振り回すように、彼をぶぅんと引っ張った。大きな半円を描き、エラゼムが迫りくる拳の方へと飛んでいく。逆に俺たちは、反動で少し後ろに下がった。


「ぬぅりゃああ!」


エラゼムの雄たけび。ガイイィィィィン!


「エラゼム!うわっ」


拳がこちらにも迫り、俺はライラを抱き込んだ。ドゴッ!肩のあたりに強い衝撃を受け、体がすごい勢いですっ飛ばされる。自動車に追突された気分だ……ぐんぐん地面が近づいてくるのが見えたが、叩きつけられる寸前、アルルカが翼をひるがえした。俺たちの体は一瞬だけふわっと浮かび上がり、そのままずじゃじゃぁっと、びしょびしょになった大地を滑った。


「っつつつ……」


長い滑走の後、ようやく体が制止した。くうぅ、体の半分が、あちこち痛い。拳で殴られたり、地面で擦れたりしたからだろう。見れば、右腕が血で真っ赤になっていた。


「うぅ……は!桜下、大丈夫!?」


胸の中にいたライラが、俺の腕を見てぎょっとする。


「ああ、見た目ほどひどかないさ」


「ほ、ほんとに?よかった……」


腕はチクチクと痛むが、動けないほどじゃない。それよりも、みんなの方が心配だ。


「ライラは、大丈夫か?」


「うん。桜下が守ってくれたから」


ライラはぐしょぬれだったが、それ以外に怪我はなさそうだった。ふぅ、一安心だ。


「ならなによりだ。アルルカは?いるか?」


「いるわよ、ここに」


アルルカは、俺たちの少し後ろにいた。泥だらけでボロボロの格好だが、割かし元気そうだ。


「あの鎧が、ギリギリで勢いを殺したからね。じゃなかったら、あたしもあんたもヤバかったわ」


「そうだったのか……あれ?でも、エラゼムは?」


俺はきょろきょろとあたりを見回す。その時だった。


「エラゼムさん!しっかりしてください!」


ウィルの悲鳴のような声に、背筋がぶるりと震えた。声のした方を向くと、ウィルが何かの傍らに屈みこんでいる。あれって……エラゼムの、鎧?だが、明らかにサイズが小さい……というより、パーツが足りていない……?


「……っ!くそっ!」


二人の下へと走り出す。アルルカも後について来た。


「ウィル!何が、あって……」


「桜下さん……エラゼムさんが……!」


ウィルが潤んだ瞳で、こちらを振り返る。地べたに力なく倒れたエラゼムの体は、バラバラになってしまっていた。兜と胴体の上半分は無事だが、下は無い。そして右腕は肘までは残っているが、その先がない。


「エラゼム……!」


「桜下殿……申し訳ない。この体たらくです……」


「何言ってんだ……!お前が防いでくれなかったら、俺たちがこうなってた」


「ならば、こうなったのはむしろ、喜ばしいことです。吾輩の鎧はどれだけ砕けようとも、それで命を落とすことはないのですから」


それは、そうだが……俺はあたりを見回す。エラゼムの鎧のパーツが残っていないかと思ったんだ。けどそれらしきものは、さっぱり見当たらない。いくつか、鎧の留め具のようなものは落ちているけど、それだけあっても意味ないだろ。残りは遠くに転がってしまったのか、ひょっとしたら渦の中かも……


「これじゃあ、“ファズ”を使っても直せないな……くそ。すまん、エラゼム」


「桜下殿が謝ることなど。むしろ謝罪しなければならないのは、吾輩の方です。この重要な局面で、足手まといになり下がるとは……」


エラゼムは心底悔しそうに、低く唸った。足手まといとは思わないけど、確かにこれじゃあ、戦うのは無理だ。


(まずいな……エラゼムの守りまで失った)


ライラは弱っている。アルルカは魔力切れ。フランは別行動だ。そして、エラゼムも……正直、かなり厳しくなってきたぞ。俺とアニは論外、あとはロウランか。あいつも、さすがにきついだろうな……となると、もうこいつしかいない。


「ウィル……さっきのやつ、どうなんだ」


俺は祈る思いで、ウィルを見つめる。彼女だけが、最後の望みの綱だ。



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ