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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
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「はぁ……はぁ……」


「ロウラン、なあおい。大丈夫か?すごい汗だぞ」


ドリルを操り続けるロウランの額には、玉の汗が浮かんでいた。苦しそうに眉根を寄せているし、突き出した腕も震えている。心なしか、さっきより出てくる残土の量も減った気がした。


「ち、ちょっと……ガス欠、かも……やっぱりまだ、本調子じゃないみたい……」


「ぬう、そりゃそうか。なら、もう一度魔力を……」


「ううん。それは、やめといた方がいいの」


「え?」


「あんまり、やり過ぎないほうがいいと思うから。だってほら、さっきダーリンは、このダンジョン全体に術を掛けてるんだよ?そのうえで、アタシにまで魔力をたくさん回したら、今度はダーリンが倒れちゃう」


「む。そ、そうかな……そうかも……」


以前に比べて、俺の能力は格段に強くなった。オーバードライブを使った直後のものすごい疲労感も、今は全くと言っていいほど感じない。だがそれでも、魔力は有限なのだ。今は労働も相まって、かなり疲れが溜まってきている。ここで無理して動けなくなったら、この後の脱出に支障が出る、か……


「けど……ここを出られなきゃ、元も子もないだろ?」


「そうだね。だから……もうちょっと、頑張ってみるの」


ロウランは額の汗を拭うと、垂れてきていた腕をしゃんと伸ばした。


「おい、無理すんなって。せめて、少し休めよ」


「ううん。霊体のアタシが休んでも、魔力は回復しないの。だから、頑張るしかない……他ならぬ、ダーリンのためだもん。それにあの子も、早く迎えに行ってあげないとね♪」


「ロウラン……」


ロウランはにこっとほほ笑むと、再びドリルを回転させ始めた。そうだよな……ロウランは変わっているけど、でもいいやつだ。俺のために、ライラのために、頑張ってくれている。


「ごめんな、ロウラン」


「いやーん。ごめんじゃなくて、ありがとうって言ってほしいなぁ」


「おっと、そうだよな。ありがとう。頑張れ、ロウラン!」


「はーい!」


ドリルが唸ると、残土が噴き出し、その分地上が近づいてくる。天井に斜めに穿たれた穴は、もうかなりの長さになりつつあった。たぶん、あと少しで、地上に出るとは思うんだが。それまで、ロウランの魔力が持つかどうか……


「くそ、穴掘りも手伝ってやれたらなぁ」


再び残土を運び出しながらぼやくと、そばにいたウィルが、俺の言葉を繰り返した。


「手伝う……穴掘り……」


「え?ああ、うん。でもさすがに俺たちじゃ……」


「……あ!それなら助っ人を一人、呼べるかもしれません!そのために……フランさん、それにアルルカさんも!」


え、助っ人?そんなやつ、このダンジョンにいるか?ウィルはぽかんとする俺をお構いなしに、それぞれの手で、フランとアルルカの腕を一本ずつ取った。


「手伝ってください!上手くいけば、ロウランさんを手助けできるかも!」


「え?ちょっ、ウィル!」

「はあ?どういう意味、ってちょっと!」


二人にも有無を言わせず、ウィルは元来た通路を飛んでいってしまった。


「な、何を考えてんだ?」


「ううむ、図りかねますな……」


ともかく、労力が三人分(フランとアルルカは明らかに十人力だから、もっとか)減ってしまったので、俺たちはそのぶんキリキリ土を運んだ。けれど、俺たちのペースが落ちた一方で、ロウランのペースもやはり、落ち始めていた。無理しているけど、とっくに限界なんだ。ロウランは歯を食いしばりながら、それでも意地でドリルを回し続けている。彼女の意思を尊重して、口は挟まなかったが……


(つっても、さすがにそろそろ……)


ロウランを無理にでも止めて、休ませた方がいいかと悩み始めた、その時だ。


「皆さーん!お待たせしましたー!」


あ!ようやっと、ウィルたちが戻ってきた。その背後に、とんでもないやつを連れて。


「ウンモオオオオオ!」


「どわああ!?ミノタウロスじゃねえか!」


「ちょっとどいてくださーい!どいてー!」


「壁に避けて!」


な、なんだなんだ!?

フランが俺の目の前を駆け抜けていく。とりあえず俺は、言われた通りに壁際に飛び退いた。その前をエラゼムが固める。だが身構えた俺たちには一瞥もくれず、ミノタウロスは目の前をドスドスと走り抜けていった。一瞬だけ垣間見えたが、ミノタウロスの首には氷の縄が巻かれていた。それをフランが引っ張っていたのだ。ミノタウロスは怒りに目を光らせて、手綱を引っ張るフランを猛追している。

フランとミノタウロスは、ロウランが掘り進める穴のふもとへとやって来る。疲労困憊していたロウランは、突然の乱入者にぎょっと固まった。


「ッッッ!」


な、なんだ?突然、ミノタウロスが固まった。そして角の生えた頭を高く上げ、穴をふんふん言わせている。匂いを嗅いでいるのか?


「ヴォモオオオオオオ!!!」


ミノタウロスは咆哮を上げると、わき目もふらずに穴に飛び込んだ。フランが縄を放して自由にしてやると、ミノタウロスはガリガリと土をひっかきながら、どんどん穴の奥へと進んでいく。やがて、ドリルがぽいっと投げ出されてきた。


「ちょ、ちょっと!邪魔しないでほしいの!そこにいられちゃ、進められないでしょー!」


「待ってください、ロウランさん!あの牛さんは、邪魔をしに来たわけじゃありません。むしろその逆なんです!」


追いついてきたウィルが、腕を振りながらロウランの前に割り込む。


「えぇ?どーいうことなの?」


「彼もまた、地上に出たがっているうちの一人……じゃないですね、一匹なんです。私たちのためではありませんが、穴掘りに力を貸してくれるはずですよ。あ、ほら」


お、おお?ウィルの言った通り、穴からは土が掻き出され始めた。あ、ウィルが言っていた助っ人って、まさかこのミノタウロス?あの怪物を利用しようだなんて、よく思いついたな……


「むむむ……確かにそうみたい。でも、もしここで暴れ出したら、その時はどうするつもりだったの?」


「え?あ、いやぁ、その時は……」


あの顔。考えてなかったな。ロウランの目が半開きになる。


「じとー」


「け、けどほら!結果はこうなったわけですし?」


「どうだかー……きゃは!でも正直、とっても助かるの。あの牛さん、やる気満々みたいだし。だからアタシも手伝っちゃうよ!ネオンファルス!」


ロウランが呪文を唱えると、投げ出されたドリルが、ぐにゃっと形を変えた。再び液状に戻った金属は、穴の中へ伸びていくと、ミノタウロスの両手に纏わりついていく。ミノタウロスは一瞬ギョッとした様子だったが、やがてそれが、手を守る手甲(アーマー)になったのだと分かると、より一層激しく土を削り始めた。


「こっちのほうが、よっぽど楽なの。アタシも、牛さんもね。ありがとね、シスターさん」


「いえ。ロウランさんには、シェオル島でお世話になりましたから」


二人はそう言って微笑みあった。シェオル島で世話になったって、何があったんだろ?


「なんにせよ、これで作業再開だ!」


ミノタウロスの執念はすさまじいものだった。ひょっとするとドリルと同じくらいに、十分早いぞ。どんどん掻き出されてくる土を、俺たちと死霊とで手分けして運び出す。

それからほどなくして、ミノタウロスの指先が、ライラのいた地下牢の床をぶち破ったのだった。




「……ってわけなんだ。ただ、そこまでで魔力を使い切っちゃって、ロウランはまた見えなくなっちゃったんだけどさ」


俺たちは再び、薄暗い廊下へと戻ってきた。少し長く話してしまったな。なにせ、本当に大変だった。ロウランには、今度改めてお礼を言わないと。


「そーだったんだ……やっぱり、みんなはすごいや」


ライラはほっとしたような顔で微笑んだ。だがふと、思い出したように訊ねてくる。


「あれ、でもそれなら、あの男の人はどうなったの?」


「ん?男の人?」


「ほら、赤い髪で、むっつり黙ってる……」


「ああ、あいつか。あいつはエラゼムが締め落したよ。ほんとはギタギタにしてやりたかったけど、そんな時間はなかったしな。ま、いずれ気がついたら出てくるだろ」


「そっか……」


ライラは、何か思い悩むような顔でうつむいた。


「ん?どうした?あいつのこと、気になるのか?」


「……ううん。何でもない……」


ううん?なんだろう、ちょっと引っかかる言い方だけど。

っと、そんなことを話していたら、ようやくたどり着いたぞ。来るときに乗った、魔法で動くエレベーターだ。中は無人で、使われた形跡はない。ところで、その隣の壁に、バカでかい穴が開けられていたんだけれど……たぶん、ミノタウロスのしわざだな。奴はそこから出て行ったらしい。そこを辿っていく手もあったけど、とりあえず俺たちは、大人しくエレベーターに乗り込んでみた。


「一応試すけど……上がれ!」


「……やっぱり動きませんね」


だよな、これは想定済みだ。というわけで、速やかにフランが天井をぶち破り、その穴目掛けてアルルカが魔法をかける。


「アントルメ・グラッセ!」


シャアアー。氷の結晶がぐんぐんと早回しで成長し、ぐるぐると渦を巻く螺旋階段を作り上げた。しかも驚いたことに、足を乗せると、階段は自動で上へと昇り始めた。


「エレベーターの次は、エスカレーターか……」


原理はさっぱり不明だが……もはや訊くまい。大体俺からしたら、魔法もハイテクマシンも、似たようなもんだしな。今はそんなことよりも!


「よし、戻ってきたぞ!」


後は、外に出るだけだ!



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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