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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
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4-1 報復

4-1 報復


ライラは宣言通り、半日でほとんどの距離を走破して見せた。流石に夜は休んだが、日の出とともに出発し、朝の早い時間には、もう目的地の洞窟に到着してしまった。

ウィルは、その恐怖すら感じるスピードのせいで遠慮なく俺にしがみつき、俺は俺で彼女を無下には出来ず……だから、悶々とした時間が終わったのにはほっとしたが、彼女が体を離すときに寂しいと感じてしまったあたり、俺ももう末期かもしれない。


「うぅむ……ここが、緑柱の洞窟ですか。なるほど、確かに尋常ならざる気配を感じますな」


ストームスティードから降りたエラゼムは、洞窟の入り口を見上げながら低く唸った。


「エラゼム、その気配ってのは、こないだの呪いの森みたいな感じか?」


「ええ。かの地と似た気配です。瘴気、とでも言いましょうか」


瘴気、か。じゃ、間違いなくここが魔境だな。


「でも、緑柱ねぇ。見た感じ、ただの洞窟だけど」


洞窟は、何もない荒野に突然むくりと起き上がったような、のっぺりした平山に口を開けていた。直径は広く、家一軒なら余裕で収まるだろう。内部は勾配がついていて、奥へ進むほど地の底へと潜っていく形になっている。まるで、巨人が荒野に、巨大な杭を斜めに穿ってできたような形状だ。


「油断しないでよ。洞窟なんて、待ち伏せるには格好の場所なんだから」


フランは赤い瞳で、鋭く洞窟の闇を見据えている。待ち伏せ、か。俺たちが飛び込もうとしているのは、虎の穴なのか、はたまた。


「用心していこう。仮に罠が何もなかったとしても、ここが魔境であることに変わりはないんだ」


みんなはしっかりとうなずいた。

洞窟へと侵入していく。勾配はきつく、さらに乾いた砂利が散乱していて、気を抜くとすぐに足を滑らせそうだ。夜目の利くフランが先頭に立ち、その次にアルルカ、その次に俺・ライラ・ウィル、しんがりをエラゼムが務めた。陽の光が差さなくなってくると、俺はアニを掲げて、青白い光で洞窟を照らした。そうして、少しずつ、慎重に洞窟を下りていくと、途中で何かがきらりと光りを反射した。


「なんだ?」


全員が足を止める。行く手で何かが、アニから放たれる光を受けてキラキラと輝いている。


「あれは……」


フランが数歩進み出て、前方に目を凝らした。


「……ゆっくりついてきて。たぶん、あれがターゲットだと思う」


ってことは、あれが……俺たちが少しずつ前に進むと、ようやくここが緑柱の洞窟と呼ばれる理由が分かった。


「うっわ。こりゃ、すごいな……」


目の前に広がっていたのは、エメラルドグリーンの結晶が織りなす、鮮やかな緑の森だった。太さも長さもバラバラな緑の水晶が、洞窟の壁や天井を突き破って、そこかしこから生えている。洞窟全体が、緑色の柱に支えられているみたいだ。


「うわあ、すごいですね……!これ全部、緑柱石ってやつなんでしょうか?」


ウィルは水晶の森を見て、感嘆の声を上げている。


「こ、こんなにたくさんあるとはな。ははは、取り放題じゃないか?」


俺は試しに、足もとにある小さな結晶を引っこ抜こうとしてみた。が、なんだこいつ、めっちゃ硬いぞ……!俺がどれだけ踏ん張っても、手のひらほどの結晶はびくともしなかった。


「ぐぎぎぎ……!」


「……素手で採るってのは、無理みたいですね?」


「ふぅー、ふぅー……みたいだな。おとなしく手順に従おう」


俺はポケットから依頼書を取り出した。確か、結晶の採掘の仕方が書かれていたはずだ。


「えー、なになに……緑柱石は、通常の採掘はできない。この石を砕くには、四つの属性、火・水・風・地の魔法を順に当てなければならない」


「魔法を四つも?」


ウィルが目を丸くした。


「そうなんだよ。だから本来、このクエストは魔術師複数人ですることを前提としてるみたいだ。えーそれで、炎で熱し、水で冷まし、風で傷をつけ、最後に岩で打撃を与えることで石が採れるんだってさ」


「なら、ライラの出番だね!」


ライラはとととっと前に躍り出ると、両手を前に突き出した。


「よぉーし。まずは炎だね」


ライラが目をつぶり、詠唱を始める。俺たちは一歩下がって、巻き添えを食わないようにした。


「ファイアフライ!」


ポポポッ。小さな蛍光色の火の玉が、無数に出現した。火の玉は結晶の柱を舐めるように、周りをぐるぐると回る。


「次は水!ポンドロータス!」


ライラの詠唱はよどみない。すぐに次の呪文を唱えると、地面から水がシューと吹き上がった。熱された水晶に冷たい水が掛かり、ジュワーと煙が舞う。詠唱はまだまだ続く。


「エアロフテラ!」


ビュゴウ!突風が洞窟内に吹き付けた。水蒸気は吹き飛ばされ、緑の柱にピシピシとひびが入る。


「これで最後だ!グラス、ホッパー!」


ドゴン!目の前の地面がいきなり隆起して、ひびの入った柱を殴りつけた。パキーン!緑柱石は甲高い音を発して砕け散った。緑色の宝石のような欠片があたりに散らばる。


「おお!やったぜライラ!」


「ふう。まあね、ライラにかかれば、ざっとこんなもんだよ」


四連続の詠唱で、ライラは少しフラフラしていた。それでも、やっぱりすごい。何人もの魔術師でやることを、ライラは一人でこなしちゃうんだもんな。


「さて、それじゃ石を……」


俺は砕けた欠片の中から、比較的形がきれいで、かつ手ごろな大きさのものを探した。お、あれなんかいいんじゃないか。かがむんで、それを拾い上げる……


「あん?」


「桜下、どうしたの?」


「いや、ここになんか、白くてすべすべの物が……」


欠片の下に、つややかな白い石があった。変だな?他にはこんな石見当たらないし。俺は欠片と一緒に、その石も掴んで拾い上げてみた。ちょうど持ちやすい位置に、くぼみもあるし……ひょい。


「いっ……!」


真っ暗な眼孔がこちらを見つめている。俺が石だと思っていたのは、人間の頭蓋骨だった。


「うわあああ!」


「きゃあああ!」


ウィルの悲鳴とユニゾンする。俺は叫んで、骸骨を放り投げてしまった。コーン、コーン……結晶にぶつかりながら、骸骨は洞窟の奥へ転がって行ってしまった……


「い、い、今の……?」


「ほ、ほ、骨でしたよね……?」


俺とウィルは、お互いの腕を抱き合いながら震えている。なんで、こんなところに骨が……?一方、骨慣れしているライラはケロッとしていた。


「骨?ここで誰かが死んだのかな。ここがお墓ってことはないよね?」


「そ、そうだな。以前ここに挑んだ誰かが、不慮の事故にでも遭って……」


「……いや。そうじゃなさそうだよ」


え?フランが結晶の柱の陰にかがみこむと、何かを持ち上げる。白い輪っかがいくつも連なったような、骨……


「あ、あばら骨……」


「結晶に隠れてるけど、そこら中に落ちてるよ。一人二人じゃない」


なんだって……?次はエラゼムが何かを見つけた。


「これは……」


彼が拾い上げたのは、焼け焦げた枝切れだ。


「松明の燃え残りです。それも比較的新しい。どうやらこの洞窟には、頻繁に人が出入りしているようです」


「え?だってここは、七つの魔境の一つだぜ?こんな危険地帯に、どうして好き好んで……」


その時だ。ぞくりと、背筋が震えた。感じる……霊気だ。隣にいるウィルのものじゃない。もっと冷たくて、それにたくさんある……俺はばっと、洞窟の奥を見つめた。暗がりに、佇んでいる……俺に何かを、伝えようとしている……


「……そうか。そういう事だったのか……!」


「桜下、さん?」


俺は不安げなウィルを見つめると、みんなに向かって大声で呼びかけた。


「みんな!ここは、ただの洞窟なんかじゃない!処刑場所だったんだ!“あいつら”はここに魔術師をおびき寄せて、油断したところに襲い掛かっていたんだ!」


「ご明察」


俺たちはいっせいに、洞窟の入ってきた方へと振り返った。いつの間にか、大勢の粗暴そうな男たちが、手に手にサーベルを持ち、ニタニタといやらしい笑みを浮かべて立っていた。


「お前たち……あの追いはぎの仲間か……!」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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