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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
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サーベルを構えた追いはぎたちは、値踏みするように俺たちを眺めまわす。


「よぅよぅ、なんだってこんなガキばかり連れてんだ?嫁さんにでも逃げられたか?え?」


「暑苦しい鎧だなあ。そんなに着込んで、戦争にでも行く気かよぉ?」


やつらは、騎手であるエラゼムが俺たちのリーダーだと睨んだようだ。まあ、この中じゃ最年長だし、体も大きいしな。だがエラゼムは、ヤジを完全に無視して、岩のように沈黙している。口を開く気にもならないみたいだ。


「だがよう、ガキばっかりときちゃ、差し出せるもんは限られてくらぁな?酒樽は持ってなさそうだし、おまけに見るからにビンボーそうだ」


うぐ。貧乏なのは間違っちゃいない。悲しいが……


「あーあー、こりゃハズレ客だぜ。どうするよぉ?とっととバラしちまうか?」


「いやぁ待て待て、そうはやまるな。あっちの女、恰好はイカれてるが、顔とカラダはなかなかのもんだぜ」


おや。連中はアルルカに注目しているみたいだ。アルルカはイカれてるだなんだのところでむっとしたが、容姿を褒められるとすぐに調子に乗って、体を見せつけるようにふんぞり返った。追いはぎに褒められて誇らしいのか、え?


「おいおい、それによ。向こうのガキも、まあまあイケそうじゃねえか?ちょいと不愛想だが、顔はいい。しつけ次第じゃ高く売り込めそうだ」


今度目を向けられたのは、フランか。フランは道端に落ちている汚い物を見るような目で、男たちを睨んでいる。男たちはフランとアルルカを、足の先から頭のてっぺんまでねっとり眺めまわした後、ニヤニヤとうなずいた。


「よぉーし、決まりだ。お前たち、その女とガキ、二人差し出せ。そうすりゃ残りは通してやるよ」


ええ?呆れたもんだな……俺はげんなりして、脱力しながら答える。


「そっか。そりゃありがたいな。六……じゃない、五人のうち三人も無事に通してくれるのか、なんて良心的なんだ」


「へっ、クソガキめ。俺たちゃ寛容なんだ。感謝するんだな」


「ああ……ところで、それって踏み倒すことはできるのか?」


「あぁ?」


追いはぎたちは顔を見合わせると、ゲヘヘヘと汚く笑った。


「そいつぁ、無理だなぁ。なんたって、踏み倒すための足が無くなっちまうからな」


男のうちの一人が、足をぶらぶらさせ、続けて手刀で、足を切り落とすような仕草をした。その隣にいた浅黒い顔の男が、唾をまき散らしながら怒鳴る。


「舐めてんじゃねえぞ、クソガキ!いいからとっととしやがれ!じゃねえとそのクソ生意気な舌を切り取って、ハゲワシの餌にしてやるぞ!」


ほほぉ、言ってくれるじゃないか。いい加減イライラしてきたぞ。それなら、俺の答えは……


「べー」


俺は舌を突き出してやった。追いはぎたちは唖然とする。


「あんたらのルールに従う気はないな。それとも、俺のルールに従うってんなら、考えてもいいけど」


「ルールだと?」


「そ。今すぐ回れ右して、おとなしく消えてくれ。そうすりゃ何もしないで返してやるよ」


男たちは、ここまでコケにされたのは初めてだ、という顔をしていた。ちっ、鈍い奴らだな。おかしいと思わないのか?子どもの俺がこれだけ生意気な口を利くのには、それなりの理由があるのだと。だいたい俺たちは今、疾風の馬・ストームスティードに乗っているんだ。つまり、魔術師が一緒にいると一目で分かるはずなのに。どうだ?そろそろ気付いてもよさそうじゃないか?


「このガキ!ぶっ殺してやる!」


ダメだったか……さっき怒鳴った浅黒い男が、サーベルを振り回して飛び込んでくる。そこへフランが立ちふさがった。


「っ!邪魔だ、どきやがれ!」


男は少女の姿に一瞬面食らったが、すぐにためらいなくサーベルを振り下ろした。フランはそれを片手でらくらく受け止めると、ぐいっとひねってもぎ取ってしまった。武器を奪われた男は、驚愕の表情でよろよろと後ずさる。


「な、なんだ?このチビ……」


「へんっ。これで分かっただろ。とっとと行ったほうが、身のためだと思うがな」


モンスター相手ならともかく、生身の人間相手じゃフランもやりづらいだろう。そう思っての警告だったのだが、追いはぎたちはそれを挑発だと受け取ってしまったらしい。


「へ、へへ。なぁるほどな。ただの旅人じゃねえと言いたいわけか。おう?」


顔に刺青のある男が、額に汗をかきながらも、笑みを浮かべる。


「そうだと言ったら?」


「けっ、舐めんじゃねえぞ。てめえら、自分は魔術師だって言いたいんだろ?だが俺たちはな、今まで何人もの魔術師をぶっ殺してきてんだよ」


おっと、気付いていたのか。その上でってことは、何か秘策でもあるのか?AMAアンチマジックアーマーみたいなものとか。


「ちょっとばかしつまらねぇ魔法が使えるからって、いい気になりやがって!俺たちがビビると思った大間違いだぞ、ションベン臭いガキが!女に守られてピーピー喚くようなクソチビの分際で!」


「なぁっ、なんだと!」


くっそー、あったまに来た!この国に来てからずーっとストレスのたまることばかりだったが、もう我慢の限界だ!俺は勢いよくストームスティードから飛び降りた。


「フラン!合体するぞ!」


「え?こんな奴ら相手に?」


「おうよ!俺が直接やっつけてやる!」


「……」


フランは少し考えると、首を横に振った。


「いいよ。わたし一人で十分だ」


「え、いやでも」


「あなたは引っ込んでて」


そ、そんなぁ……フランはぴしゃりと言い退けると、刺青男に向き直った。刺青男は俺たちのやり取りを聞いて、馬鹿笑いする。


「カッカッカ!合体だぁ?冥途の土産にイッパツやり合うつもりか、おう?」


「そんなんじゃない。お前たち野ザルと一緒にするな」


「……て、め、ぇ、も、口の利き方がなってねえなぁ?あぁ?」


刺青男は額に青筋を立て、歯を剥いて唸った。


「野ザルだと?じゃあてめぇらは、俺たちより高尚でございますってか?」


「まあ、お前たちみたいな汚いのよりは」


「……ククク、ヒャハハハ!俺たちがサルだとすりゃあ、テメエはケツの青い子ザルだ!男に抱かれたどころか、まだキスもされたことねえんだろ!」


「……!」


え?なぜかフランは、「ガーン!」という効果音が聞こえてきそうなくらい、分かりやすく動揺した。


「図星かぁ!?カッカッカ!おめぇみたいな跳ねっ返り、誰も欲しいとは思わねーよなぁ!おい、聞いたか?こいつ、まだやった事も無いってよお!ぶひゃはははは!笑えるぜぇ!」


「……」


フランは言い返すどころか、ふらふらと数歩、後ろに下がってしまった。さっき奪ったサーベルが、手から滑り落ちる。カランカラーン。お、おいおい!


「フラン、どうしたんだよ?大丈夫か?」


「だ、だって……」


フランは何が言いたげな顔で、こちらを振り返る。な、なんでそんなに切なそうな目をしているんだよ……


「あ!フランさん、危ない!」


え?しまった!俺とフランは、急いで刺青男へ振り返った。男は俺たちが目を離したのを見計らって、懐からナイフを取り出していた。男が腕を振りかぶり、ナイフを投げようとし……!


ダァーン!


「ぐああ!」


「ああ、っとにもう。何やってんのよあんたたち」


カラーン。ナイフが地面に落ち、男が手を押さえてうずくまっている。俺が後ろを振り返ると、いつの間にか杖を構えていたアルルカが、イラついた様子でこちらを睨んでいた。


「盗賊の前でいちゃつくなんて、底抜けの馬鹿か自殺志願者よ。あんたはどっちのつもりかしら?」


「ぐぅ……悪い、アルルカ。助かった」


まさか、アルルカにたしなめられる日が来るなんて。フランもばつが悪そうだ。アルルカは杖をぐるりと回すと、シッシッと手を払った。


「どいてなさい。あたしが片付けるわ」


「え。お、おう……」


すごすごと俺とフランが下がると、アルルカは大勢の男たちを前にして、堂々と杖を構えた。


「スキャーロップドーム!」


アルルカお得意の早撃ち呪文が炸裂した。パキパキパキ!

め、目がおかしくなったのか?空気()が凍り付いている。冬の朝に窓ガラスが氷で覆われるように、氷の結晶が少しずつ空間に広がり、ドームを形成していく。ドームは度肝を抜かれる追いはぎたちをあっという間に包み込み、大きな氷の牢獄が出来上がった。


「はい、いっちょあがりよ」


い、一瞬だ……アルルカは一瞬で、追いはぎたちを無力化した。それも、誰一人として傷つけていない。殺しはしないという俺たちの方針を、完璧に全うしていた。


「あ、でもこれ、ずーっとこのままか?だったらまずいんじゃ……」


「んなわけないでしょ。氷よ?一晩経てば溶けるわよ。薄いから、根気よく叩けばそれより早く出られるでしょうし。でも確実に数時間は出れないから、その間に距離を離せばいいわ」


か、完璧だ。ぐうの音もでなかった。ああ、そうだった。こいつは普段真面目じゃないだけで、やるときはやるタイプなんだった……


「むぅ……こーいうのは、ライラの役目だったのに」


魔術師としての株を奪われて、ライラはむくれている。一方アルルカは得意げだ。


「ふふん。ま、あたしの早業は簡単には真似できないからね。速さは強さなのよ」


「ぐぬぬぬ……」


先んずれば人を制すってやつか。いやはや、あっぱれだ。俺はすっかり感心して、さっきまでのイライラを忘れてしまった。


「助かったよアルルカ。さあ、それじゃこのスキに、とっとと行っちまおうか。こいつらも当分は、“営業”ができないだろうしな」


いい気味だ。数時間もあれば、ストームスティードなら数百キロは進めるはずだろう。こいつらが出られる頃には、俺たちは地平線のかなただ。

ドームの向こうからは、男たちが口々に「覚えてろ!」だとか「これで済むと思うな!」とか叫んでいるが、あれだ。負け犬の遠吠えってやつだ。


「くくくっ。カモにする相手を間違えたな」


俺は氷のドームににやっと笑いかけると、ストームスティードに乗り込んだ。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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