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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
14章 痛みの意味
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陽が高く昇ると、シェオル島に朝がやってきた。そして今日が、俺たちがこの島で過ごす最終日だ。俺たちは荷物を纏め、そしてホテルの従業員に謝った。フランがベッドを一つダメにしてしまったからだ。穴の開いたベッドに従業員は目を丸くしたが、気にしないでくれと快く許してくれた。あ、ありがたい……たぶん俺が海に落ちて、ポタポタ水を滴らせていたから、余計に同情してくれたんだろう。

食堂で朝食をとる。タダ飯が食えるのもこれで最後だ。この島に来るまでに、日持ちしない食料はすべて片付けてしまっていた。つまり、今の手持ちはほとんど無い。島を出たら、近くの村で買い出しをしないとな。


「おや。おはよう」


お。食堂には、クラークたち一行と、そして傭兵の少女アルアも来ていた。アルアは俺の顔を見ると、目をキッと吊り上げ、自分の盆を持ってスタスタどこかに行ってしまった。


「ちぇ。相変わらずだなぁ、アイツ」


「あ、あはは……許してあげてくれ。ほら、あの()にもいろいろあるから」


ちっ、俺だって知ってるよ。アルアは二の国の勇者、つまり俺の先輩にあたる奴に、祖父を殺されているんだ。だからって、俺に八つ当たりされても困るんだけどな。


「それで、君たち。荷物を纏めてるってことは、今日発つのかい?」


「ああ。めし食ったら、行くよ。三冠の宴も終わったし、ここにいる意味もないからな」


「そうか。じゃあ、またしばらく会うこともないだろうね」


クラークは珍しく、少し寂しそうな色を見せた。


「へーっ、めっずらしい。俺との別れがさみしいのか?」


「なっ!ふん、そんなわけないだろ!清々するよ、うるさいのがいなくなって!」


俺はけらけら笑った。確かにここに来る前と後じゃ、クラークの印象はずいぶん変わった気がする。お互い、色々と腹を割って話したことが効いたみたいだ。

それにいつの間にか、仲間たち同士も親交を深めていたようだった。やつらと別れるとき、何人かがそれぞれ挨拶を交わしていたから。特にフランとコルルは、何やら意味深な微笑みを交わし合っていた。はて、あの二人って、あんなに仲良かったっけ?


そして俺は、尊にも挨拶に行った。


「おはよう、桜下くん。もう行っちゃうの?」


「おはよう。ああ、そのつもりだよ」


「そっかぁ。せっかくまた会えたのに、寂しくなるね」


尊は眉尻を下げて、寂しそうにあははと笑った。俺も微笑み返す。以前の俺だったら、こんなにあっさり別れられはしなかっただろうな。けど、今は……今、俺の心には、別の人たちがいるから。


「なぁに、お互い勇者って言う、しちめんどーくさい立場だ。またそのうち会えるだろ……っと、俺はもう勇者やめてんだけど」


「え?勇者って、やめれるの?」


「まあ、自主的というか、俺がそう言ってるだけなんだけどさ。尊も嫌になったらやめちまえよな」


「え、えぇ~?」


尊は目を白黒させていた。あはは……さて。残る一人にも、声を掛けておこうかな。


「じゃあな、デュアン」


「……」


俺は尊の向かいに座っていた、ウィルの幼馴染・デュアンの方を向いた。やつはずーっと不貞腐れた顔をして、俺が尊と話している間も一声も上げなかったが。


「……」


デュアンはやっぱり喋らない。ぬう。どうやら、無視を決め込むつもりみたいだ。ま、それならそれでいい。ウィルに振られて傷心の男に、いちいち突っかかる必要もないな。俺は肩をすくめて、テーブルを離れようとした。


「……ウィルさんを」


あん?足を止めて、振り返る。


「ウィルさんを泣かせたら、承知しませんよ」


デュアンはテーブルの皿を睨みつけたまま、ぼそぼそと言った。独り言のようだったが、紛れもなく俺に向けられた言葉だ。俺はにやっと笑うと、背を向けて歩き出す。


「おう」


デュアンのやつ……昨日は振られた女に八つ当たりする、どうしようもない男だと思ったが。やっぱり俺、あいつのこと嫌いになれないんだよな。後からついて来たウィルが、後ろを振り返ったり、俺の袖を引っ張ったりしていたが、笑うだけでごまかした。ウィルにはいずれ話してやろう。


さあ、いよいよ島を去る時だ。船着き場へとやって来る。対岸にはかすかに、オンドルの村が見えた。ホテルの人が船を用意してくれているので、整い次第いつでも出発できる。


(短いようで、長いような……)


いろんなことがあったけれど、でも最終的には楽しい日々だったな。俺は振り返って、美しい楽園のような島を目に焼き付けると、船乗り場へ向かおうとした。


「ま……ま、って……くださぁぃ」


うん?はぁはぁとかすれた声が、ホテルの方から聞こえてくる。今、船着き場には俺たちしかいない。てことは、俺たちを呼んでいるのか?

少しすると、ホテルへ続く緩い坂道を、小さな女の子が走って下りてくるのが見えた。走っていると言っても、そうとう息が上がっているのか、ほとんど歩いているのと大差ない速度だったが。

女の子は、白くてふわふわとしたドレスを着ていて、髪は同じくふわふわのプラチナ色だ。陽の光を浴びて、きらきら虹色に色付いて見える。どっかのお嬢様みたいだけど、はて、見覚えがあるぞ……?


「あれって……確か……そうだ、思い出した。エリスだ」


やっぱりそうだ。走ってきた(歩いてきた?)少女は、肩を激しく上下させ、膝に手をついてはぁはぁ息をしている。エリスは、三の国の大公シリスの姪っ子だ。な、なんだってそんな高貴なお方が、俺たちのとこに?一度だけ会ったことはあるが、それだけだしなぁ……


「はぁ、はぁ……こひゅ……けほっ……」


だ、大丈夫かな。エリスは白い肌を真っ赤にし、小さな額に汗を滴らせている。そんなに長い距離は走っていないと思うけど……苦しそうに上下する小さな背中を見ていると、思わずさすってやりたくなるが、果たしてそんな恐れ多い事をしていいのかどうかわからなくて、ただ見ていることしかできない。


「だいじょーぶ?」


しかし、俺よりもよっぽど勇ましいやつがいた。ライラはエリスに駆け寄ると、その背中をすりすりとさすってあげた。あちゃあ、なんだかビビっていた俺が恥ずかしくなってくるな。


「はぁ、はぁ……あ、ありがとう、ございます。もう、大丈夫です」


ライラの気遣いもあってか、エリスはことのほか早く喋れるようになった。エリスがライラに微笑むと、ライラはにっこり笑い返した。


「あの、実は二の国の皆様に、お話したいことが……」


エリスは息が整ったとは言え、その顔はまだ真っ赤っかだ。汗がほっそりしたあごを滴り落ちている。あーあー、見てられないな。俺はカバンから、真新しいタオルを取り出した。コテージのアメニティを一つ頂戴したものだ。


「よければこれ、使ってくれよ。まだ未使用品だからさ」


「え?あ、す、すみません。お見苦しかったですよね……」


「いや、そういうわけじゃないけど。そんなんじゃ喋りづらいだろ?」


エリスはおずおずとタオルを受け取ると、顔をぽふっとうずめた。しっかし、俺たちに話したいこと?なんだろう。


(まさか、今度はシリス大公が、面倒事を吹っかけてくるんじゃないだろうな?)


嫌な予感がするなぁ……けどまずは、話を聞いてみないと。汗を拭き終わると、エリスは深呼吸して、ようやく調子を取り戻した。


「はしたない所をお見せしてしまい、大変申し訳ありませんでした。ただ、どうしても皆様が行ってしまわれる前に、お話がしたかったのです」


「いえ……それはいいんすけど。で、なにを?」


「はい。実は……我が国に、二の国からの依頼という形でいらしている、小さな女の子がいますよね。その方についてなんです」



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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