表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
13章 歪な三角星
524/860

7-2

7-2


挿絵(By みてみん)


夢を、見ているのか?

俺の目の前にいるのは、もう何年も前に死んでしまったはずの女性だ。短めの髪、幼く見える丸っこい目。俺の目の前で飛び降りて、俺の目の前で血まみれの肉の塊になってしまったはずの女性。その女性が、生きて、俺たちの前に立っている。


「久しぶりだね、吉田(くら)くん」


俺の隣で、クラークが体に電流が走ったかのように震えた。よしだ、くら?それはもしや、クラークの前の世界での名前か……?


「そして、君は……」


(みこと)が、俺の方を向く。その瞳に見つめられて、俺の手は勝手に仮面へと伸びた。外すことに抵抗はなかった。この一瞬だけ、俺は正体を隠しているという事実を完全に忘れていた。


「やっぱり。そうだと思ってた……君も久しぶり。西寺、桜下くん」


尊は、俺の記憶の中と寸分たがわぬ顔で微笑んだ。ああ……幸福な夢と悪夢を、同時に見ている気分だ。


「尊……本当に、尊なのか?」


「うん。私は、慈心末(いつくしま)尊。驚いたなぁ。まさか、この世界でも君たちに出会えるなんて」


そりゃあ、そうだろう……同じ時代の、同じ場所にいた三人が、そろって勇者として召喚されるだなんて……偶然にしてはできすぎている。けど、俺たちが驚いているのは、それだけじゃない。クラークが震える声で訊ねる。


「あの……あの、尊さん」


「なぁに?蔵くん」


「っ……あの、尊さんは、あの後……無事、だったんですか?」


「無事?う~んと……?」


尊はあごに人差し指を当てると、考え込む仕草をした。ああ、それすら懐かしい仕草だ……けどまさか、覚えてないわけじゃないだろう。あんなこと、忘れようとしても忘れられない。でも、しかし……強く訊くことも、ためらわれることだった。


「……うーん、ごめんね。よく分からないや。私、前の世界のこと、あんまり覚えてないの。えへへ、もともと忘れんぼではあったんだけどね」


「え、あ、ああ。そうですか……」


クラークもさすがに、「あなたは死んだはずですよね?」とは言えないらしい。俺たちが黙り込んでしまうと、尊はパッと目を輝かせた。


「ねえねえ!それより、聞いたよ二人とも!蔵くんも桜下くんも、とっても強い勇者なんだってね。すごいなぁ。桜下くんは国のピンチを救ったし、蔵くんは正義の雷!なーんて呼ばれてるんでしょ?」


「え、あ、はい。いちおう……」


「わぁ、かっこいいなぁ。私はあんまり強くないから、憧れちゃうよ」


「あの、尊さんは、三の国の勇者なんですよね?」


「そうだよ。いちおう、ね。でもみんなみたいに強くないから、表立つことは少ないんだ」


ああ、だから今まで、三の国の勇者についてさっぱり聞かなかったのか?でもまさか、その正体が尊だったなんて……俺は指をぎゅっと硬くしながら、訊ねる。


「本当に、驚いたよ……尊は、いつこの世界に召喚されたんだ?」


「うーんと、確か蔵くんよりちょっとくらい前だったかな?この中じゃ一番先輩だね。あはは、実力は一番下だけど」


「そんなこと……俺だって大したことないさ。尊も能力を?」


「うん。土と水の魔法が使えるんだ。……ねえ、ところで二人とも。この人って、どうしてこんなところで寝ているの?」


へ?あ。俺もクラークも、完全にデュアンのことを忘れていた。衝撃がでかすぎて、それどころじゃなくなったから。


「こいつは……なんか、ここで気ぃ失っちゃったんだ。ずいぶん疲れてたみたいで」


「わあ、そうなんだ。かわいそう……私、お水を貰ってきてあげるね!」


言うが早いか、尊はくるりと体を反転させて、ホールへと走っていってしまった。水の魔法が使えるのなら、この場で出せばよいのでは……とも思ったけど、まあいろいろあるんだろう。


「びっ……くりした。まさか、もう一度尊さんに会えるだなんて……」


クラークは片手で顔の半分を覆っている。今見たものが信じられないといった様子だ。


「ああ……噂をすれば影、なんて言うけれど。今の尊は影じゃなくて、どう見ても本人だった……よな」


「あるいは、二人とも夢でも見ているのか……ちょっと、僕をつねってみてくれないか」


「よしきた。任せろ」


「いたたたた!そんなに強くすることないだろう!」


てことはやっぱり、これは夢じゃないんだ。クラークの尊い献身によって、それは証明された。


「でも正直、まだ信じられないな……尊が生きてるなんて」


「ああ、それは僕もさ。あの状況で、尊さんが死んでいなかったなんてね」


「え?」


「え?だって、そうじゃないか。今ここに尊さんがいるということは、あの時尊さんは死んでいなかったことになるだろう?」


クラークは当然のようにそう言った。いや、確かにやつの言っていることは正しいんだ。人は死んだら生き返らないのだから。さっきの尊がアンデッドなら話は別だが、ネクロマンサーである俺が何も感じなかったんだから、それはあり得ない。つまり尊は、あの自殺の後でも、死んでいなかったことになる……?


「……いや、ちょっと待ってくれ。なんか、それっておかしくないか」


「なにがだい?」


「だって、俺もお前も、尊は死んだと思っていた。俺は、目の前で尊の飛び降りを見たんだ!それが勘違いだったってことか……?」


「でも、そうとしか考えられないじゃないか。僕は、尊さんが飛び降りたという事しか聞かされていない。お葬式に出席したわけでも、彼女の遺骨を目にしたわけでもないんだ。君は?」


「いや、そう言われれば俺も、尊が確実に死んだ証拠は見てないけど……」


「だろう?信じられないような奇跡だけど、尊さんは死んではなかったんだ。そしてそのまま、この世界に召喚された。後を追って僕たちも呼ばれたんだから、それを知らなくても無理はないよ」


それは……確かにそうなんだけど……だけど、猛烈な違和感があるのは、なんでなんだ?

その時だ。


「きゃああぁ」


「っ!?今の声!」


「尊さんの悲鳴だ!」


尊の悲鳴!クラークはすでに走り出していた。俺もやつの後を追う。悲鳴はホールのある方ではなく、そのわきにある小さな林の中から聞こえてきたようだ。シェオル島は各地に魔法の照明が灯されているが、林の中にはそれはなく、闇に包まれている。クラークは魔法剣を抜き、その明かりを頼りに林を進んでいった。


「止まれ!」


っ!俺たちは足を止めた。鋭い声は、前方の木立の間から聞こえてきたようだ。敵の正体が分からない以上、警告は素直に聞いたほうがいいだろう。


「何者だ!」


クラークが声のした方に叫び返した。しばらくののち、かさかさという小さな物音が、こちらに近づいてきた。


「……おや。これはこれは、勇者くんが二人も。僕に会いに来てくれたのかな?」


なっ、この声……!クラークの剣光に照らされ、木々の間に、銀色の仮面が浮かび上がった。俺は憎々し気に、その名をつぶやく。


「お前、マスカレード……!」



つづく

====================


読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ