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4-2

4-2


フランと別れたあと、俺はウッドたちと合流し、向かった先はくたびれた酒場だった。俺たちが入ると、せまい店内はすぐにいっぱいになってしまった。


「あれ、ウィル。おんなじテーブルなんだな」


「ええ、みたいですね」


俺の隣の隣の席にウィルがいた。酒場に少女とは、なんとも不釣り合いだな(俺が言えた義理じゃないけど)。気前の良さそうな店主のおじさんが、にこにこと各テーブルにジョッキを配る。最後に俺たちのもとへやってきたおじさんは、不思議そうな顔をした。


「ここは小僧に、シスターのテーブルか。珍しい組み合わせだな。小僧はジュースでいいとして、シスターはなんにします?」


「あ、わたし、戒律上お酒は……」


ウィルが手を振って断ろうとするのを、同じテーブルの猟師たちが遮った。


「何だよシスター、こんな日くらい固いことは抜きにしようや」


「そうだぜ。プリースティスもちょくちょく飲んでるじゃないか」


「はぁ……では、すこしだけ」


ええっ、いいのかよ。だって、戒律がどうたらって……俺は宗教には詳しくないけど、シスターがお酒って飲んでいいのか?心配する俺とは反対に、猟師たちはそうこなくっちゃ!と手を叩いて喜んでいる。こいつら、もう酔っているんじゃないか。

みんなの手元にジョッキかグラスがいきわたると、ウッドが立ち上がって音頭をとった。


「えー、では僭越ながら。みんな、まずは狩りへの協力、ご苦労だった。無事に終わって何よりだ。そしてかみさんによるドクターストップで、ここへ来られなかったエドに対して、しばし黙祷」


猟師たちに軽い笑いがこぼれた。鼻を怪我したエドは、奥さんにお酒を止められてしまったらしい。


「えー、あまりだらだら話してもしょうがないので、とっとと乾杯に移ろうと思う。みんなのどが渇いて死にそうな顔をしてるしな。なに?なんだと、こいつめ。わははは。えー、で、乾杯なんだが、今回の功労者に一言もらいたいと思う」


そう言うとウッドは、なぜか俺のほうを見た。え?


「てわけでオウカ。乾杯の一言を」


「えぇ!」


猟師たちが口々にはやし立てる。ピュー、ピュー!ウッドはにこやかに笑って立つように促し、俺は目を白黒させながら立ち上がった。うわ、この場にいる全員がこちらを見ている。顔が熱くなるのが分かる。なんて言えばいいんだ、こんな時って?


「えぇーっと。今回は、その。狩りに参加させてもらえて、ありがとうございました。俺が少しでも役に立てたならうれしいし、それはきっと、みんなが俺たちのことを守ってくれたからだと思います。だから、つまり、そういうことです」


猟師たちの間に失笑が浮かぶ。頭がこんがらがってきた。ええい、もう締めてしまえ。


「えっと、では、狩りが無事に終わったことを祝して。乾杯!」


「乾杯!」


「乾杯!若き狩人に!」


猟師たちがぐいっとジョッキを傾ける。俺もあわててグラスを手に取った(中身はジュースだけど)。俺はちらりと横目で、ウィルがちゃっかりコップの中身をあおっているのを見た。

俺がグラスを口からはなして一息つくと、ほかの猟師たちはめいめいにぎやかに語らい始めていた。なんだよ、緊張して損したな。俺はほっと胸をなでおろすと、自分の席に着いた。


「よう。お前さん、大した腕前だな」


「へ?」


俺の隣の席の猟師が、親しげに話しかけてきた。名前は知らないが、向こうはそんなことは気にしていないようだ。


「いやぁ、最初はガキんちょが参加なんて大丈夫かと思ってたがな。お前がルーガルーの丸太みたいな腕をぶっ飛ばした時、俺ぁ自分の目を疑ったぜ!」


「え?あ、いやあれは……」


そうか、猟師たちには俺が腕を切り落としたように見えてたのか。俺が盛大に空ぶったのと、フランが斬り付けたのはほぼ同時だったからな。もしかしたらフランは、それも計算に入れていたのかもしれない。

本当のことを言うわけにもいかず、俺がしどろもどろしていると、どんどん人が集まってきてしまった。


「あれは凄かったな。あれがなかったら、もっとけが人が出ていたかもしれん」


「うんうん。あのデカブツの骨をぶった切るのなんて、大人でも難しいぞ。大したもんだ」


「よおよお!あん時はありがとな。お前のおかげで、こうして五体満足でいられるぜ!」


うえ?えーっと最後の人は、確か俺が後ろに引っ張って、ルーガルーの爪から助けた猟師だ。俺は内心少しほっとした。この人を助けたのは、間違いなく俺の功績だから。本当はフランの活躍なのに、俺が勘違いで称賛されるのは、実にムズムズと落ち着かないもんだ。


「おお、あなたがオウカさんですかな」


「はい?」


またも見知らぬおじさんが声をかけてきた。恰幅の良い、上品そうな人だ。この人も猟師だったかな?顔にぜんぜん見覚えないけど……


「わたしはロブソンと申します。この度は娘を救い出していただき、まことにありがとうございました」


ロブソンさんはそう言って、俺の手をギュッと握った。あ、この人。もしかして、あの助けた女の子のお父さんか?


「あの醜悪な半狼を退治する際、あなたが尽力してくださったと聞きました。本当にありがとうございます」


「い、いや。俺だけじゃなくって、みんなで力を合わせた結果だから」


「もちろん、心得ています。この後皆さまにもお礼をさせていただきますとも。今日この宴も、私共が主催なのです。存分に楽しんでいかれてください」


「は、はあ。ありがとうございます」


「ほら、マーシャ。お前もご挨拶なさい」


俺はその時はじめて、ロブソンさんの後ろに少女がいることに気付いた。親父さんの立派な腹のかげにすっぽり隠れてしまう、小柄で細身な女の子。俺たちがルーガルーの巣穴から救い出した、あの子だ。


「マーシャと申します。先ほどはろくにお礼もできず、大変失礼いたしました。この度はわたしのために危険をかえりみず奮戦いただき、感謝の念に絶えません。ありがとうございました」


マーシャはそう言って深々と頭を下げた。髪をゆい、清潔な服を着た少女は、先ほどと見違えるほど上品になった。だけど、どうしてだろう。堅苦しい言葉を述べる彼女からは、まるで生気を感じられない。むしろ、薄汚れたあの洞窟にいた時の方が……


「では、私たちはこれで。他の方にもお礼をせねば。いくぞ、マーシャ」


ロブソンさんとマーシャは、今度はウッドのいるテーブルへと向かって行った。俺はその後も猟師たちに囲まれ、もてはやされ続けた。だが間違いなく、ほとんどは俺を酒の肴にして楽しんでいただけだ。この酔っ払いどもめ……

ようやくみんなが飽きて、俺の周りから人だかりがいなくなると、俺はがっくりとテーブルに突っ伏してしまった。


「ひぃ、疲れた……」


褒められているんだから悪い気はしないけど、慣れないことはやっぱり疲れる。

だいたい、俺はここにメシを食べに来たんだ。そうだそうだ、さっさと当初の目的を果たそう。俺はテーブルにならんだ料理に手を伸ばした。すると。


「ずいぶん人気者なんですね」


すこし酒臭い声で話しかけてきたのは、同じテーブルに座るウィルだった。



つづく

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よければ見てみてください。


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読了ありがとうございました。



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