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5-1 凶報

5-1 凶報


「……どういうこと?死にかけてるって、何があったの」


フランが眉をひそめて、俺に訊ねる。ウィルはぽかんと開いた口を押えていた。


「詳しくは分からない。書かれてないんだ。ただ、普通の怪我とかではないらしい。ロアは、“呪い”って書いてるな」


呪い。もと居た世界からしたら、あまりに非現実的な言葉だ。だけど、魔法の実在するこの世界においては、その言葉の意味は全く異なってくる。


「なあ、呪いって、具体的にはどんなもんなんだ?」


フランと出会った呪いの森。サイレン村の、竜核の呪い。出くわすことは多かったけれど、その詳細は実は、全然知らないんだよな。

俺はみんなの顔を見渡すが、全員自信はなさそうだった。ウィルがおずおずと口を開く。


「あの、私も詳しくはないんですけど。大きな神殿では、解呪を行うこともあるんです。経験を積んだ司祭様しか行えないので、私じゃ説明は難しいのですが……多くの場合、呪いは“超自然的な魔法”のような扱いを受けると聞きます」


「超自然的?」


「普通の魔法は、魔力を使いますよね。ですが呪いは、魔力を介すことはありません。かわりに、意思や想い、恨みや(つら)みといった感情を媒介に発現するのだとか……すみません、だいぶざっくりしていますけど」


「ふーむ、感情ねぇ。じゃあエドガーは、よっぽど強く誰かの恨みを買ってたってことか?」


すると、俺の胸元でアニが、チリリと揺れた。


『主様。呪いは、必ずしも誰かの恨みが引き金になるわけではありません』


「アニ。どういうことだ?」


『幽霊娘の説明は、少し不適切ですね。感情と言うと、まるで人間にしか呪いが扱えないように思えますが、そんなことはありません。自然界には、ヒトよりもはるかに強い呪いを有する生き物がいます。代表的なものはユニコーンですね。かの幻獣の血には、恐ろしいほどの呪いが込められています。我を殺せしもの、永遠に苦しみ続けよという呪いが』


「なるほど、それも立派な恨みか。じゃあ……エドガーは、そんな生き物に呪いを貰ったのか?」


『憶測ではありますが、その可能性が高い気がします。人の呪いと言うと、幽霊(ゴースト)悪霊(ホーント)によるものが多いですが、それらは神殿で簡単にお払いができます。一方、生物の身に宿された呪いは、解呪が非常に難しい』


「なるほどな……どうにも、それっぽいな。ロアは、エドガーの呪いを解くのに力を貸してくれって書いてるんだ」


俺は手紙をぱんと指で叩いた。エラゼムが首をかしげる。


「呪いの解呪を、桜下殿に?ウィル嬢とアニ殿のお話からするに、それは神職につく者の役目なのでは?」


「まさにそうなんだよ。俺だって、今初めて呪いの概要を知ったんだ。俺がそんなややこしいもんを解くなんてできるわけないし、それはロアだって重々承知のはず……」


だというのに、わざわざ大急ぎで手紙をしたためてまで、俺に協力を要請してきたわけだ。いったい何考えてるんだ、あの王女様は?


「それで、どうするの?」


フランが俺に訊ねる。俺は頬をポリポリとかいた。


「どーすっかなぁ。正直、わけわかんねえよ。手紙にもそれしか書いてないし、分かる事より分かんないことの方が多いくらいだし……」


俺の予想は的中していた。やっぱりロアからの手紙は、ろくなことが書かれていない。


「……けど、まあ。エドガーには、世話になってるからなぁ」


あのガサツな男は、事あるごとに俺を不良勇者呼ばわりしてきやがった。本気で命を狙われたこともあったし、どちらかといえば悪い思い出の方が多い。だけど、この前の王都での出来事を通じて、俺のエドガーに対する見方は、少し変化していた。


「行くの?」


フランの問いに、俺は少し悩んだ末に、こくりとうなずいた。


「人の命を引き合いに出されちゃな。うなずくしかないだろ。どうせ王都に向かってたんだ、そう遠回りでもないさ」


見ず知らずの他人ならともかく、知り合いに死なれたとあっちゃ、夢見が悪い。


「で、勝算はあるの?」


「ない!……まあ、やれるだけやって、それでダメなら諦めてもらうさ」


つっても、あのロアが助けを求めてきたってことは、たぶん相当のっぴきならない状況なんだろう。そしておそらく、その状況が打破できるかは、俺の頑張りに掛かっているんだろうなぁ……そうじゃなきゃ、あのプライドの高い王女様が、“頼む”だなんて書くもんか。はーあ、責任重大だぁ。


「……どうせ、どんな無茶振りされてもうなずくんでしょ」


「えっ?そ、そんなわけないだろ。俺があいつらなんかに、肩入れするわけないじゃないか!」


「はぁ。すぐそうやって悪ぶるんだから……」


ため息をつくフラン。うーむ、見透かされている……案外俺って、いいように使われがちなのかな?ちぇ。


「ご、ごほん。というわけだ、カラスくん。しょうがねーから、お前のご主人のために、王都まで行ってやるよ」


俺がそう言うと、ヤタガラスは満足げにカァと一声鳴いた。そして足首の筒の中から、小さな紙片と鉛筆を取り出し、それを俺に差し出す。


「うん?ああ、了承の返事を書けってか?」


カァ。はいはい、わかりましたよ。俺は紙片に、現在地と、そこから王都へ向かう旨を短く書いた。それをヤタガラスに渡すと、爪先で器用に筒へとしまい、再び蓋をした。


「カアアァー!」


ヤタガラスは高らかに鳴き声を上げると、翼を広げて、ばさりと黄昏の空へと舞いあがった。


「じゃあなー!なるべく急ぐって、ロアに言っといてくれー!」


俺の叫びが届いたのかわからないし、そもそもカラスが人の言葉を解するのかも怪しい所だけど。きっとあのカラスだって、主人が倒れて気が気じゃないのだろう。その証拠に、俺たちが見つめる中、ヤタガラスはぐんぐん遠ざかって、群青色の空に溶け込んでいった。いつの間にか、日が沈んでいる。

あたりが暗くなるにつれ、肌に感じる空気もひんやりと冷たくなってきた。ヤタガラスの襲来による興奮も冷めてくると、だんだんと頭が冷静になってくる。


(エドガーが助からなかったら、俺、どうなるんだろ……)


ひょっとして俺、とんでもない事に了解の返事を出してしまったんじゃ……いや、いまさらか。今までだって、もっとたくさんの人の命が掛かっている場面を潜り抜けてきたじゃないか。だが何度経験しても、やっぱり胃がキリキリするんだよな。かいていた汗が夜風で冷やされ、俺は思わずぶるりと震えた。


「桜下?不安なの?」


え?あちゃ、ライラに見られていたのか。ライラは俺の顔をのぞき込むと、ぎゅっと手を握ってきた。


「だいじょーぶだよ!桜下だったら、きっとなんとかなるよ!桜下はすごい人だもん!」


ライラは無邪気な、だが強い瞳で俺を見つめてくる。


(うっ……)


これは、あれだな。俺が大の苦手なもの。すこぶる純粋な信頼。そこから生まれる、期待ってやつだ。


(期待、か。されたことも少なかったけど、そもそもそういう場面から逃げてきたからな……)


今までの俺だったら、きっとその視線から目を背けていただろう。だけど……俺も、覚悟を決めたんだ。ライラの大きな、藤色の瞳を見つめ返す。


「そうだな。ありがとな、ライラ。明日からはたくさん走らなきゃならない。力を貸してくれな」


「うん!」


ライラはにっこり微笑んだ。俺はライラのふわふわの髪を撫でながら、妹がいたらこんな感じなのかなと思った。

俺はまだまだ、へなちょこな子どもだ。期待されることを恐れないような、強い大人にはなれそうもない。だけどさ。この子の前くらいでなら、カッコつけるのも悪くないよな?



つづく

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夏の休みに、小説はいかがでしょうか。


読了ありがとうございました。


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