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幸い、俺はまだ男のままでいられるみたいだ。俺は腰をトントン叩きながら起き上がると、ギャーギャー言い合っている二人の所へ行った。


「フラン。とりあえず、落ち着いてくれ。俺も大丈夫だし」


「でも!こいつが!」


「あー、うん。けど、悪気があったわけじゃないんだよ。ていうか、最初からなにもわかってなかったんだろうな」


「え?」


「その子、この国の人じゃないだろ。さっきから話してるの、外国語じゃないか?」


フランは目をぱちくりして、女の子の顔を見た。


「スパラテア!アジヌスフェミナ!」


「……ほんとだ。早口すぎて、何言ってるのか分からないんだと思ってた」


「だろ?だからたぶん、俺たちが言ってることも聞き取れてなかったんだ」


「だからって、助けてもらったことくらい分かんないかな……」


フランは納得いってなさそうだったが、とりあえず矛を収めた。俺は改めて、女の子に向き合う。もちろん、彼女の足が届かない距離でだが。


「あー。俺たちは、敵じゃないんだよ」


俺は手ぶりも交えて言ってみたが、女の子の表情は依然険しいままだ。


「桜下さん、お話はちょっと無理じゃないですか?」


ウィルの言う通りのようだ。ジェスチャーで伝えるにも限界がある。


「なら、話ができそうなやつにご説明願おうか」


俺は、さっきまでフランに首を絞められていた男に顔を向けた。男は荒い息をしていたが、まだこいつは、口をきくだけの余力がある。


「ちょっとあんた。聞きたいことがあるんだけどな」


男は俺というか、フランに見据えられて、ひぃと息をのんだ。


「お、お前ら。いったい、何者なんだ……」


「悪いな、あんたの質問は聞かない。それより、そっちについて教えてくれよ」


「な、なに?お前たち、俺たちを知らないのか。き、きっと後悔するぞ。俺たちに手を出してことを……」


まったく、口が減らないおっさんだな。イライラした様子で、フランが一歩足を踏み鳴らす。どすん!


「聞かれた質問にだけ、答えろ!じゃないと、そっちが後悔することになる」


「ひっ……」


「だ、そうだ。話を戻すけど、おたくらはそもそもなんなんだ?どうしてこの子を追っかけたりする?」


「くっ……そ、そのガキは商品なんだ。俺たちは、逃げた商品を追っかけてただけだ」


「は?商品?」


人間が、商品。てことは、こいつらまさか。


「あんたら……奴隷商なのか」


「そうだ。そのガキは、遠路はるばる仕入れてきた連中の一人だ。ガキだからって甘く見てりゃ、隙をついて逃げ出しやがったんだ。だから連れ戻しに来たっつうのに、とんだ横槍が入っちまって……」


「こんな小さな子まで、奴隷にするっていうのかよ?あんたたちには、道徳ってやつはないのか?」


「なにぃ?けっ、奴隷に小さいも大きいもあるか。いいか小僧、俺たちは正当な対価を払ってそれ(・・)を仕入れたんだ。お前の娘でもないくせに、とやかく言われる筋合いはねえ。むしろお前たちの方こそ、俺たちの“正当な”仕事を邪魔しやがって。そっちこそ覚悟しておけよ。俺たちの稼業を邪魔したやつは、全員“不幸な事故”に遭うんだからな!」


男はだんだん恐怖を克服してきたのか、減らず口を叩く。それを聞いたフランは、額にピキピキと青筋を立てた。


「正当な仕事?聞いてあきれるよ。子どもを売り飛ばして金を稼ぐなんて、恥ずかしいと思わないわけ?」


「う、うるせえ!てめえら、調子に乗ってられるのも今の内だぞ。今は不意を突かれて油断したが、俺たちは何十人もの大組織なんだ。かならず仲間が借りを返すはずだぜ……ヒヒヒ!」


なおも喧嘩腰な男に、フランは爆発寸前だ。

しかし、うーむ。そりゃちと厄介だな。俺はあごに握り拳を当てて考え込む。男の話が本当なら、女の子はどこか外国から連れてこられ、こいつらに買われたわけだ。さらわれたのか売られたのかは分からないが、この男たちの売買取引自体は真っ当なものかもしれない。人身売買の時点で、真っ当もクソもない気もするが。

それに、この子をどうしたらいいのかも問題だ。言葉が通じないのでは、住所も聞けない。親元に返すことも難しいだろう。海の向こうでは、物理的にも遠いし。旅から旅の根無し草な俺たちじゃ、面倒を見るのも厳しい……


「……」


ふと気づくと、思案する俺を、ウィルがハラハラした顔で見つめていた。俺はあごから手をはなすと、にやっと笑いかける。


「ウィル、そんな顔すんなよ。ここでハイそうですかってこの子を引き渡すほど、俺も薄情じゃないさ」


「……!そ、そうですよね!」


まあ、いろいろ理屈をあげはしたが。悩むこともない、もう行動はしちまったんだ。だったらまあ、取れる責任は取ろう。


「とりあえず、この子を連れて帰ろうか。どうするのかは、まあそっから考えよう」


仲間たちとも相談したほうがいいだろう。一度宿まで帰還だな。すると男は、血相を変えて俺に突っかかってくる。


「お、おい!お前ら、そのガキは俺たちが買ったんだぞ!それを連れてくってんなら、お前たちは泥棒だ!これは立派な窃盗行為だぞ!」


この期に及んでなおも口が減らない男を、ウィルは心底軽蔑した目で見る。


「信じられません。窃盗?誘拐ですらなくて?人間をなんだと思っているのかしら」


フランも深くうなずくと、目を細めて男を睨んだ。


「何とでも言いなよ。お前たちみたいなクズになり下がるくらいなら、まだ泥棒の方がましだ」


「ぐぅ……」


フランの目力に押されたのか、男は首を引っ込めた。


「ま、そういうことだな。それで、おっさん。お仲間が仕返しにくるんだっけ?だったら、それなりの覚悟しておいた方がいいぞ。俺たちの仲間全員を相手にするなら、あんたらが百人いても足りないだろうから」


俺が最後に言い添えると、男は苦虫を嚙み潰したような顔をした。こうでも言っておけば、多少はビビってくれるだろ。それに、こういう時はハッタリを利かせるものなんだろうけど、生憎とこれはハッタリじゃない。おかげさまで、頼もしい仲間が付いているからな。


「それじゃ行こう。フラン、二人乗りでも大丈夫か?」


「問題ない。一人はこうするから」


フランは女の子を、片腕でひょいと抱え上げた。女の子はまだ何かわめいているが、ここはもう、事後承諾で勘弁してもらおう。俺がフランの背中にしがみつくと、フランは高々と跳躍し、路地を抜けだした。夜の町は、何事もなかったかのように静かだ。家々の屋根を伝い、俺たちは宿へと戻った。



つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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よければ見てみてください。


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