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3-3

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気恥ずかしかったので、フランの体をそそくさとお湯で流し(断じてやましい気持ちはない)、体を拭くのは任せようとタオルを渡そうとして、俺ははっと気づいた。


「このタオル……フランの爪で、焼けちゃわないかな」


「あ……」


フランが、すっと爪を差し出す。俺は爪の先に、タオルのかどっこを一瞬だけ触れさせてみた。するとジジッと音がして、糸くずがチリチリと黒焦げになってしまった。ほんとに、日常生活じゃとことん役に立たないな。ていうか不便だ。


「しょうがないな。フラン、おいで」


仕方ないので、俺の膝元にフランを座らせ、わしわしと頭を拭いてやる。体は……もうしょうがない、できる限り目をつぶっていよう。だけどこれじゃ、フランは身の回りのことがなんにもできなくなってしまう。うーむ、これはちと問題だな。


「フラン、爪を引っ込めたりできないのか?猫みたいにさ」


「できたら、とっくにそうしてる」


「そうか……うーん、手袋をしようにも、手袋ごと黒焦げになるだろうし……」


『あ、でしたら。あれが使えるかも』


アニが何かを思い出したように、リンと鳴った。


「あれって?」


『実は、国王から勇者へ下賜されたアイテムがあるんです』


「あん?俺、何ももらってないぜ」


『ええ。そのアイテムは私たちのポケット異次元(ストレージ)に格納されているんです』


「え?ストレージ?」


『今からそれを呼び出します』


アニはぶつぶつと呪文を唱え始めた。なにが何だかさっぱりわからないけど、またとんでもない事しでかさないだろうな……警戒しながら待っている間にフランの体を拭き終わり、着替えもすんだところで、アニが呪文を唱え終わった。


『スクレイルストレージ』


パァー!突然足元に、青く光る魔法陣が広がった。わ、わ、俺踏んじゃってる。俺は慌てて陣の外によけた。すると魔法陣の中心から、何かがせりあがってくる。なんだこれ……鎧か?


「これ、なんだ?」


『王下認定工房バタリアン式騎乗特化型バーディングメイルです』


「……ごめん、もう三回ぐらい言ってくれる?」


『要は、馬具です。馬に乗るための、鞍とかあぶみとか』


「へー……悪い、もっと感心すべきなのかもしれないけど。最大の問題点として、今ここに馬はいないぜ?」


『もちろん、ただの馬具ではありません。これも一種の魔道具なんです。細々した性能は省くとして、この道具の最大の特徴は、対象が馬に限定されていないことです』


「馬具なのに、馬以外に使えんのか?」


『馬具とは言いますが、人を乗せることが可能な、ほぼすべての生物に使用できるのです。牡牛、イノシシ、オオカミ、クマ、ライオン、ペガサス、ガーゴイル、グリフォン、キメラ……』


後半から聞きなれない名前が出てきたぞ。ペガサスだって?それに乗れたら、空を飛べるのかな。


「なんでそんなにいろんな動物に使えるんだよ?馬とペガサスはともかく、クマとライオンだと、体のつくりが全然違うじゃないか」


『対象生物に合わせて、馬具が変形する機能を持ち合わせているんです。こちら側からアプローチして、ある程度成形することも可能です』


へー。それはすごい、さすが魔法の道具だ。けど、まだピンと来ていないんだよな。今はフランの爪をどうするかって話だっただろ。この便利な馬具を、どうしようっていうんだ?


『主様。そこの、細長い二つの馬具を取ってください。ええ、その筒状のやつです』


「これか?」


俺がその馬具を両手に取ると、アニは魔法陣を消してしまった。すると残りの馬具たちも一緒に消える。俺の手には、同じ形の筒のような装備だけが残った。革でできていて、頑丈そうだが……


『これはバンデージと言って、脚につける装備です。それをゾンビ娘の手にはめてください』


「え、これを?これはさすがに……ていうか、これも焦げちゃうんじゃないか」


『大丈夫だと思います。その辺の二流品とは違いますから』


うーん、ほんとかな。フランもいぶかしげだったが、とりあえず両腕を突き出してもらった。そこへすぽっと、筒を二つはめる。

…………。


「ぶふっ」


だめだ、笑っちゃいけない。けど、これはあまりにもシュールな……

どう見ても、フランの腕の長さと、筒のサイズが合っていない。そりゃそうだ、馬用のものだもんな。両腕を突き出した格好のフランは、子どもがごっこ遊びでキャノン砲を自称している姿にそっくりだ。


「か、かわいいぞフラン。くひひ……」


「……つぎ、笑ったら……」


おっと、フランが目を吊り上げてわなわな震えている。これ以上からかったら、後が怖いな。


「んんっ!アニ、これで終わりじゃないんだろ?」


『ええ。では、成形しましょう』


アニから、青色の細い光線が放たれる。その光が筒状の馬具に当たると、その箇所がぐにゃりとひん曲がった。


「うえぇ?」


革製の馬具が、まるでガラス細工みたいにぐねぐねと形を変えていく。フランも驚きの目で自分の腕を見つめている。

アニは何度か光の角度を変えて、細部を調整していった。ただの筒だった馬具が、少しずつ手袋のような形になっていく。どっちかって言えば、野球のグローブの方が近いかな。


『こんなものですかね』


アニは光を消して、満足気に息をついた。

フランの腕には、革製の分厚いガントレットがはまっていた。肘までをすっぽり覆っていて、フランの鉤爪を完璧にカバーしている。生地が爪にやられて焦げ出すこともない。


「へー、いい感じじゃないか。フラン、どうだ?」


「うん。少しごわごわするけど、動かせる」


「そっか。これなら、日常生活くらいならこなせそうだな」


「けど、とっさの戦闘は大変かも。これ、結構脱ぎにくい」


あ、そうか。戦う時にこれじゃあ、せっかくの爪の攻撃力が台無しだ。この手袋は、いわば鞘みたいなもの。とっさに刀を抜けなければ、いい鞘とは言えない。


『そこはちゃんと考えてあります。指の先に、切れ目があるでしょう。そこから爪だけを出せるようになっています』


あ、本当だ。指先にまっすぐ切れ込みが入っている。フランはガントレットをくっと引っ張ると、そこから紫色の鉤爪がシャキンと飛び出した。


「おぉ~」


『臨戦時ならこれで十分でしょう』


フランは手を握ったり開いたりして具合を確かめると、ガントレットをもとに戻した。爪はきれいに隠れた。


「いいアイテムだな。はじめてあの女王様に感謝したいと思ったよ」


『本当なら王都を出立する際、馬くらいは支給されるのです。その際この馬具を使って、以後は冒険で出会った別の動物に付け替えていくものなんですがね』


「へー。じゃあ勇者ってのは、いろんな動物に乗っているんだ?」


『ええ。天馬勇者、ワイバーンナイト、ウルフライダー。いろんなタイプがいましたね。ただ、この鎧をゾンビに使用したのは、おそらくこれが初でしょう』


「へへ。じゃあ俺たちが、歴史の第一人者だな」


西寺式、ゾンビメイル。悪い気はしないな。


『そうなりますね。ところで主様、あなたは入浴しなくていいのですか?』


「あ。忘れてた」



つづく

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読了ありがとうございました。



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