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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
10章 死霊術師の覚悟
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10-2

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「それで、どこに案内したらいいかな?宿?それとも、この町唯一の商店をご所望かな?」


コルトは道に積もった雪を、ぎゅっぎゅと踏みしめながら、俺に向かってたずねた。


「いや、それよりも、ある場所を探してるんだ。昔の貴族のお屋敷とかって、ないか?」


「貴族の、お屋敷?」


コルトは、なんでそんなものを?と言いたげな目で、こっちを見つめた。


「お屋敷って言ったら、一つしか心当たりがないけど……」


「え、ほんとか?どんなところなんだ?」


「でも、昔のっていう条件には当てはまらないよ?だってそこ、今も人が住んでるもの」


おお、まじか。もしもそれが、城主さまの家の子孫だったら……だんだん興奮してくる俺に対して、コルトの表情は徐々に曇っていった。


「それに、あんまりおススメしないけどな。あんなとこ行ったって、なんにも楽しい事ないと思うけど……」


「でも、俺たちにとっては大事なことなんだ」


「そこまで言うなら……けど、僕は知らないからね」


コルトはそう前置きしたうえで、雪の降りしきる町の中をひょいひょい進み始めた。

もしも、その貴族がビンゴだったら……城主さまの家系かぁ、どんな人たちなんだろう?でも、妙にコルトが行きたがらなかったのが引っ掛かるな。ひょっとして、あんまり町民からは慕われていないのだろうか?

俺はちらりと、エラゼムの様子をうかがってみた。彼もまた、何かを考えこんでいるのか、固い雰囲気で黙々と歩いていた。


コルトについて行くこと、十分ほど。俺たちは、町のはずれにほど近い、丘の上へとやって来た。


「ここが、この町の領主のお屋敷だよ」


領主の邸宅は、立派な門構えの、堂々とした屋敷だった。正面に見える鉄の門の奥には、くねくねと曲がる道と、木の植えられた庭園が見える。と言っても、どちらも雪化粧に覆われていたが。さらにその奥には、でかでかとした館がそびえていた。窓の配置を見るに、四階建てはありそうだ。


「さっすが、領主のお屋敷。立派なもんだな……」


町の寂れ方とは、まるで真逆だ。寒々しくはあるが、少なくともここは、衰勢や凋落とは真逆の優雅さを纏っている。


「コルト、ここの屋敷は、なんて人が住んでるんだ?」


俺が息せき切ってたずねると、コルトは、苦々し気にその名を口にした。


「……グラスゴウ」


グラスゴウ?俺は急いで、エラゼムを振り返った。


「グラスゴウ……間違いありません。メアリー様のお母上の、生家でございます……」


「えぇ!ほんとかよ!」


まさか、こんなことって!俺は思わず飛び跳ねそうになった。こんなにうまくいくなんて。


「それじゃあ、この家の人に、話を聞いてもらえれば……」


俺が興奮したまま、門に手を掛けようとした、その時だった。


「おい!貴様ら、いったい何をしている!」


え!?突然響いた怒声に、俺は固まった。門の向こうから、鎧を着て槍を持った兵士が、ドカドカとこちらに走ってくる。


「あ、あの。俺たちは、決して怪しいもんじゃ……」


「バカ、何してるんだよ!早く逃げるよ!」


うぇ?俺が何か言う前に、コルトは一目散に駆け出していた。な、なんなんだよ。俺、なんか悪い事したか?


「お、桜下さん、まずいんじゃないですか?」


「あー、クソ!しゃあない、出直しだ!」


どのみちこんなんじゃ、話は聞いてもらえそうにない。釈然としないが、俺たちもコルトを追って走り始めた。後ろからは、「下賤の輩め!」だとか「汚らわしいやつ!」だとかの罵詈雑言が聞こえていた。




「はぁ、はぁ……ったく、なんだったんだ」


町の細い路地まで来てから、コルトはようやく足を止めた。彼の足の速いのなんのって、追いかけるのが大変だったぞ。膝に手をついて息を整える俺に対して、コルトはほとんど息を切らしていなかった。


「だから言ったじゃないか。ロクなことにならないって」


「け、けど、いきなり逃げることになるなんて、聞いてないぞ……」


「あそこの家は、ああいう奴らなんだよ。僕たち庶民のことなんて、屁とも思っちゃないのさ」


おっと、それは……エラゼムが、呻くようにコルトにたずねる。


「それはつまり、グラスゴウ家が、圧政をしいているということですか」


「そーいうことだよ」


「なんと……」


エラゼムは、頭をガツンと殴られたような声でつぶやいた。

なんてこった。せっかく見つけた子孫が、こともあろうか、圧政者になっちまっていたなんて。


「……コルト殿。もう少し詳しく、お聞かせ願えませんでしょうか」


「はん、いくらでも話してあげられるよ。あいつらの悪口なんか、バケツ一杯汲んでもたりないくらいさ」


「……」


コルトがグラスゴウ家の悪口を言うたびに、エラゼムの鎧がボコボコと凹んでいくような気がした。複雑な心境だろう。城主の親戚が、こうも悪く言われているんだから……


「あなたたちも見たでしょ?この町の廃れっぷりをさ」


「ええ……活気はないようでしたが」


「活気がない?いいよ、取り繕わなくて。素直に貧乏くさいって言いなよ。それが一番正確なんだから」


「う……では、なぜそのようなことに?」


「簡単だろ。あいつらの屋敷の豪華さを見たんだからさ」


「まさか……」


「そ。税金だなんだって、僕たちのなけなしの稼ぎを、ぜーんぶ吸い尽くしてるのさ。おかげで僕たちは、日々を食うのもやっとなありさまだよ」


うわ……典型的な、悪徳領主そのものじゃないか。民を虐げ、自分だけは私腹を肥やす……


「サイテー」


フランの歯に衣着せぬ発言に、コルトは大きくうなずき、エラゼムはがっくりと肩を落とした。反論の余地もないらしい。


「な、嘆かわしい……当時のグラスゴウ家と言えば、北部地方全域を治め、他国からの侵攻から守り続けた、名君として名を馳せたというのに……百年のあいだに、こうも血が薄れるものか」


エラゼムの嘆きに、コルトは目を丸くした。


「へー……ずいぶん昔のことに詳しいんだね。その通りだよ。昔のこの町は、港町としてそれなりに栄えていたんだって。けど、アラガネが大きくなるのにつれて、だんだん勢いが無くなっていってさ。町が衰えると、税収もままならなくなるでしょ?それで、領主は保身に走るようになって、このありさまってわけ」


なるほどな。アラガネの港も寂れてはいたが、あの蒸気船は立派なものだった。その利用の仕方はともかくだが……それに、町も活気づいていたしな。

その時俺は、ふと疑問に思った。


「なあ、コルト。それなら、どうしてこの町の人たちは、ここを出てかないんだ?」


アラガネの町からは、汽車が出ているんだ。逃げ出そうと思えば、いくらでもできそうなものなのに。もちろん、生まれ故郷を捨てるのは嫌だとか、逃げた先に当てがないだとか、理由はあるんだろうけど……

だが、コルトの語った理由は、俺の想像の斜め上をいくものだった。


「ああ、うん……そりゃね、誰もが一度は考えたさ。こんなとこ出てってやる、オレたちは自由に生きるんだ!ってね……でも、それはできないんだ」


「それは、どうして?」


「それは……あの、グラスゴウの家には……恐ろしい、ネクロマンサーがいるからなんだ」


へ?俺の目が点になった。言葉をなくした俺を見て、コルトはそうだろう、と深くうなずく。


「わかるよ。邪悪な死霊術師ってだけでも、怖いものね。けど、僕たちだって臆病者じゃないんだ。初めのころは、抗おうとした人たちもいたんだって。だけどグラスゴウ家は、それとは別に私兵も匿っているんだ」


「あ、ああ……さっきのやつがそれか」


「そう。町の人たちは、団結して、グラスゴウ家を倒そうとした。けれど、彼らの前に立ちふさがったんだ。グラスゴウ家が管轄する霊園から、ネクロマンサーによって蘇らされた、彼らの家族が。育ての親が、亡くした恋人が、愛した子どもが、彼らの前に現れた」


う……思わず、顔をしかめた。醜悪な話だ……だが、その能力は、俺と全く同じものなのだ。くそ!


「彼らは、なすすべなく私兵に倒された。すると今度は、彼らが、次の謀反人の前に立ちふさがるんだ!ネクロマンサーの力は強大で、どんなに高名なシスターも歯が立たなかったらしい。そのうちに、町の人たちは戦うことを諦めた。お金と気力、そして希望を奪われて、この町から出ていくことすらできなくなったんだ……」


「……なるほどな」


事情は、分かった。この町の闇は、ずいぶんと根深いらしい。はぁー、こんなのばっかりだな、俺たちの訪れる町は?


「けど、困ったことになったな」


グラスゴウ家に話が聞ければ、城主さまの行方にぐっと近づくことができるだろう。しかし、あの様子じゃなあ。おまけに、グラスゴウ家は霊園も管轄しているんだっけ?てことは、墓を調べることすらできないわけだ。

俺は、仲間たちの顔を見回した。


「どうしようか?」


「……一度、作戦を練るしかないんじゃないでしょうか?」とウィル。


「作戦か……そうだな」


そんなものが浮かぶかは分からないが、ここまで来て、すごすごと引き下がるわけにもいくまい。


「コルト、とりあえず、宿に案内してくれないか?今後の方針を、そこで練ることにするよ」


コルトはうなずくと、路地を出て、表通りを進み始めた。




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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