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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
10章 死霊術師の覚悟
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2-1 クラークの再来

2-1 クラークの再来


ベシベシと頬を何度か叩くと(思ったより力が入ってしまった。恨みが籠ったか……)、ようやくアルルカは目を覚ました。


「んぁ!あぅ、んんぅ」


びくんと身もだえすると、アルルカは目をぱちぱちさせて、あたりを見回した。


「あれ?あたし、どうしたんだっけ……」


「俺の血をのんで、気絶したんだよ。どうなってんだ、まったく」


「あ、あぁ……そうだったわ。さすがにちょっと、やり過ぎたわね……」


ぶるりと体を震わせて、アルルカは自分の腕を抱いた。


「前の十倍はすごかったわ。脳みそが焼き切れるかと思った……あそこまで行くと、気持ちイイより、恐ろしいになるわね、うん。刺激をカラダが処理しきれないわ……」


「どうでもいいから、早く足のコイツを取ってくれ」


ぶつぶつつぶやくアルルカに、俺がぶすっとした声で言うと、ようやく思い出したかのようにパチンと指を鳴らした。そのとたん、俺の足を固めていた氷が砕け、無数の雪片になった。やれやれ、ようやく足が伸ばせるぜ。

俺が立ち上がると、アルルカも立ち上がった。よだれでべとべとになった自分の胸元を見下ろして、心底嫌そうな顔をしている。


「うぇ……冷静になってみると、ちょっとどうかしてたわね。あたし、なんであんな事したのかしら」


「おお、そうか。どうかしてるのは理解できたんだな。あと十分ほど早く冷静になってくれてたら、なおよかったんだけど」


「う、うるさいわね!」


ったく、えらい目にあった。茂みを抜け、焚火のもとに戻ると、ちょうどフランとエラゼムも帰ってきたところだった。


「おっ、二人も今戻ってきたところか」


「うん……そっちこそ、二人してどこ行ってたの」


「えっ。いや、あれだよ。ほら、今日は満月だろ?アルルカに血をやらなきゃいけなくてさ。ハハハ……」


「……ふぅん」


フランはすっと目を細めたが、それ以上は追及して来なかった。い、今考えると危なかったな。もしもあの現場を見られていたら、フランがどれほど怒り狂うか……


「…………クスッ」


その時、俺の背後で、アルルカがいたずらを思いついた子どものようににやーと笑ったことに気付けたのは、誰もいなかった。


「……あぁん」


「え?アルルカ?」


隣にいたアルルカが、急に足をもつれさせた。とっさに手を伸ばしてしまったので、アルルカはむぎゅっと俺に寄りかかってきた。フランのまなじりがピクッとひくつく。


「お、おい、しゃんとしろよ。まだ千鳥足なのか?」


「そうみたい。あんたのアレが、あんなに激しかったから……」


(ピクピクッ)


「ばっ……ばか、適当なことを言うな!」


「なによ、ほんとのことでしょ。あたし、嘘言った?」


「ぐ……まぁ、確かに嘘ではないけど」


「は?」「はぁ!?」


え?怒気のこもった声は、二重に聞こえた。フランとウィルが、全く同じタイミングで声をそろえて、一歩身を乗り出したのだ。いつもなら、フランだけが怒るのがお決まりのパターンだったけど……

二人のほうも、ここで被るとは思ってなかったらしい。お互いの顔を見つめて、きょとんとしている。


「……ははぁーん。これは、ちょっと面白くなってきたわね」


アルルカだけは、心底楽しそうにくすくす笑っていた。俺からすると全然笑えないんだけど。今後、フランだけじゃなくて、ウィルにも怒られるかもってことだろ。冗談じゃないぞ……


「あー!血もやったし、今日は疲れたなー!明日も早いから、早く寝よう!」


これ以上話を長引かせるのはまずいと判断した俺は、やたらと大声で宣言すると、毛布を引っ張り出してごろりと横になった。もちろん、みんなには背を向けて。


(まったく、アルルカに関わるとロクなことがないな)


来月はもっと気を付けないと。でも、ちょっと驚いたな。ウィルは特段、下ネタNGとかじゃなかったと思うんだけど。なんでだろ?やっぱり、先日の一件のせいだろうか。

幸いにして、寝っ転がった俺に追撃は飛んでこなかった。しばらくすると、ライラがごそごそと毛布に潜り込んできたので、俺たちは互いを抱いて眠りについた……


「ぶはぁー!はぁ、はぁ、はぁ……」


数時間後に目が覚めた。ライラのもさもさの髪に顔が埋まり、窒息寸前になったのだ。




翌日になると、俺たちはいよいよ険しい峠道を登り始めた。カミソリのように薄く鋭くなった岩盤がギザギザと連なり、まるで岩礁の中を歩いているみたいだ。


「ここ、ほんとに街道なのかよ……」


『ええ、間違いありません。ここまでくると馬も走れないので、旅人や商人は逆に馬を引きながらここを進むのですよ』


「うわ。俺ぜったい、商人にはなれないわ……」


標高が上がるにつれ、空気も薄くなってくる。気温も下がっているはずなんだけど、太陽をいやに近く感じるせいで、むしろ暑いくらいだ。ふと隣の山を眺めると、山裾に広がる、笠のような雲を見下ろすことができた。雲よりも高いとこまで登ってきたんだな……どうりで日差しが強いわけだ。


「くっそー、あいつらは楽そうでいいよな……」


俺は前方上空を飛んでいる二人……すなわち、ウィルとアルルカを恨みがましく見上げた。空を飛べる二人は、悪路の影響をものともしない。ウィルはふわふわと山肌の上を滑り、アルルカはさらに高い所を飛んでいるので、山鳥と見間違えそうだった。


「桜下殿、大丈夫ですか?」


バテ気味の俺を見かねて、エラゼムが声をかけてくる。彼は重い荷袋を背負っているが、疲れたそぶりはちっとも見せなかった。ちなみに、ライラはとっくの昔にバテて、フランに負ぶられている。


「少し休みましょう。高山帯で無理を押すのは、得策とは言えませぬぞ」


「そう、だな……はぁ、はぁ」


いつもよりも息が上がるのが早い。勇者の体のおかげでだいぶん体力は付いたが、酸欠という根本的な問題はどうしようもなかった。

傾斜だらけの中、少しでも平らな場所を探そうと、俺は何度も尻を持ち上げた。その点、ライラは賢い。俺が適当な岩の上にあぐらをかいた後、その上にちょこんと座ることで、場所を確保したからだ。

水筒の水でごくりと喉を潤すと、俺はアニにたずねてみた。


「アニ、ドワーフの鉱山まで、あとどれくらいなんだ?」


『そうですね、まだ三合目と言ったところですか』


「えぇー……まだそんなんなのかよ」


『まだまだ、地面の色が普通ですから。コバルト山脈の上層は、地質の影響でその名の通り、青色をしているのです。なので、地面が青く色付いてきたならば、もう間もなくと見てもいいでしょう』


「へぇー」


青い山脈か。そういや、昨日の夜に山を見上げた時も、輪郭が青く見えたっけ。そこまで登れば、ゴールまであと少しってことだな。


「けど、山の上の方は雪が積もってたよな。登っていけば、そのうち雪が降りだすのか」


『はい。吹雪かれると面倒なので、できれば一息に登ってしまいたいところですね』


「そうだな。雪の中で立ち往生はごめんだ」


その場面を想像したのか、俺のあぐらの上に座るライラは、ぶるりと体を震わせた。今日で降雪帯のギリギリまで攻めて、明日、一気に登ってしまうのが吉だろうか?

しかし、俺が組み立てていた計画は、あえなく頓挫した。上空高くを飛んでいたアルルカが、不吉な報せとともに舞い降りてきたからだ。


「ちょっと。話があるんだけれど」


「うん?どうした、アルルカ?」


「いやぁ、この辺の空は気持ちいいわね。雲もないし空気も澄んでるから、ずいぶん遠くまで見渡せるのよ。それで、高度を上げてたんだけど……なぁーんか、見えるのよねぇ。山の下の方に」


「は?動物とかか?山羊(ヤギ)とかさ」


「そうかしら。そいつら、ずーっとあたしらの後を付いてくるんだけど。ずいぶん変わった山羊ね?」


む……そうなると、話は別だな。人間の後をつける山羊は、そうそういないだろう。


「……追跡者がいる、ってことか?」


「そんな気がするわ。さすがに遠すぎて、はっきりとは見えなかったけど。あるいは、ほんとに山羊かもね?」


くすくすと、からかうようにアルルカは笑う。けど俺は、なんとなく冗談ではないような気がした。アルルカはよく俺をからかうが、こういう分かりづらい冗談は言わないような気がする……たぶん。


「それなら、一度様子を見ておくか」


用心に越したことはない。俺は胸元のアニを見下ろした。


「アニ。いつかの、遠視魔法を頼めるか?」


『かしこまりました。それでは…………ホークボヤンス』


アニから青い光が放たれると同時に、俺の視界がぐいんと空を飛んだ。アニの魔法によって、視野だけが俺を離れ、遠くを覗いているのだ。俺は山肌の上を飛び、今まで登ってきた道をびゅんびゅん逆戻りしていった。

そうして、少なくとも一キロ以上はさか降りた(・・・・・)だろうか。


「見つけたぞ……」


険しい山道を、数人の旅人が登っている。けど、まだ怪しいかどうかはわからない。確かに俺たちと同じ道を通ってはいるが、そもそもここは一本道の街道だ。俺たちの後続は、おのずと後をついてくる形になる。


(もう少し近くで見てみよう)


俺はそいつらに近づいて行った。人数は四人。先頭を行く男が一人に、あとに続く女が三人だ。男一人に、女三人か……なんだか、見覚えがあるパーティーだ。


「……げっ!」


その男の顔をよく見た途端、俺は思わず唇をゆがめた。なんでかって、そりゃあ。そいつは、金髪碧眼の、絵にかいたような正統派勇者。以前に一度矛を交えた、一の国の勇者・クラークだったからだ。




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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