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13-4

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「さて、しかし探すって言ってもなぁ……」


俺は今、物静かな通りを一人で歩いている。俺以外には、人っ子一人見当たらない。それはつまり、探し人であるウィルの姿も見えないということだ。

通りには一定間隔で、三の国との国境で見た、光の球のついた街灯が立っている。おかげで夜道でも歩ける程度には明るかったが、幽霊であるウィルの手がかりを見つけるには不十分だった。


「この辺で幽霊を見かけませんでしたか?なんて聞けるわけもないしなぁ」


そもそも、人がいないし。俺は闇雲に、道という道、家という家の前を歩き回っていた。


「あ。そういや、アニ」


『なんですか?』


「前にさ、ライラのことを、魔力だかで見つけてくれたことがあったよな。あれ、もう一度できないか?」


『ああ、ありましたね。というか、実はさっきからやってはいるのですが』


「あれ、そうなの?」


『ええ。ですが、どうにも探知範囲は広くないようです。幽霊シスターの魔力は、全く掴めません』


「そうか……」


『ただ、主様ならば、より広範囲を探知できるやもしれません』


「え?俺?」


『はい。何といっても、ネクロマンサーですから。以前から、アンデッドの気配を掴むことはできていたでしょう?』


ああ、言われてみれば。フランやエラゼムみたいな、強い力を持ったアンデッドの存在を、俺は察知することができた。ただ、ウィルはどうだろうか……


「ウィルの“力”は、アンデッドとしては弱いからな……」


アンデッドになって間もないからか、ウィルの“気配”はかなり弱い。とはいえ、手がかりらしい手がかりがない以上、これが唯一の糸口だ。


「やってみるしかないか」


俺は目を閉じて、意識を集中させた。

視界が暗くなり、俺はぽつんと、闇に取り残される。真っ黒な海を、独りぼっちで漂っているみたいだ。

……遠くに、強い輝きを感じる。海のかなたの灯台のように、またたいている……違うな、これはフランたちだ。ウィルはこんなに強い輝きじゃない。どちらかというと、吹けばすぐに消えてしまいそうな……恒星じゃない。六等星くらいの、そんな輝き……


「……見つけた」


俺は、目を開けた。はっきりとではないけど、見えた気がする。ゆらゆらと、明滅するような光。じっと見つめてやらなければ、そこにあることさえ気づかないような、そんな弱い輝きを……


『主様、わかったのですか?』


「ああ。たぶん、こっちだ」


俺は自分の直感を信じて、足の進むままに歩き始めた。驚いたことに、俺の進む方向は、闇雲に歩き回っていたころと変わらなかった。無意識のうちに、俺はウィルのいる方へ引き寄せられていたらしい。


『主様。再三ですが、警告しておきたいことがあります』


「アニ?なんだよ。さっきの続きか?」


『そうと言えばそうですが……先ほども言いましたが、主様の下僕はアンデッドです。人間ではありません』


「それは、わかってるよ」


『本当ですか?私から見れば、主様は彼ら彼女らを、人間と同じように扱っているように感じます』


「……それは、どういう意味だ?」


『彼らは、人間とは違う種族なのです。もとは人間でしょうが、今はモンスター。両者は本来、相容れない存在です。主様の能力のおかげで、他の人間とも多少は対話ができていますが、ひとたび離れれば、モンスターとしての本能を取り戻していくのですよ』


「だから、それがどういう……」


言いかけて、はっとした。つい最近、そんなような事がなかったか。俺が目を離したすきに、仲間が人間ともめ事になることが、あったじゃないか。


「……まさか、この前の喧嘩のことを言ってるのか?城で働いてた時の」


『そうです。あれは全然可愛いほうだとは思いますが。本当なら、アンデッドが人間と共同作業などできるはずがないんですよ。私も驚きましたが、それだけ主様の能力が強いということなんでしょうね』


「そう、だったのか……」


だけど、考えてみればもっともだ。アンデッドうんぬんということを抜きにしても、仲間たちは全員、過去に深すぎる傷を負っている。特に、フラン、エラゼム、ライラの三人は、人間に強い恨みを抱いているのだから、喧嘩程度で済んだのは、むしろ幸運だったのかも……


「ん……ちょっと待てよ。てことは、一人でいればいるほど、あいつらはモンスターに近づいていくってことか……?」


『その予感がします。単純に能力の効果が薄れるのもありますが、一人でいることによって、孤独感から精神汚染が加速し、そして狂気に飲まれれば、アンデッドはより狂暴になります』


「孤独……」


ここしばらくの間、俺はウィルとほとんど話せていない。ライラやフランたちに掛かりきりで、ほったらかしにしがちだった。そして今、あいつはこの町のどこかで、一人でいる……


「これか……嫌な予感の正体は」


さっき感じた胸騒ぎ。フランが言っていたことの意味も、これならわかる。このまま放っておけば、ウィルは……


「……急ごう!」


ちんたら歩いてはいられない。街頭に照らされた道を、俺は全速力で走り出した。


王都の町はきっちりと区画が整理されていたが、それは似たような十字路がいくつも現れると言うことだった。つまり、めちゃくちゃ道が分かりづらい。今どこにいるのかさっぱり分からないが、それでも、ウィルの居る方角だけは微かにわかる。それを頼りに、俺はいくつも曲がり角を曲がり、階段を上り、行き止まりを引き返し……いつしか、王都の一番外郭、町をぐるりと取り囲む城壁のそばまでやっていていた。


「はぁ、はぁ……う、ウィルは……」


全力疾走を続けて、心臓がはちきれそうだ。けど確実に、ウィルはこの近くにいる。彼女の魂の存在を、さっきよりもいっそう強く感じているからだ。俺は汗をぬぐうと、震える膝に喝を入れて、石段を上り始めた。


「……ん?」


ふと、階段のわきから少し離れた所に立っている、一軒の家が目に留まった。つたに絡まれたその家は、ずいぶん背が高い。三階建てくらいか?崖のふちに身を乗り出すようにして建っているから、より縦に長く感じるのかも。階段の途中で脇道が伸びて、その家まで続いているが、背の高い雑草が生い茂ってほとんど獣道みたいになっている。たぶん、空き家になってずいぶん経つんだろう。


「なんだろう……」


なんてことはない、ただの空き家だ。だがなぜか、俺はその家が気になって仕方なかった。その理由を探して、俺は家の隅々に目を凝らす。割れた窓ガラス、つたの生い茂るバルコニー、ひびの入った壁……そして、その一番上。瓦のはげかけた屋根の上に、一人の少女が座っていた。半透明で、夜の闇に溶け込むように透けている……


「あ……!」


間違いない、ウィルだ!ウィルはまだ、こちらに気付いていない。


「……」


『主様。気付いていますか』


「ああ……ビリビリくるぜ」


俺は手の甲で、あごに垂れた汗を拭った。

ここまで来たら、はっきりと感じ取れるようになった。あいつは、ウィルだけど、ウィルじゃない。魂が、変容しかけているんだ。月に影が落ちるように、闇が空を覆うように。


ウィルは、悪霊になりかけている。




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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