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10-2

10-2


ひとしきり俺をいじめると、ロアは満足したらしい。悪い笑みを消すと、椅子にもたれて腕組した。


「まあ、貴様への愚痴は次の機会にしよう(次があるのか……)。それよりも、興味深い土産話があるそうだな?」


「まあな。俺たちだって、考えもなくもめ事に首を突っ込んだわけじゃないんだぜ?」


「なるほどな。よろしい。では、昼食を取りながらその報告を受けるとしよう。エドガー、下で食事をもらってきてくれないか?」


「え。私がですか?というかロア様、ほんとうに城にはお戻りになられないので……?」


「くどいぞ。それより、時間が惜しい。今から城に戻るよりも、ここで食事と報告を兼ねる方が合理的であろうが」


「う……」


エドガーは何か言いたそうに口をもごもごさせていたが、やがてガクンとうなずいて(ほとんどうなだれていると言っていいほどの角度だった)、下におりて行った。エドガーも、ロアの前だと形無しだな。


(にしてもロアのやつ、こんなにおてんばだったか?)


今まで俺が見た王女様といえば、切羽詰まっているか、怒っているか、泣いているか……そんな顔ばかりだ。たぶん、今のロアのほうが、本来の彼女の姿なんだろうな。

エドガーが三人分の食事を、器用にガチャガチャと持ってくると、さっそくロアが口を開いた。


「さて?ではさっそくらふぁ、やふにふいてひほうは」


ロアはパンをほおばりながらだったので、後半が人間の言語になっていなかった。ウィルですら、行儀の悪さに軽く引いている。エドガーは顔を押さえたまま、悲しげに首を振っていた。なんか、彼が一気に苦労人に見えてきたぞ。


「あー、えっと?マスカレードについて、の報告でいいのか?」


「ごくん。そうだ。奴が現れたと聞いたが、本当か?」


「ああ。三の国で一回、こっちに戻ってきてから一回。計二回だ」


「なに!?我が国にも現れたのか!」


「ああ。て言っても、直接やつと戦闘になったのは三の国だけだ。二回目の時は、あいつは怪物を呼び出して、代わりに暴れさせたからな」


「怪物……もうここまで来ると何でもありだな。いっそ、ドラゴンにでも乗って現れてくれ」


「ドラゴンか……実は、それについても話があるんだ」


「え、うそ。まさか、ほんとうにドラゴンに乗っていたのか……?」


「ああ、違う違う。じゃなくて、旅の途中で出会った人から、“七つの魔境”についての話を聞いたんだ」


「七つの、魔境?」


ロアは、はじめて聞いたというように、小首をかしげた。やっぱり、王族であるロアも知らないんだな。


「七つの魔境って言うのは、前の大戦のときに、竜が倒された場所のことを言うんだ。今はそこは、竜の呪いで魔境と化してて、それが全部で七つあるからそう言うんだってさ」


「前の大戦……三十三年戦争のことか。確かに、ドラゴンとの戦闘記録はある……だが、正確な数までは伝わっていないな……」


「王室でも、記録とかは残ってないのか?」


「三十三年戦争は特殊な戦争だったからな。なにせ、戦うのはほとんど勇者だ。大規模な部隊を動かすならともかく、数人からなる勇者のパーティの動向となると、どうしても抜けが出てきてしまうのだろう」


「なるほど……けど、相手はドラゴンだぜ?そのへんのモンスターとはわけが違うだろ」


「ああ……もう一度記録を漁ってみるが、しかし七頭もの竜などという記録は、我が国のどの歴史書にも記されていないはずだ。となると、他国での戦闘だったのかもしれんな」


「あ、そうかも。その人も確か、大陸で七つって言い方してたから」


「ふむ。まあ、今はそれはいい。その話と、マスカレードとはどのように関係してくるのだ?」


「ああ、考えてもみてくれよ。マスカレードが持ってた、あの杖。竜木の杖だっけ?あれって、すごく珍しい物なんだろ?」


「そうだ。竜の牙から一本しか削りだせない代物で、非常に希少な……あ!」


ロアははっとすると、手に持っていたスプーンをことんとテーブルに落とした。


「そうか、奴は竜の素材を、その魔境から取り出しているのか……?」


「俺たちも、そうなんじゃないかと思ってる。奴の目的は分からないけど、少なくとも目的地はそこなんじゃないか?」


「なるほど、それで竜の死んだ地に……」


ロアはスプーンを拾うと、まるで考えを整理するかのように、皿から一口すくってもごもごと頬張った。今日のメニューは、丸いパンとコーンフレーク?(ちょっと分厚めで、クルミの味がする)だった。

ロアはひとしきり咀嚼すると、ごくんと飲み込み、口の中を空けた。


「では、その魔境とやらで待ち構えていれば、マスカレードのしっぽを掴めるやもしれんのだな」


「うん。ところで、魔境の場所がわからないんだけど……」


「おおよその目星は付く。かつて竜との戦闘があり、かつ現在立ち入り禁止の場所はそう多くないだろう。むしろ問題は、どれだけの戦力を割くか、だな。やつは、そんな危険地帯に、単身ほいほい入り込んでいくような輩なんだろう?」


「ああ。アイツの力は、結構厄介だぜ……さっきも言った怪物もそうだけど、それ以外にもやつは、闇の魔力を持っているみたいなんだ」


「な……に?」


たっぷり間を開けて、ロアがそれだけ絞り出す。


「一度、あいつが使ってきたのを見たんだ。実際に俺も食らった。アニが言うには……あ、俺のエゴバイブルのことな。その可能性が高いんじゃないかって」


「それは……」


ロアは頭が痛いというように、こめかみを指で押さえた。


「……お前は、よく無事だったな。闇の魔法を食らったのだろう」


「なんとかな。俺は元とはいえ勇者だから、耐性があったんだろうって」


「なるほど……はぁ。奴の手の内を知れば知るほど、かえってこちらが不利になっていく気がするな。闇の魔力だと?奴の正体は、伝説の魔法使いかなにかか?」


ロアは苦々しげにこぼすと、まるでそれをマスカレードだと思っているかのように、パンを噛み潰した。

確かに、元勇者である俺からしても、あいつの能力はべらぼうなものばかりだ。前に戦ったときは、フランの怪力すら振りほどき、エラゼムの大剣にすら傷を負わせたのだから……


「まあ、ヤバイやつなのは確かだよな。俺が言うのもあれだけど、まるで勇者みたいだ」


「ふん、だとしたら飛び切りの悪の勇者だな。確かに勇者でも遜色ない肩書だが、ここ十年勇者はおろか、国内外からも闇の魔力保持者の報告は上がってはおらぬ」


ああ、闇の魔力を持つものが現れると、国を挙げての大騒ぎになるって、アニも言っていたっけ。


「てことは、正体は検討もつかない……か」


「右に同じ、だ。ふぅ……一難去ってまた一難だ。ハルぺリンがおとなしくなったと思えば、それより厄介なのが出てきおった。それはさすがに、野放しにしてはおけん」


「でも、どうするんだ?あいつを捕まえるのは、相当骨だぜ」


「わかっている。かといって、王都がこの状況では、兵力も多く割けんしな。監視の目を置いて、動向を掴むのが関の山だろう」


だろうな。本気であいつを倒す気なら、王都の兵を全員動かしても足りないと思うし。


「今はまだ、不明な点が多すぎる。奴の目的なり素性なりがはっきりしてくれば、より効果的な対策も打てるようになろう。そうすれば、奴を捕らえる機会も必ず訪れるはずだ」


ロアの声はどちらかというと、そう信じたい気持ちが強いようだった。俺も似たような気持ちだ、あんなおっかない奴……なるほど、俺を追っかけている時のロアは、こんな気分だったのだろうか?


「そうだ、動向と言えば。お前たち、三の国に行ったんだったな?どうだった?」


「え?」


おっと、急にお鉢が回ってきたぞ。


「え、ではない。マスカレードについて、三の国で聞き込みをしてこいと言ったではないか」


ああ、そういえば。あっちでマスカレードについて聞き込みしてこいって言われていたんだっけ。しまった、ヴァンパイア騒動のせいで、すっかり忘れていた。


「……まさか、忘れていたわけではあるまいな?」


「ま、まさか。あーでも、その~……あんまり有力な情報は、得られなかったんだ」


本当か?と疑るロアに、俺はなけなしの情報を重ねる。


「マスカレードは、やたらと三の国のことには詳しかったな。ひょっとすると国ともつながりがあるかもって話してたけど、今のところ証拠はない。王宮にも行ったけど、これと言って目立つものはなかったよ」


「なに?お前、三の国の王宮に行ったのか?」


「へ?あ、うん。なんか、シリス大公?だったかに、俺の正体がバレててさ……」


「は?」「なんだと?」


ロアとエドガーが、ピシリと固まった。あ、やべ。二人はこのこと、知らなかったのか……


「あー、そのー、な。ははは。俺が勇者だってこと、三の国の王様にバレちった」




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

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