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6-1 城の仕事

6-1 城の仕事


パッパラッパ パッパパッパ パッパラッパパッパパー


「……んん?」


なんか聞こえたような……俺の肩になにかが触れる。


「起きて。朝だよ」


ゆさゆさ。むぅ、朝ということは、すなわち朝ということなんだろう……


「ふあ……」


俺はあくびを一つすると、目をぱちくり開いた。部屋の中はまだ薄暗い。相当早い時間のようだ。ベッドサイドに真っ黒な影が立っていてびくっとしたが、この暗がりの中でも、彼女の赤い瞳はルビーのように光っていた。


「フランか……」


「下で朝礼をするんだって。行かないといけないみたい」


ああ、昨日エドガーがそんなこと言ってたっけか……ずいぶん早い時間から始めるんだな。さて、であれば起きなきゃだな。俺が体を起こすと、隣にはライラが丸くなって眠っていた。後から横にもぐりこんできたらしい。


「ライラ。起きろ、朝だってさ」


「…………んん~~~?」


俺がライラをゆすると、ライラは小さく唸り、眠たそうに目をごしごしこすった。


「……まだ暗いよ……?」


「朝一に朝礼をするんだって。もう行かないと」


「…………」


ライラは腫れぼったい目をうすーく開いて、俺の顔を見上げている。まだ寝ぼけているのか?


「……だっこ」


「へ?」


「だっこして、つれてって」


ライラは腕を伸ばして、抱っこをせがんできた。ぜ、絶対寝ぼけている……普段あれだけ子ども扱いを嫌がるライラだ。しかし、今はそれよりも眠気のほうが強いらしい。


「つっても、抱っこで朝礼に出てもなぁ……」


俺が悩んでいると、フランが急かした。


「早くしないと、遅れるよ。みんな外に向かってる」


あ、ほんとだ。廊下をバタバタと走る足音がする。


「しょーがないな。ライラ、おんぶで勘弁してくれ」


俺はベッドのふちに腰掛けると、背中をライラに向けた。抱っこじゃ、ライラのもさもさの髪で前が見えなくなりそうだ。ライラがのしっと俺の背中に乗っかると、俺は彼女の細い足をつかんで、ひょいと担ぎ上げた。びっくりするほど軽い。


「さ、それじゃ俺たちも行こう」


フランが扉を開けてくれたので、俺たちは廊下に出て、営舎の外へと急いだ。

営舎の前には、大勢の兵士たちと、眼鏡をかけた職人らしき恰好が何人か、それに頭にタオルを巻いたいかにもガテンな男たちが集まっていた。


「遅いぞ!早くせんか!」


うひゃ。前に立っているエドガーが、俺たちを見つけるや大声を飛ばしてくる。俺たちは急いでガテンたちの列の端っこに並んだ。


「くすくす……なんだ、子連れで登場か?」


「おいおい、ガキをおぶったまま仕事する気じゃねぇだろうな?」


むっ……俺たちが脇を走ると、そんな冷やかしがパラパラと飛んできた。けっ、言ってろ。

俺たちが列に加わると、エドガーが説明を始めた。


「諸君らには、これから各持ち場へ向かってもらう。昨日と引き続き同じ現場のもの、移動になるもの、それぞれバラバラだ。きちんと自分の持ち場を確認してから向かうように」


兵士たちが一斉に返事をしたので、俺もとりあえずうなずいておいた。けどよく見ると、返事をしたのは王国の兵士たちだけのようだ。


「現場についてからは、監督役の棟梁の指示に従うこと。昨日に引き続き、現場で見聞きしたことは一切他言無用、物品はたとえレンガ一つでも持ち出し禁止だ。違反すれば、最悪極刑も免れないことを、改めて説明しておくぞ」


ひー、やっぱり厳しいな。なんだったら、靴の裏に挟まった小石まで落として行けとか言われそうだ。


「では、これから各自現場の棟梁たちが班を分ける。よく聞いて、自分の現場へ向かうように。以上!」


エドガーが大声で怒鳴ると、とたんに喧騒があたりを包み込んだ。職人姿の人たちが大きな声で、A班はこっち、B班はあっちと呼んでいる。それに従って、みんなぞろぞろと移動をしていた。おい、けど俺たちは?班なんか聞いてないぞ?俺がおろおろしていると、群衆をかき分けて、エドガーがこちらへ近づいてきた。


「おい。お前たちはこれから班分けをするぞ」


「あ、そういうことか。わかった」


「ではまず、力自慢のもの。誰と誰だ?」


力、か。いうまでもなく、この二人だろう。フランとエラゼムが、並んで一歩進み出た。


「うむ。お前たちには、城内の補修に回ってもらう。資材搬送が担当だ」


二人がうなずくと、次にエドガーは、魔術の得意なものを指名した。


「魔法なら、お前らだな。ほれ、ライラ。そろそろ下すぞ」


俺は半分寝ぼけているライラを下すと、そろーり後ろに下がっていたアルルカをぐいと前に突き出した。


「こいつらがか……?」


エドガーが太い眉をぐにゃりと歪める。まぁ、確かにな……一人は幼女、もう一人は黒マントにマスクだ。


「あはは……でも、腕は確かだ。ロアから聞いてるだろ、スパルトイを飲み込んだ竜巻のこと」


あのどでかい竜巻を作り出したのは、間違いなくここにいるライラだ。あの時はほとんど意識のなかったエドガーでも、更地になった森のことは知っているだろう。エドガーはぐっと口をつぐむと、重々しくうなずいた。


「……わかった。では、お前たちの持ち場は正門の修理だ。あそこではどうしても大掛かりな工事が必要になるから、それをサポートすることになるぞ。いいな?」


エドガーの念押しに、ライラは大きなあくびで答えた……エドガーの頬がひくひくと動く。


「だ、大丈夫だって……な?」


俺はかがみこむと、ライラの肩に手を置いた。


「ライラ、頼んだぜ。お前の魔法がすごいってこと、ここの連中に見せつけてやれよな」


「桜下……うん、わかった」


ぽやぽやしていたライラの目がしゃっきりした。うん、これできっと大丈夫だろう。それと、注意すべきはもう一人だな。


「おい、アルルカ」


「……ぁによ」


俺はアルルカのマントをついと引っ張ると、彼女の耳に口を寄せた。


「いいか、ちゃんと現場の人の指示に従えよ?」


「なっ。あたしが、人間ごときに指示されろっていうの?冗談じゃ……」


「いいから、よく聞けって。ここの連中は、お前のことひ弱なザコ女だと思ってるんだぞ」


「……は?」


ピシ。アルルカの顔色が変わった。よし、いいぞ。


「お前がつっかえない、役立たずだと思ってやがるんだ。だから、その鼻を明かしてやってほしいんだよ。お前の力なら、それくらい余裕だろ?」


「……いーじゃない。上等よ。あたしを舐めたらどうなるか、思い知らせてやるわ……!」


これでよし。ある意味ライラより単純だった。


「頼んだぜ。けど、やりすぎんなよ。何か問題があったら、ぜーんぶ月末にかかってくるからな」


「うっ……わかってるわよ」


「ああ、あとそれと。できれば、ライラのことも気にかけてやってくれ」


「え?」


アルルカがきょとんと俺の顔を見つめ返した。


「大人ぶってるけど、まだ小さな子どもだからな。今日あいつの近くにいてやれるのは、お前だけだ。無理しないように、お前が見といてくれよ。な?」


するとアルルカは、心底意外そうに俺を見つめた。


「……あたしでいいわけ?」


「ん?ああ。だから頼んでる」


「……」


アルルカはなぜかむすっとして、俺から顔を背けた。


「……ガキのお守りなんて、ごめんだわ。けど、たまに様子を見るくらいなら……してあげても、いいわよ」


「おう。頼んだぜ」


俺はアルルカの肩をぽんと叩くと、彼女のそばから離れた。


「ごめん、待たせたな」


俺はエドガーのそばに戻った。エドガーはまだライラたちに疑惑の視線を向けていたが、最後に残ったとウィルに目を戻した。


「それで。お前は、何が得意なんだ?」


「俺?俺は……フランたちみたいに怪力なわけでもないし、ライラたちみたいに魔法ができるわけでもないから……」


だから……俺はぽりぽりと頬をかいた。


「その……雑用係とか、ないかな?」


「……はぁ~~~~…………」


特大のエドガーのため息。癪に障るなぁ、もう。


「な、情けない。おぬし、それでも元勇者か!」


「わ、声でかいって!しょーがないだろ、ウソ言っても仕方ないんだし」


「むぅ……わかった。お前にも仕事を見繕ってある。後で道具を届けさせるから、お前は自分の部屋に戻っておれ」


え?部屋で仕事をするとは思ってなかったな。でもそうすると、四人とはここでいったんお別れだな。


「じゃあな、みんな。またあとで」


俺とウィルは、仲間たちに手を振った。俺たちが見送る中、フランとエラゼムは城のほうへ、ライラとアルルカは城門のほうへ向かうグループに加わっていった。大丈夫かな……いや、セイラムロットでも別行動を取ったんだ。今回も大丈夫、みんなを信じよう。




つづく

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2倍期間は本日までとなります。

お楽しみいただけましたでしょうか?

明日からは通常投稿に戻りますので、引き続きよろしくお願いいたします。


読了ありがとうございました。


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Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


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