表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
315/860

4-2

4-2


「わかった。なら頼むよ、エドガーさん」


「よし、決まりだ」


エドガーはうなずくと、腰に付けたポーチの中から、黄ばんだ紙と鉛筆を取り出し、なにやらさらさらと書きつけた。


「では、これをもって先に王城へ行け。私たちはくだんのギルドを訪ねなければならん」


「あ、お、おう。でも、その後どうすんだ?」


「そのメモを城の者に見せればわかる。では、後でな」


エドガーはメモを俺の手に押し付けると、部下たちを連れてどかどかと行ってしまった。


「……なんだか、妙なことになったなぁ」


俺は頬をかきながら言う。王都についた途端にこれだ。つくづく、この町とは相性が悪いらしい。


「王城でのお仕事って、いったい何をするんでしょう?」


お説教の途中で乱入があったせいか、ウィルは怒りを忘れ、いつもの調子に戻っていた。


「さてなぁ。戦いでぶっ壊れちゃった城壁の修理とかかな?」


「ああ、そう言われれば。王都の門の一つが壊されていましたね」


アレを直すとなると、確かに人手がいりそうだ。大変そうではあるけど、そのぶん賃金も期待できるかもしれない。


「それじゃあ、王城に行ってみようか。そこで詳しいことを説明してくれんだろ」


またあそこに、しかも今度は仕事をしに行くことになるとは……旅はしてみるもんだな、まったく。




王城正面までやってきた。城下町を抜け、森の中を抜けた先に、その城はそびえ立っている。森の一部は、前回の戦いで俺たちが吹き飛ばしてしまったせいで、丸裸になっている。以前は唯一生き残った巨大なモミの大木だけが、ぽつんとむき出しの大地に根を下ろしていた。しかし今は、その周りに木の苗が植えられ、ボロボロだった地面もきれいに整備がされていた。


「わぁ……まだまだだけど、でもずっとキレイになったね!」


ライラが森の雛を見て、嬉しそうに笑う。王城を出る際、俺はロアに、この森の再生をお願いしていた。どうやら、その約束は守ってくれているようだ。


「時間はかかるだろうけど……きっと、きれいな森になるさ」


「うん。そうなったら、嬉しいな……ありがとね、桜下。それと、ごめんね」


「うん?ここのことか?別に謝られることは……」


「ううん、そじゃなくて、さっきのこと。ライラのせいで、桜下に謝らせちゃって……」


「ああ、気にすんなよ。ウィルの言う通り、ありゃみんなの責任だ。ま、次から気を付けようぜ。ウィルもおっかないしな」


「くすっ。そうだね」


森を抜けると、城を囲むお堀へと出る。対岸の城門からは跳ね橋が掛けられ、そこから城内へと、客人を招いていた。


「城の人にメモを見せろって言われたけど……それって、誰なんだろうな?」


跳ね橋を渡りながら、俺は前方を見つめた。そびえ立つ城壁に、ぽつんと開いた門が迫ってくる。門の手前には、衛兵と思しき兵士二人が槍を構えて立っていた。


「……町の者か。王城に何用か、申せ」


俺たちが近づくと、兵士のうちの一人が固い声でそう告げた。さて、この人たちに話が通じるといいのだけど。俺はメモをポッケから取り出した。


「その、ここの騎士団長さんの紹介で来たんだけど……メモを預かってるんで、見てもらえます?」


「なに?隊長殿の?」


兵士は眉をひそめると、俺の差し出したメモを受け取り、その文面に目を通した。すると兵士の顔がぐにゃりと歪んだ。な、なにが書いてあったんだろう……?


「……まったく、あの人らしい。わかった。付いてきたまえ、案内しよう」


「あ、は、はい」


どうやら、話は伝わったらしい。兵士はもう一人の同僚に声をかけると、俺たちを連れて城内へと歩き出した。


「……あのー。聞いてもいいですか?」


「うん?なんだね」


「その、ここで仕事を紹介してもらえるって聞いたんですけど……」


「ああ、そうだよ。そうするようにと、あの手紙に書いてあったよ、まったく」


「……それって、なんかヤバい仕事とかじゃ、ないっすよね?」


「え?ああ、そうじゃあない。今この王城は、前の戦いでずいぶん傷んでしまったんだ。早急な修復が必要なんだが、うかつに信用のおけない者を雇うことはできない。城の弱点を知らしめるようなものだからな。とくに、まだハルペリンの残党が残っているかもしれない今この時期は」


「あ、そっか。あれ、じゃあ俺たちは、信用の置けるものとして推薦されたってこと?」


なんだ、エドガーのやつ。意外と見る目があるじゃないか。しかし、兵士は笑いながら首を振った。


「いいや。あのメモには、“この者たちは下手な賊よりよっぽど信用できないから、王都で野放しにするより手の届くところで監視したほうがいい”と書かれていたよ」


「……あ、そっすか」


やっぱあいつ、見る目ないわ。


「まあ、隊長殿が城の仕事を紹介したってことは、最低限信用できる者たちだとは思っているんだろう。励んでくれよ」


イマイチ励みにならないことを、兵士は言った。

兵士は城の中へは入らず、城壁との間に設けられた庭を横切っていく。その先には、兵士たちのものだろうか、大きな木製の営舎が立っていた。端には馬の繋がれた厩舎(きゅうしゃ)が建っている。


「さ、入りなさい。ここが君たちのしばらくの家だ」


「え?」


兵士が営舎の前に立って言った。


「仕事の間はここに住み込んでもらうよ。どうせ宿暮らしなんだろう?ここなら宿代は掛からないからな」


「いいのか?助かるけど……」


「ああ。だいぶ欠員が出たからね、部屋は余っている」


欠員……ああ、そういう……前の戦いでの、戦死者のことを言っているんだろう。


「どこか適当な空き部屋を使ってくれ。隊長殿が戻られたら、改めて仕事について説明するそうだから、それまでは自由にしているといい。ただし、あまり城内をうろつくなよ」


「あ、うん。わかった。どうもありがとう」


兵士は片手を上げると、元の持ち場へと戻っていった。


「さて、今日の宿まで決まっちまったな」


王城に泊まるのはこれで二度目だ。ただし、今回は前回と違って、およそ豪華な部屋ではないだろうが……

営舎の中に入ると、やはりというか、質素なつくりになっていた。けどボロかといえばそうでもなく、掃除も行き届いていたし、すき間やふし穴の一つも見当たらなかった。王の住居の手前、あえて質素にしているのかもしれないと、エラゼムは言っていた。


「で、空き部屋っつっても……」


俺たちは、適当に営舎の中を歩いてみた。営舎は二階建てになっていて、一階は食堂や道具置き場などに、二階が住居区になっているようだ。何度も踏まれてすり減った階段を上ると、ずらりと扉の並ぶ廊下へと出た。扉には小さなネームプレートが取り付けられていて、名前がある部屋には、すでに住人がいるようだった。なので、空き部屋はすぐに見つかった。そのプレートの名前が、二重線で消されている部屋を探せばよかったからだ。


「……なんだか、入りづらいな。ほんのちょっと前は誰かの部屋だったんだろ、ここ。なんか出たりするんじゃ……」


「桜下さん……私とずっと一緒にいるのに、それはいまさらでは?」


ふむ、ウィルの言う通りだった。俺は名前の消された住居人に、心の中で断りを入れ、部屋の中へと入った。さすがに持ち物は整理されたようで、部屋はがらんとしていた。ベッドやタンスなんかは、もともと備え付けなんだろう。そんなには広くないけど、今まで泊まったひどい宿に比べれば、全然上出来だ。


「ん~……」


部屋に入るなり、ライラはベッドに腰かけ、目をこすった。


「ライラ?どうした」


「ちょっと、疲れた……さっき、おっきなまほーを使ったから……」


ああ、さっきのカマイタチか。大技を撃った後は、ライラはいつも眠そうにしていたっけ。


「だったら、少し寝てろよ。エドガーが来るまでは好きにしてろって言われたんだから」


「ん……そーする……」


それだけ言い残すと、ライラはぽてっと横になり、すぐにすぅすぅ寝息を立て始めた。この小さな女の子が、つい数十分前には王都をぶっ壊しかけたんだからな。ちょっと信じられないぜ。


「まあいろいろあったけど……結果的には、仕事と宿と、順調に見つかって、ばんばんざいだよな?」


俺は気楽に言う。ウィルは複雑そうな顔をしていたが、あきらめたようにふぅと息をついた。


「まあ、そうですね。結果オーライ、ってことにしときましょうか。これで、賞金も手に入っていればなお、だったんですけど」


「それはしょーがないな。なーに、コツコツやっていけば、そのうち目標金額に……」


ん?俺はそのとき、何かがおかしいことに気付いた。


「……なあ、ウィル。俺たち、なんか忘れてないか?」


「へ?そうですか?」


「うん……なんか、大事なことを……」


はて、なんだったか。俺とウィルは、そろって首をひねった。フランとエラゼムも顔を見合わせている。するとおもむろに、アルルカがぼそりとつぶやいた。


「……鍛冶屋に行ってなくない?そもそも、あそこに行ったのってそのためでしょ?」


………………………………!!!!


「あーーーー!それだーーーー!」


「か、完全に忘れてました……そのあとの出来事が強すぎて……」


「吾輩としたことが……くうぅ。な、情けない」


「なんで早くいわないの!バカ!」


「は、はぁ!?バカはそっちでしょ、この怪力バカ!」


俺たちの部屋は、一瞬で蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。この騒音の中でもすやすや寝ていられるライラは、尊敬に値するぜ……




つづく

====================


ゴールデンウィークは更新頻度2倍!

しばらくの間、毎日0時と12時の1日2回更新を実施します。

長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。


読了ありがとうございました。


====================


Twitterでは、次話の投稿のお知らせや、

作中に登場するキャラ、モンスターなどのイラストを公開しています。

よければ見てみてください。


↓ ↓ ↓


https://twitter.com/ragoradonma

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ