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結局、二人の勝敗はつかなかった。俺は二人をおすわりさせることで、不毛な争いに終止符を打った。

フランのビリビリになった服は、“ファズ”の呪文で元に戻すことができた。


「最初から、こうしとけばよかったんだよ……」


ライラを恨みがましそうに睨みながら、フランがぼやく。


「まぁ、こうして綺麗になったことだし、怪我の功名ってことで」


「代償が大きすぎるよ。ったく……」


フランはまだぶつぶつぼやいていたが、とりあえず溜飲は下がったみたいだった。


「さてと。服もきれいになったことだし、夜の準備をするか」


あたりはほとんど真っ暗になっていた。空の端っこに、わずかばかりの紫色が残っているが、それもじきに消えるだろう。かろうじて手元が見えているうちに、野営の支度をしなければ。


「桜下殿。薪でしたら、わずかですが集めておきました」


エラゼムが、片腕一抱えほどの枝を俺の前に置く。


「お、助かるよ。手持ちの燃料は、できるだけ節約したいから」


「ええ。ですが、この辺りは農耕には不向きなようです。あまり枝ぶりのいい木は見つかりませんで……」


「あー、確かに。こんなでっかい湖があるのに、木はほとんど生えてないもんな。土も白っぽいし」


「ここは地熱の活動が活発とのことでしたので、それが影響しているのやもしれませんな」


ふむ。火山活動とか、そんなのが関係でもしているのだろうか?かたや、この先の街道を進んだところには、豊かな麦畑の広がるワンパンの町がある。自然豊かだと聞いている二の国だが、町ごとの環境も十人十色のようだ。こうしてあちこちを旅していると、地域ごとの違いがわかってきて、ちょっと面白い。俺もこっちの世界について、少しは詳しくなってきたな。


「さて、火をたかないと。ウィル、頼んでいいか?」


「わかりました」


ウィルの得意な炎魔法で、薪の山に火を付けてもらう。細い枝がパチパチと音を立てて燃え始めた。


「桜下さん。ちょっと、相談というか、訊いてもいいですか?」


「うん?なんだ?」


焚き火のそばにかがんで、荷袋から食器を出すかたわら、ウィルがたずねてくる。


「この先って、どうするつもりなんですか?」


「どうって、メシ食って寝るつもりだけど……」


「ああいえ、そうではなく。この先の旅程について訊きたかったんです。北を目指すってことで、移動をしていましたよね」


「うん。なにか気になるのか?」


「ええ……あの、マスカレードのことです。なんだか、私たちの行程が、ぜんぶバレているような気がして。このままでいいのかなって……」


ああ、それは確かに……神出鬼没な奴は、いつも俺たちの行く手に先回りしている印象がある。


「そんな状態で、旅を続けても大丈夫なんでしょうか……」


「うぅん……けど、ならなおのこと、エラゼムの剣を早く直したほうがいいと思うんだよな。五体満足じゃないままでいるほうが、不安じゃないか?」


「それは、そうですが」


「それに、もし奴に俺たちの場所がわかってるんだとしたら、どこかに隠れても同じことだろ?」


「あっ。やだ、ほんとだ……」


ウィルはハッとしたように口を押えると、しゅんと肩を落とした。


「はぁ……ちょっと、ナーバスになってたみたいです。ごめんなさい」


「いや、気持ちはわかるよ。俺だって不気味だ」


ウィルの心配ももっともだ。しかし、どこかに隠れていれば事態が好転するというわけでも、またない。


「おねーちゃん、だいじょーぶ!またあいつが来たって、ライラがやっつけてあげるから!」


落ち込むウィルを見かねたのか、ライラが明るい笑顔で、ウィルの隣に座った。


「ライラさん……そうですよね。うん、安心しました」


「うん!」


「わたしも安心。大魔法使いはきっと、失敗を繰り返さないはずだから」


すかさずフランが嫌味を言うと、ライラは歯をむいて唸った。ウィルは二人をなだめる側に回ったことで、心配から気がそれたみたいだ。ウィルは心配しいだから、なにかと気苦労もかけているんだろうな。


(早いとこ、マスカレードの奴が捕まればいいんだけど)


闇の魔力をもち、マンティコアのような怪物を従え、国の転覆を謀る謎の男。野放しにしておくには、あまりにも危険だ。


(……ロアに相談してみるか)


このまま北に向かえば、王都を通ることになるだろう。王城に行くのはあまり気が進まないが、ロアに依頼された任務の報告もかねて、話をしてみてもいいかもしれない。ウィルはああ言ったけれど、心の奥底では不安なはずだ。それに、俺だって。


(……あいつとは、また会うことになる気がするんだよな……)


そんな予感がするのだ。



つづく

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ゴールデンウィークは更新頻度2倍!

しばらくの間、毎日0時と12時の一日二回更新を実施します。

長期休暇に、アンデッドとの冒険はいかがでしょうか。


読了ありがとうございました。


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