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3-2

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「……まあ、とりあえず。いったんは、ホッとしてもいいんですよね?」


ウィルがあたりを見回しながら、疲れた顔で胸をなでおろす。


「そうだな。逃げたってことは、あいつもこれ以上、やり合う気はないってことだろうし」


マスカレードとの戦闘で、焚き火はすっかり消えてしまった。俺たちは火を焚きなおすと、くたびれた体を引きずって、その周りに座った。


「しっかし、一時はどうなることかと思ったな。アルルカがいなかったら、正直ヤバかったかも」


俺は、輪から離れた所に一人佇むアルルカの顔を見た。アルルカの眉間の傷はすでに塞がっているようだったが、その白い顔は赤黒い血でべっとりと汚れていた。俺はアルルカの方へ向き直る


「アルルカ、助かったよ。ありがとな」


「……はぁ?別に、アンタたちのためにやったわけじゃないから。礼を言われる筋合いはないわ」


アルルカはツンっと顔を背けた。相変わらず素直じゃないやつ……けどまあ、一言も口をきかないよりかはマシだな。


「そうだアルルカ、傷は大丈夫なのか?よければ治すけど」


「あのねぇ、あたしはヴァンパイアよ?こんな怪我、屁でもないわ……でも、治せるの?」


「え?ああ、うん。俺の能力を使えば、アンデッドの傷を消すことができるんだ」


「へー……面白いわね。いいわ、やってごらんなさいよ」


頼む側のアルルカが、なぜか偉そうなんだが……まあいい、俺はアルルカのそばまで這って行くと、ファズの呪文を唱えるために、アルルカへと手を伸ばした。


「……え。ちょ、ちょっと!どこ触る気よ!」


「へ?」


アルルカが驚いたように体をのけ反らせた……ああ、そうか。俺が手を伸ばしていたのは、アルルカの胸元だ。


「やばい、これが当たり前だと思ってたな……」


「……桜下さん。私たちはいいですけど、見知らぬ女性の胸は触らないでくださいね?」


ウィルが冷めた目でこちらを見つめてくる。うぅ、俺の中のモラルが……


「ご、ごほん。あー、ごめんアルルカ。でも、変な意味じゃないんだぞ。俺の能力は、魂の上に手を重ねなくちゃならないんだ」


「魂、ねぇ……確かに、前もそうだったわね。あんた、どさくさに紛れて胸に触りたいだけじゃないの?」


「んな、なわけないだろ!現にエラゼムにだって、そうやって術を掛けるんだからな」


アルルカはまぶたを半分閉じて、本当か?という視線を向けてくる。ちぇ、あんな破廉恥な格好しているくせに、人を非難するのか?


「まあ、無理にとは言わないよ。血だらけじゃ可哀想だと思っただけだからさ。支障がないならいいんだ」


「……まあ、確かにね。あたしの美貌が損なわれるのは、由々しき事態だわ。それを考慮すれば、その術を掛けてもらうのもやぶさかではないわね」


「はぁ……じゃあ、やるってことでいいんだな?」


「で、でも!勘違いしないで、あんたを信用したんじゃないわ!一度くらいなら騙されてもいいかなって思っただけ!」


「わかったってば」


俺はため息をつくと、右手を伸ばして、アルルカの胸の真ん中に置いた。手が触れた瞬間、アルルカはびくっと身を固くした。手のひらから伝わってくる、ふにっとした感触を極力無視して、俺は呪文を唱えた。


「ディストーションハンド・ファズ!」


ヴン!一瞬、俺の右手が実体を失い、アルルカの胸の中へわずかに溶け込む。そこから魔力が流れ込むと、アルルカの顔についた血は逆再生のように傷口に吸い込まれ、額の傷は何もなかったかのように、きれいにふさがった。


「これでよし。ほら、きれいに治っただろ?」


アルルカはそろりと自分の額に触れると、確かに傷が消えている事に気づいて、驚いた顔をした。


「へー……便利な技が使えるのね。インチキネクロマンサーじゃなかったんだ」


「インチキって……まあ、あれだ。マスカレードを追っ払ってくれた礼だと思ってくれよ」


「ふん、あのブサイクが気に障っただけよ。もう一度言うけど、あんたたちのためじゃないわ」


「わかったわかった。ところで、他のみんなは大丈夫か?」


俺は特に、フランの体をじろじろ見回した。フランは奴に一発もらっている。


「だ、大丈夫だってば。たいしたことない」


フランは顔を赤らめて、俺に背を向けた。なんだ、照れているのか?さんざん裸を見ているってのに。


「……ん?」


俺はふと、エラゼムに目を止めた。力なくうなだれるエラゼムは、ひどく元気がないように見える。変だな、普段の毅然とした様子とは大違いだ。


「エラゼム……?」


俺が呼びかけると、エラゼムは力なく顔を上げた。


「桜下殿……申し訳ございません。少し、試してもらってもよいでしょうか」


「試す……?何をだ?」


「吾輩の剣を、直せますでしょうか」


剣だって?エラゼムは背中に背負っていた大剣を外すと、俺の前へと差し出した。魔法の金属・アダマンタイト製で、どんな攻撃にもびくともしなかったエラゼムの剣……焚き木の炎に照らされたその表面には、大きな黒いひび割れが入ってしまっていた。


「えぇ!こ、こ、これ。どうしたんだよ?」


「先の戦闘の際、マスカレードの刺突を受け止めた折に、もらった傷です」


あ……あれか!確かにあれは、お互いに吹っ飛ばされるほどの、ものすごいぶつかり合いだった。ガシャアとすごい音がしていたけど、そんなまさか……


「吾輩が、未熟でした。敵の攻撃力を見誤り、剣の頑強さに甘えた結果です……お手を煩わせて申し訳ない。桜下殿の能力で戻せるかどうか、一度試していただけませぬか」


エラゼムは相当な落ち込みようだ。自慢の愛剣だったもんな……


「それはもちろんいいけど……」


しかし、正直自信がなかった。微妙なところだ……俺の“ファズ”は、アンデッドの時間を巻き戻す能力だ。だけど、この大剣もエラゼムの一部としてみなされるかどうかは、俺にもわからない。


「とにかく、試してみるしかないな」




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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