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2-2

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クリスと別れ、次に俺たちは、旅に必要な物ならなんでも手に入る商店『パラソル』に向かった。店の扉を開くと、圧迫感のある店内が出迎えてくれる。左右に迫る壁は、実は全て品物の入った引き出しだ。商品箪笥に挟まれた通路の奥に、店主でありクリスの姉であるクレアがいた。


「よっ、クレア」


「ん……?あっ、あなたたち!」


退屈そうにはたきを振っていたクレアは、俺の顔を見ると、ぱっと顔を明るくした。一度しか会ってないってのに、姉妹揃って人の顔を覚えるのが得意なんだな。


「少しぶりね!またラクーンに寄ったの?」


「そうなんだ。今回は長居しないんだけど、そのまえに少し補給をしときたくって」


「それでウチに寄ってくれたのね。嬉しいわ」


クレアはにっこり笑った。あらかじめウィルに聞いておいた食材と、いくつかの雑貨を伝えると、クレアはテキパキと棚から品を取り出し始めた。


「それでさ、クレア。実は、あんたに一つ聞きたいことがあったんだけど」


「ん~?」


クレアは手を止めないままで答える。


「前に、妙なものが出回ってるって話してくれたろ。あれ、どうなったかなって」


以前、クレアに聞いた話だ。南部の町を中心に、怪しい品を売りさばく連中がいる……俺も一度、それを売りつけられそうになった。そいつらが扱っていたのは、竜の骨。水に浸したものを飲めば、一時の快楽と引き換えに、長い依存症に苦しめられることになる……早い話が、こっちの世界の麻薬だ。そしてそれの出所になっていたのは、とある寂れた山村だった。村ぐるみで行われていた闇商売を、俺たちはひょんなことからぶっ潰してしまって……その動向が気になったのだ。


「……」


クレアは一瞬手を止めたが、すぐに棚から干し肉の塊を取り出すと、お尻で引き出しをぽすっと閉めた。


「ああ、あの闇商人のことね。うん、やっぱりあの後、こっちでも問題になってね。商会ギルドが直接取り締まろうかって話にまで行ったんだけど、ちょっと前からぱったり姿が見えなくなっちゃったの」


「いなくなったってことか?」


「どうかしら。ギルドの動向をキャッチして、行方をくらませたんじゃないかって人もいるけど……あたしは、なにかヘタを打って廃業したんじゃないかと思ってるわ」


「それは、どうして?」


「噂を聞いたのよ。少し前に、南の方から来たって人が話しているのを小耳にはさんでね。なんでも、村でやってた事業がダメになっちゃって、それでこの町まで出てきたんだとか」


げっ。それってまさか、サイレン村の人なんじゃ……?い、一応シラをきっておくか。


「で、でも。それとこれって、関係なくないか?」


「まあね。でも、それからなのよ、ぴったり闇商人の姿が見えなくなったのは。それでね、ここからが興味深い点なんだけど……その人たちの村に、不思議な旅人たちが訪れてたんですって。なんでもその人たちがひと悶着起こして、村の後ろ暗いことをぜーんぶ暴いちゃったとか」


「へ、へー……」


「その旅人ってのがまた、不思議なメンツなのよねぇ。なんでも、子連れの騎士様だったらしいわよ。男の子と、女の子を連れた、ね?」


「……」


何も言えなくなった俺を、クレアがにやーっと半目で見つめる。


「あたしの予想としては、その誰かさんたちがブツの出所をとっちめちゃったから、闇商人も居なくなったんじゃないかって思ってるんだけど……どう思う?」


「は、は、は……も、もの好きな奴が、いたもんだな……」


ど、どうしよう。全部素直に言ったほうがいいだろうか?けどそうすると、ライラのことや、ミシェルたちサイレン村の人々のことも洗いざらい話すことになってしまう。あの村で行われていたことは立派な犯罪だし、それをべらべら話すのも……


「……うふふ。なーんてね、これはあくまであたしの推測。まだ誰にも話してないし、気にしないで」


クレアはぺろっと舌を出すと、頼んだ品を麻布でぐるぐる包んだ。


「ちょっとからかってみたのよ、あなたがあんまりいいリアクションをするものだから、ついね。気に障ったらごめんなさい」


「い、いや。構わないけど……」


どうやら、この話は水に流そうということらしい。ひょっとすると、俺が困っているのを見て察してくれたのかもしれないが……なんにしても、そっちのほうがありがたかった。俺は代金を払って、品物の包みを受け取った。


「あ、そういや、この前もらったおまけのポプリ。あれ、めちゃくちゃ効いたよ。ありがとな」


あれがなかったら、俺はライラにがぶりと噛みつかれていたかもしれないからな。ライラはその時のことを思い出したのか、い゛~っという口をした。


「あら、ほんとう?ならよかったわ。あたしのほうも、あの時の銀細工の取引がとってもうまくいってね。助かっちゃった……あら」


クレアはふと、しかめっ面をしているライラにはたと目を止めた。見つめられたライラはびくっと震え、俺の陰に隠れてしまった。


「その子、この前はいなかったわよね?」


「ああ、うん。新しくできた仲間なんだ。ライラっていうんだけど……」


ライラは相変わらず俺の後ろに隠れたままだったが、クレアはお構いなしに腰をかがめ、ライラに目線を合わせた。


「ライラちゃんっていうのね。あたしはクレア、よろしくね」


「……」


「ねえ、ライラちゃんは甘いものって好き?おねーちゃん、アメちゃん持ってるんだけど、あたしの妹は大好きなの。よかったら、はい」


あきらかな子ども扱いに、ライラの眉がぴくっと震える。だがクレアはにこにこと笑って飴玉を差し出している……しかしなぁ、ライラはグールだから、普通の食べ物は受け付けないかもしれないぞ。俺が助け舟を出そうか迷っていると、意外にもライラは飴を受け取り、ぱくっと口に入れた。


「……!おいしい……」


「ホント?ならよかったわ」


飴玉をころころと転がすライラを、クレアはお姉さんの笑顔で見守っている。ライラはもじもじと指を合わせると、上目遣いにクレアを見上げ、ぼそっとつぶやいた。


「……ありがと、おねーちゃん」


「~~~~~~!!!はうぅぅぅぅ~~~~ん!!!」


うわっ、なんだ。クレアが突然くにゃくにゃになった……


「かわいいぃぃぃ~~~!どうしてちっちゃい子ってこんなに可愛いのかしら!ねえ桜下、この子もらってもいいかしら!?」


「は、はは……さすがにそれは……」


上気した顔で詰め寄るクレアに若干引きながら、俺は答えた……クレアは今にもライラに飛びつきそうだったが、ライラが人見知っているのをわかっているのか、一線は越えようとはしなかった。そういう扱いのうまさも踏まえて、クレアの意外な一面を見た気がする……


「姉バカ……」


「言ってやるなって……」


ぼそりとこぼしたフランに一応突っ込む。その通りだとは思うけど……するとその様を見ていたウィルが、小さな声でつぶやいた。


「……私、ちょっとわかるかも……」


「えっ!?」「えっ」


意外な一面ならぬ、意外な二面だった。




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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よければ見てみてください。


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