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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
6章 風の守護する都
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12-3

12-3


「……て」


……ん?俺は夢を見ていた。けど、どんな内容だったか……なんだか慌ただしく走り回っていたような気がするんだけど。


「ねえ。おきて」


俺の肩を誰かがゆすっている。もう朝なのか……?俺が目を開けると、そこには真っ暗な宿の室内が映っていた。なんだよ、まだ夜中じゃないか。


「ふわ……誰だよ、いったい?」


目をこすりながらあたりを見回すと、窓からこぼれる月明かりに照らされて、銀色の髪を光らせるフランと目が合った。


「フラン?どうしたんだ?」


「ごめん。でも、ちょっと付き合ってほしくて」


「へ?付き合う?」


こんな夜中にか?だが、フランの目は冗談を言っているふうではなかった。もともとそんな冗談をいう()でもない。


「なんだかよくわかんないけど……わかったよ」


俺は大きく伸びをすると、ベッドから起き上がった。フランは心なしかほっとした表情を見せると、俺の先を歩いて扉まで向かった。暗いけど、目が慣れてくれば月明りで何とか見える。ベッドにはライラがすやすやと眠っていた。ウィルとエラゼムはどうしたんだろう?

フランが扉を開けて外に出たので、俺も続いて部屋から出る。外に行く気なのか?


「おや?フラン嬢に、桜下殿まで」


うお。部屋の外に出ると、廊下に真っ黒で大柄な影が立っていた。


「ああ、エラゼムか。びっくりした……」


「驚かせてしまいましたか。部屋にいると窮屈になりそうでしたので、廊下に出ておったのです」


なるほどな、だから部屋にいなかったのか。


「それで、お二人ともいずこへ?まだ夜明けには遠いかと思いますが……」


「ああ、うん。ちょっとフランに誘われてさ。夜の散歩ってところかな?」


フランがこくりとうなずく。少し突っ込みどころのある言い訳だったけど、エラゼムはそれについては追及しなかった。


「そうでしたか。フラン嬢が一緒なら安心ですな。お気をつけて」


エラゼムは軽く一礼すると、廊下の端によって道を開けてくれた。俺はエラゼムに手を振ると、フランに連れられて廊下の一番奥まで歩いて行った。そこにある扉を開けて、フランは中へと入っていく。あれ、外に出るんじゃないのか?


「きて」


「あ、うん……」


促されるまま続いて入ると、少しかび臭いにおいが鼻を突いた。窓にはめられた曇ったガラスから、青い月明かりが差し込んでいる。その光は、部屋の青いタイルの床をさらに青々しく染めていた。


「ここ……風呂場か?」


「うん。さっき見つけた」


へー、こんなしょぼくれた宿にも風呂があったんだな。タイル張りの小さな浴室は、ざっくり半分のところで仕切られて、片側を浴槽として使えるようになっている。水は張ってあるようだが、さすがにお湯ではないみたいだ。


「そんで、風呂に来た理由っていうのは……?」


「……その、最近、髪を洗ってなかったでしょ。だから……」


フランは視線を床にそらすと、つま先でいじいじとタイルのふちをなぞっている。


(つまり……洗ってほしいってことか)


フランにとって、これが最大限のアピールなんだろう。こんなぶっきらぼうな方法で……俺は思わずぷっと笑いそうになったが、そうすると拗ねてしまいそうなので、わざと大げさにうなずいた。


「そうだな。いい機会だし、ちょっと風呂を使わせてもらおうか。フラン、髪を洗わせてくれるか?」


「う、うん」


俺たちはぎこちなくうなずき合う。フランが服を脱ぎ始めたので、慌てて壁のほうに体を向けた。背後ではしゅるしゅると衣こすれの音がする。あいかわらず、ガントレットの手で器用なもんだよな。


「……なあ、今更だけど。この風呂って、勝手に使っていいのかな?」


「だから、こんな夜中に起こしたんだよ」


……つまり、無許可ってわけだな。まあよっぽど音を立てない限りは、あの主人のじいさんも起きてこないだろう。


「……はい。いいよ」


声に呼ばれて振り返ると、フランはこちらに背を向けて、ぺたんと床に座っていた。浴室の隅に脱いだ服が山を作っている。こうしてフランの裸を見るのも、何度目だろうか。とても慣れたもんじゃないが、何となく、気恥ずかしさは薄らいできた気がする。


「……思えば、不思議なもんだなぁ」


「何が?」


「いや、まさかこうして、女の子の髪を度々洗う事になるなんてさ」


「……やっぱり、変なのかな」


「さてな。前の世界はともかく、こっちは来たばかりだし」


「前のところでも、こんなことしてたの?」


「え?まさか。縁もゆかりもなかったよ……」


はは……言ってて悲しい。俺は置かれていた木桶を手に取ると、浴槽から水を汲んだ。水はヒヤリと冷たいけれど、アンデッドであるフランにとっては、お湯より水のほうが具合はいいらしい。


「いくぞー」


一言断りを入れてから、フランの銀の髪に水をかけていく。彼女の髪は水に触れても濡れることなく、水をはじくようだった。これじゃ洗う必要もないかもしれないんだけど……それを言うのは、さすがに野暮だよな。

もう一度桶に水を汲むと、今度は手で水をすくい、髪にしみこませるようになでつける。ゆっくり、ていねいに。フランの髪はさらさらで、思わずずっと触っていたくなるような手触りだった。


「……ねえ」


何度かそんなことを繰り返していると、フランが不意に声をかけてきた。


「ん~?なんだ?」


「……」


声をかけてきたはずのフランから、返事がない。俺は手を止めて、フランの後頭部を見つめた。


「フラン……?」


「……セカンド、ミニオン」


びくっ!フランの口から出てきた単語に、思わず肩がはねてしまった。お、おちつけ。まだ、フランの意図はわからないじゃないか。


「ひ、昼間ロアが言ってた話だな?それがどうしたんだよ?」


「あれ、わたしのことなんじゃないの」


ぐっ……いきなり核心だ。てっきり気づいていないと思っていたのに……


「ど、どうしてそう思うんだ……?」


「だって、あまりに符合しすぎてるでしょ。わたしの生い立ちに……父親は行方不明、母親はすぐに死んだ。村ではずっとのけ者にされた。村では過去に、忌まわしい事件もあったみたいだし……わたしの村、同年代の子どもがなぜかほとんどいなかったんだ。セカンドが襲いまくったからだとしたら、納得できる。わたしたちの母親になれるくらいの女が、全員そいつに食われちゃったんだ」


「ふ、フラン……」


「それに。わたしの、この力。怪力は、ゾンビになったから生まれた力じゃない。前から怒ったり、カッとなったりしたときは、信じられないくらいの力が出てた……」


ああ、やっぱりそうだったのか。兵士のゾンビとフランとでは、明らかに馬力が違った。あれはゾンビ共通のものじゃなくて、フランが生まれ持っていた力だったんだ。


「極めつけは、礼拝堂での火事。わたし、言ったよね?わたしの体、燃えなかったって。ふつう、そんなことありえないでしょ。わたしの体に、異能の血が流れている以外には……」


俺は、言葉がなかった。すべて、フランの言う通りだったからだ。


「……驚かないんだね。ねぇ、もしかして……」


「……ああ。ごめん、知ってたんだ。フランのばあちゃんから、聞いてて……」


「……」


「ばあちゃんは、話せなかったんだ。だって、お前は何も悪くないだろ?それなのにこんなこと話しても苦しむだけだって。それに、俺も……」


俺が言いかけたその時だ。座っていたフランが、ゆっくりと立ち上がった。


「フラン……?」


フランが、静かにこちらへ振り返る……次の瞬間、俺は浴室の床に強く押し付けられていた。




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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