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「うわあー!」
電撃は俺たちの足元で炸裂し、地面をふっ飛ばした。俺とライラはごろごろ転がったが、避けづらい分、そこまで威力は高くないらしい。幸い大したけがはなかった。
「このっ!」
蹴っ飛ばされていたフランが、再びクラークに飛びかかる。しかし今度は、クラークもそれに反応した。バックステップで距離を離すと、剣を真っすぐフランへ向ける。
「レイライトニング!」
「ぐぅっ」
ああ、フランに電撃が!フランの服はあちこち焼け焦げ、プスプスと煙が上がっていたが、本人に対したダメージは無いらしい。アンデッドは電撃にも強いんだ。
「クラーク!やっぱりあいつら、マトモじゃないわ!あなたの電撃を喰らってビクともしないなんて、絶対なにかのアンデッドなのよ!」
「みたいだね!アンデッド……そうか!ミカエル、僕の剣に“祝福”をかけてくれないか!」
「ふひゃ!は、はい!」
クラークがミカエルの前に剣を差し出すと、ミカエルは目を閉じて、何やらぶつぶつと呪文を唱え始めた。
「ピュアダクリア!」
ミカエルの手からキラキラした光が放たれ、クラークの剣をより一層輝かせる。剣を強化したのか……?その時、ウィルが上空で鋭い叫び声を上げた。
「あっ!」
「ウィル?どうした!」
「ピュアダクリア!聖属性の魔法です!物体を祝福し、神の聖なる力を宿す呪文!」
「つまり、どういう……?」
「あの剣にふれちゃダメです!アンデッドは浄化されてしまいます!!」
「な、なんだって!」
くそ、そんなのありかよっ!アンデッド特効じゃないか!
「これで形勢逆転だ。さあ、覚悟しろ!」
クラークは不敵に笑うと、剣を振りかざして突撃してくる。くそ、防ごうにもあの剣自体に触れちゃまずいんだろ!?
「フラン、退くんだ!」
「逃がすか!」
クラークが剣を一振りすると、剣先からキラキラ輝く斬撃が飛び出してくる。フランはすんでのところで頭を下げ、ギリギリでそれをかわした。フランの髪の毛が数本斬撃に触れると、髪の毛は灰になって崩れ落ちてしまった。
「どうする!あれ、結構やばいよ!」
フランが駆け戻って来るや否や、焦った声で叫ぶ。俺が口を開こうとした瞬間、クラークが畳みかけるように叫んだ。
「ライスライン!」
うわ、またあの地を這う電撃だ!
「みんな、死ぬ気でよけろー!」
ドドォン!あちこちで地面が爆発したものの、幸い灰になってしまった仲間はいなかった。
「くそ!ライラ、あいつの魔法を、少しでいいから防げないか?」
「う、うん。わかった!」
ライラは目を閉じると、地面に手をついて呪文を唱え始めた。その間もクラークの猛攻は止まることを知らない。またしても電撃が飛んできた!ギリギリのタイミングで、ライラが叫ぶ。
「キャメルキャメロット!」
ズザザアアア!間一髪、俺たちと電撃との間に砂の防壁が立ちふさがった。防壁が電撃を受けてぐらぐら揺れる。
「これ、そんなに長くもたないよ!」
「十分だ、少しでも時間が稼げれば!みんな、俺に考えがある。聞いてくれ」
俺は仲間たちの顔をぐるりと見まわした。今この状況で、最善の策。それは……
「逃げよう!」
「はぁーっ!?」
ウィルとフランがユニゾンして叫ぶ。
「何考えてるの!あんなやつに言われっぱなしでいいわけ!?」
「いいさ、そんなの言わせておけばいいんだ。それよりも、今戦ってお前たちの誰かを失うことのほうが、俺は何万倍も嫌だ」
俺の声のマジなトーンに、フランは開きかけた口をつぐんだ。
「さすがに相性が悪すぎる。あいつらから逃げようが倒そうが、俺たちの目的は達成できるんだ。だったらより安全で、手間のかからないほうを選ぼう。この壁が壊れたら全速力で走るぞ。ウィルとアニ、あいつらにありったけの妨害魔法を撃ってくれないか?」
「で、でも……」
その時、壁の向こうでものすごい閃光が上がった。砂の防壁は危なっかしくぐらぐらと揺れ、ついに崩れ落ちてしまった。ザザザァ……
壁の向こうでは、クラークがバチバチと電撃をチャージしている。もうぐずぐずしていられない!俺はありったけの声で叫んだ。
「走れ!」
ダダダッ!俺が走り出すと、仲間たちもそれに続いた。突然背を向けて走り出した俺たちを見て、クラークたちはしばらくぽかんと口を開けていた。
「……あ!に、逃げたわよ、クラーク!」
「あ、う、うん!待て、卑怯者め!」
「わはは!三十六計、なんとやらだ!あばよ、勇者さん!」
一目散に逃げだす俺たちの後を、クラークも当然追いかけようとしてくる。それを見てすかさず、俺は目を覆って、体をくるりと反転させた。
『フラッシュチック!』
パァー!アニから目もくらむような閃光が放たれる。俺が振り返るのと、アニが呪文を唱え終わるタイミングはどんぴしゃだった。息ぴったりだよな、俺たち!
俺は目を覆っていた手をどけると、再び全速力で走り出した。背後からはクラークたちが目をつぶされ、うめく声が聞こえてくる。
「ざまーみろ!せいぜいそこで一晩明かすんだな!」
俺が有頂天に笑ったとたん、プシュっと空を裂く音がして、俺の足元に矢が突き刺さった。ひえっ、声を頼りに撃ったのか?余計なこと言うんじゃなかった。俺はそれこそ、尻に火が付きそうな勢いで足を動かした。後方からは次々とヤケクソ気味に矢が飛んできたが、そのすべては明後日の方向に飛んでいくか、エラゼムの剣に切り落とされた。振り返れば、クラークたちの姿はずいぶん小さくなっていた。
「やった、逃げ切ったぜ!」
「……待って!まだあいつ、あきらめてないよ!」
フランが後ろを振り返りながら叫ぶ。目のいいフランには、クラークたちの動きが見えているのだろう。
「けど、これだけ距離を離したんだぜ?いまさら何を……」
俺がそこまで言いかけた、その時だった。視界がふっと暗くなった。いや、夜だから暗いのは当たり前なんだけど、さっきまでは星明りが、山頂の澄んだ空気を通してまたたいていたんだ。けど今は、頭上を鉛のような黒雲が覆ってしまっていた。こんな雲、いつの間に湧いてきた……?
ピカッ!
「っ!」
黒雲が光った!おい、まさかあれ、カミナリ雲とか言わないだろうな……?
「ま、魔力がすごい集まってるよ!」
ライラが天を仰ぎ、震える声で叫んだ。黒雲はゴロゴロと低い太鼓のような音を響かせ、厚さを増していく。遠くから、クラークの怒鳴り声が聞こえて来た。
「パグマボルトォ!」
ピカッ!ガガガガーーーン!
目の前が真っ白になった。俺は手足から力が抜けていくのを感じた。どちらが空で、どちらが地面なのかもわからない。
(―――っ!)
頭の奥のほうで、何かがちかちか光っていた。おぼろげで、輪郭のない、古い記憶……
(だめだ……)
体ががくんと傾き、視界が九十度になった。
(それは、思い出しちゃいけない……)
俺の体は、大地に吸い寄せられるように、重力に従ってゆっくり落ちていく……
つづく
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