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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
4章 それぞれの明日
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8-1 尸童《よりまし》

8-1 尸童(よりまし)


「くっ!」


バシーン!ぐわ、ものすごい衝撃だ。フランと俺は塔の壁に叩き付けられたが、フランが鉤爪をかろうじて窓枠に引っ掛け、落下を防いでいた。


「フラン!」


「大丈夫、早く中に!」


よ、よし。俺は手をフランから離して窓枠にしがみつくと、ジタバタもがきながらなんとか塔の中に転がり込んだ。ドシン!


「ぐえ。ケツが……」


俺がしりもちをついて悶えていると、フランは華麗に宙返りしながら飛び込んできた。かっこいいなぁ、まったく。


「ふぃー、ひやひやしたぜ。けど潜入成功だ。ここは……物置かな?」


俺たちが飛び込んだ部屋は、ほこりっぽい倉庫のような部屋だった。服が白く汚れてしまったが、人がいなくてむしろラッキーだ。


「桜下さんフランさん、無事ですか!?」


おっと、窓からはウィルも飛び込んできた。陽動から帰ってきたんだな。


「ああ、この通りだよ。落っこちるかと思ってちょっと焦ったけどな」


「ああ、よかった……本当ですよ。二人が壁にぶつかったのを見て、寿命が縮まるかと思いました」


「見てたのか。ていうか寿命って……」


「こ、言葉の綾ですっ。けどそれなら、もう動けますか?」


「おう。早いとこ済ましちまおう。いつまでもエラゼムに任せっきりじゃ悪いしな」


「わかりました。さっき確認しておきました、こっちです!」


ようし。待ってろよ、司令官どの!




コンコンコン。


「入れ」


「はっ!失礼します!」


扉を開けて入ってきたのは、まだ若い兵士だった。


「ヘイズ殿、東門での戦闘状況の報告であります」


「ああ。どうだ?隊長殿が向かったはずだが」


「はい。エドガー隊長の加勢により、死霊騎士との戦闘は拮抗状態にまで持ち直しました」


「なに?ちっ、隊長でも拮抗でやっとなのか……」


「ですが、あのままでは確実に押し切られていました。エドガー隊長に来ていただいたおかげで、いまだ門は破られておりません」


「セーフティーラインは守れてるってとこか。で、被害状況は?」


「はっ。けが人は多数出ておりますが、幸い死者は無し。住人の退避も迅速に済み……」


「は?まてまてまて、なんだと?」


「はい?ええと、ですので、町民にけが人は出ておらず……」


「ちがう、その前だ。死者ゼロ?一人も死んでないのか?」


「ええ。幸運でございました。みなとっさに攻撃を防いだのか、致命傷を負ったものは出ておりません。それが、なにか……?」


「……まあ、いいだろう。死人が出ないに越したことはない。悪い、続けてくれ」


「はい。死亡者はいないものの、こちらも敵に有効打は与えられておりません。敵は見たところ鎧の騎士一名のみ。死霊術士、および他の死霊の姿は見えていません」


「おとりか、陽動か……残り二つの門にも、兵は残しているんだよな?」


「もちろんです。ヘイズ殿の指示通り、弓兵と歩兵の二部隊を各関所に配備しております。今のところ、それらで戦闘があったという報告は受けていません。以上であります」


「わかった。東門の連中に言っといてくれ、ほどほどにして、突っ込みすぎるなって」


「は、はい?」


「死霊に門を開かせて、あとから勇者がこそこそ這い出して来るかもしないだろ。適当なところで切り上げて、勇者が出た時に全力で叩けって意味だ」


「は、はっ!承知いたしました」


「じゃ、とっとと行ってくれ。エドガー隊長は、熱くなると歯止めが利かなくなる」


「はっ。失礼します!」


兵士は踵を返して、部屋から出ていこうとした。


「あ、一つだけいいか?」


「はい?何でございましょう」


「お前、何か気になることなかったか?死霊の騎士を見てとか、なんでもいいが」


「気になること、ですか?申し訳ありません、自分は報告を別の兵から受けただけでして、直接死霊どもと交戦してはいないのです」


「なんだ、そうだったのか」


「はい。しいて言うなれば……下で、兵たちが騒いでいたくらいでしょうか?なんでもボヤ騒ぎがあったとかで。もう消火は済んだそうですが」


「なにぃ?あいつら、隊長が離れたからって、気を抜きやがって……」


「はは……他は、よろしいでしょうか?」


「ん、ああ。すまなかったな」


「いえ。では、失礼します」


兵は頭を下げると、今度こそ部屋を後にした。残されたのは、渋面をしたヘイズだけだ。


(死傷者ゼロだと……?ありえないだろ。相手は、あのエドガー隊長でさえ手こずる手練れだぞ)


腑に落ちない。ヘイズは、はっきりとした違和感を覚えた。さっきの兵士は運が良かったと言っていたが、運だけで生存率が上がってたまるものか。


(さらに言えば、そんな奴を相手に、隊長が到着するまで持ちこたえられたのも妙だ。とっくに門を破られていてもおかしくなかった)


しかし、そうすると……?ヘイズは唇に手を当てた。敵には、何か別の目的があるのかもしれない。彼はそう睨んだ。


(やはり陽動?だが、すべての門は固められている。大体、門を抜けたいのなら、変な陽動などする必要がない。そのまま門を制圧すればいいだけの話じゃないか。)


それこそ、先ほど彼の言った通り。死霊が門を開け、勇者が通る。だがその程度の浅知恵ならば、すでにヘイズは対抗策を無数に用意していた。むしろそうしてくれれば、罠に嵌めるのもたやすいのだ……しかし。だからこそ違うとヘイズは感じていた。まだなにか、裏がある。


(だとしたら、門以外の場所から逃げ出そうと……?いや、これもない。門を除いて、城壁の途切れる場所はない。城壁そのものをよじ上る気だとしたら、あまりお粗末だ。城壁にも監視の兵をつけているし、城壁にへばりついた虫など、弓矢で簡単に撃ち落とせる)


「……勘ぐりすぎか?オレたちの気を引いて、その間に隠れたいだけとか?だったらありがたいけどな。町から出さなきゃ、いずれ援軍が来て、オレたちの勝ちだ」


ヘイズは一人呟く。わざわざ口に出したのは、自分でも知らぬまに、そう信じて落ち着きたかったからかもしれない。


「ん?」


その時ふと、ヘイズはさっきの兵士が去り際に言い残したことを思い出した。


(ボヤ騒ぎ……営舎で火を焚くことくらいあるだろうが、こんな慌ただしい時にそんなことするか?)


仮にしたとしても、火の用心を怠るようなマヌケが兵たちの中にいるとは……


「っ!」


その瞬間、ヘイズの頭の中にいなづまのような閃光が走った。


「陽動……死霊一人だけ……なら、ほかの奴らは?もし門から逃げられないとあれば、残りの奴らはどうする……くそっ!オレとしたことが!」


ヘイズは慌てて立ち上がると、急いで部屋の外へ……出ていこうと(・・・・・・)した。


「気づいちまったか?」


「……ッ!」


ヘイズは、背後から聞こえてきた男の声に足を止めた。



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