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じゃあ俺、死霊術《ネクロマンス》で世界の第三勢力になるわ。  作者: 万怒羅豪羅
4章 それぞれの明日
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4-1 闇夜の訪問者

4-1 闇夜の訪問者


俺は肩をすくめると、フランのほうに向きなおった。


「サンキュー、フラン。しつこくて困ってたところだ」


「……気を付けてよ。都会にはろくな人間がいないんだから」


「それは偏見だろう……けど、よくわかったな、俺が困ってるって」


「それは、そこのガラスの鈴が呼ぶから」


え?アニのことか?俺は自分の服の下、胸のあたりを見下ろした。なかから、控えめな鈴の音がする。


『……主様が振り切れるか不安だったので、上の連中に念で援軍を要請したのです。それに応じて下りてきたのがゾンビ娘だったわけですが』


「おお、気が利くな。助かったぜ」


『主様、本当に気を付けてくださいね。さっきの男が持っていたのは、幸福を呼ぶ妙薬なんかではありませんよ』


「ああ、うん。どーせろくでもないクスリかなにかだろ?」


『わかっていたのですか?』


「元いた世界でも、似たようなものがあったから。さすがに竜の骨なんかではなかったけどな」


『そうでしたか。あれはおそらく、ドラゴンと称したまがい物でしょう。アンフィスバエナの牙に幻覚毒があるので、そのあたりかと思われますが。いずれにしても、人体には激烈な毒物足りうる品です。一時の快楽と引き換えに、二度とまっとうな人生を歩めなくなる代物ですから』


「うへ……そんなにひどいものなのか?何考えてんだ、あのオッサン……」


『いくら関所を設けても、ああいう輩はうまく潜り込んでしまうものなのですね。主様はそのへんのセーフティ意識はきちんとしているようですが、くれぐれも油断しないようにしてください』


ほんとだぜ。まったく、都会もいいことばかりじゃないな。どっと疲れてしまった俺は、とっとと部屋に引っ込むことにした。


「あ、桜下さん。無事でよかったです」


俺が部屋に戻るなり、ウィルが駆け寄ってきた。


「あれ、ウィルも知ってるのか?」


「ええ、聞き耳を立ててましたから。あんまり騒ぎにしてもってエラゼムさんが言うので、出てはいきませんでしたけど……」


「そっか。まさか、宿であんなやつに会うなんてな。フランが助けてくれたけど、ちょっと驚いたよ」


「そうでしたか……都会って、そんなにいいことばかりじゃないんですね」


ウィルは窓の向こう、真っ暗な街並みを見てつぶやいた。エラゼムががしゃりとうなずく。


「うむ。ここは豊かに発展を遂げましたが、同時に影も大きくなってしまったようです。吾輩の時代には、あのように面妖な品はめったに見かけませんでしたが……桜下殿、災難でしたな。危険に気付けず申し訳ない」


「大したことないって。けど……今後、財布を持ってるときは、一人でフラフラすべきじゃないかもな」


「うむ。おっしゃる通りですな」


俺の正体を隠していく以上、あんまり大っぴらに警察(がいるのかわからないけど)の世話にもなれないしな。自分の身は自分で守らないと。ふぅ、肩がこるなぁ。俺はぼすんとベッドに寝ころんだ。


「して、桜下殿。一つ相談なのですが」


「あん?」


エラゼムに呼ばれて、上体を起こす。エラゼムはがしゃと鎧を鳴らして、扉のそばまで歩いて行った。


「この部屋では、四人が過ごすにはいささか窮屈でしょう。もしよろしければ、吾輩は表を歩いてこようかと思うのです」


「へ?なにもそこまでしなくても」


「いえ、それもあるのですが、すこし街を見てこようかと思いまして。先ほども申しました通り、吾輩の時代とは何かと変わったものも多いようです。ここらで現代になじむ努力をしなくては、と」


「ああ、そういうことか」


「ですが、先ほどのようなことがあった手前、桜下殿お一人を残すのはどうにも……」


そこでエラゼムは、ちらりとウィルとフランのほうを見た。


「わたしは、町に興味ないから」


フランがそっけなく答えた。


「あ、じゃあ私はついて行ってもいいですか?私ももう少し、街並みに慣れておきたくて。また昼間みたいなのになっても嫌ですし……」


ウィルはエラゼムについていくらしい。エラゼムはこくりとうなずいた。


「もちろんです、ウィル嬢。では、こちらはフラン嬢にお任せするとして。よろしいでしょうか、桜下殿?」


「うん、わかった。せっかくなんだから、楽しんで来いよ」


「ありがとうございます。では、まいりましょうか、ウィル嬢」


「あ、はい。じゃあ桜下さん、フランさん、行ってきますね」


エラゼムが扉を開けて脇によけると、ウィルが会釈して先に出た。扉から出入りする、律儀な幽霊だ。


「桜下殿、それにアニ殿。万が一何か起こりましたら、すぐにお呼びつけください。では、行ってまいります」


エラゼムは頭を下げると、静かに戸を閉めていった。まったく、真面目というか、心配性というか。俺だっていちおう元勇者だし、そこまで慎重に子守する必要はないと思うけどな。


「フランも、行きたけりゃついて行ってもいいんだからな?」


「いい。興味ないから。あなたのほうが心配」


「あ、そう……」


フランは相変わらず無口で、俺のベッドの脇にやってくると、すとんと腰を下ろした。ま、フランがいいって言うならいいんだけど。


「じゃあ、お休みな、フラン」


「ん」


いつものそっけない返事も、かえって安心するようになってきた。俺はほっとした心地で、眠りの世界に落ちていった……




つづく

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読了ありがとうございました。

続きは【翌日0時】に更新予定です(日曜日はお休み)。


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よければ見てみてください。


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10/7 暴発していたルビを修正しました。知らなかったこの仕様……

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