これから
結ちゃんの引退を止めることが出来ない。
先週の金曜日、あの公園で止められなかった俺に今更何か言える資格があるとも思えない。
引退まであと大体二カ月らしいけど…長いようで一瞬だろう。
現に入学してからすでに結構な月日がたっているし、気づけばあっと言う間に過ぎる。
「おはようございます、颯太君」
「おはよう、稲葉さん」
月曜、憂鬱な気分で登校すると先に登校していた稲葉さんと目があった。
まぁ今までと関係は何も変わってないし、挨拶するのは普通のことだと言えばそうだけど。
席について、荷物の整理をしていると…
「なぁ颯太、ホントにいつもの間にあんなに稲葉さんと仲良くなったんだよ」
「颯太君付き合ってるの?」
「将、司、おはようが先じゃないの?」
「いやー、ごめんって。 あと、いつから名前で呼ばれるようになったんだよ」
「最近だって」
「最近何かあったの?」
「べつにー」
二人の秘密みたいで言いたくないと思った。
それに言いふらすことでもないし。
「羨ましいことで」
楽しそうな司と皮肉を言ってくる将との会話の途中で始業のチャイムが鳴った。
*
授業は本当に疲れる。
「あの…颯太君、一緒にご飯食べませんか?」
やめることを気にしているのか気まずそうに言ってきた。
「稲葉さん、ちょっと待ってね」
「はい、席に戻ってますね」
すごい心配そうな顔で戻っていった。
席に戻る前に、委員長が稲葉さんに話しかけるのが目に入った。
前から稲葉さんが声優と知っていれば、関係も変わるかもしれないけど…。
「稲葉さん」
「はい、どうぞ」
すでに席を用意してくれていたようだ、そこに座って稲葉さんの机に弁当を置いた。
「あ…」ごそごそ「この本読んでみてください」
何かを思い出したようにカバンを漁り、本を取り出した。
「ありがとう」
「いえ」
毎日一緒に食べるわけじゃないけど、昼には話すし始めて借りた時から
「この間の本、今日持ってくるの忘れちゃって」
「いえ、早く返されてももう読んでしまったので、大丈夫ですよ」
本当に野外活動の時、声に出さずにやり取りしていたのが嘘のようだ。
実際にまだ、稲葉さんは俺と森林コンビ以外とは話しているのを見ていないし。
ーー昼休みまでずっと二人で話していたけど、もう気まずさはなく、今まで通り話せるようになっていた。
…
授業が終わり家に帰る。
昼からの授業中、俺はどうすれば稲葉さん、結ちゃんの引退をとめられるかと考えた。
今日はバイトで今から時間もないけど…、一つ閃いたことがある。
自分でもバカなことだと思ったけど…。
ーーバイトで稼いだお金、中学の時に小説を書いていた経験。
ーーそれに稲葉さんには『今のまま頑張ってそんな奴ら黙らせる』と言った。
だから俺は結ちゃんが辞める二カ月以内にもう一度文章を書く感覚を取り戻し、知識を集める。
…つまり、俺が同人で音声作品を作り、結ちゃんの…。
ーー稲葉さんの声優活動を続けられるように…結ちゃんの頑張りと演技力を証明しようと思う。
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