野外活動1
バスに揺られて数時間、山を上っていき、もうバスからは見える民家の数もほとんどない。
「颯太もうすぐだぞ」
「う…」
…酔った。
「もう颯太くん…はしゃぐからだよ」
将と司と三人でトランプしたり、周りのクラスメイトと人狼ゲームをしていたら気分が悪くなった、班の女子に苦笑いで心配されるしまつ。
彼女は林さんというらしく、委員長前に立った時必ず黒板を担当しているので見覚えがある。
「あぁぁ」
外の景色を見るように言われるが、今更効果を感じない。
うぅ…。
「おっ颯太君ついたみたい」
司の言葉と共にバスのドアが開く音が車内に響き渡った。
「すぅぅ」
気分の悪い人から順番に出してもらったので俺は今、外の空気を吸っている。
「はぁぁ」
吸って吐くを繰り返すと少し体が軽くなった気がする。
「……ぅう」ふらふら
俺が一息ついた頃、バスから稲葉さんがおりてきた。
すごいフラついて見ているだけで怖いぐらい。
うつむいていて見えずらいけど真っ青だ、あそこまで辛そうだと自分が楽に思えてくる。
「大丈夫かな」
少ししか話してなくても関わりがあると心配になった、お節介かもしれないけど声をかけようかな。
と少し近づいたタイミングで足が絡まって、俺のいる方向に体が倒れて来る…ーー
「おッと、大丈夫?」
間に合ってよかった。
両肩を後ろから支え、稲葉さんの頭が俺の胸に引っ付いている。
俺も少し焦って踏み込んだので頭が揺れてこみ上げるものがある。
「…うぅ」
体が触れて恥ずかしい状況のはずなのに自分の体調と相まって全く気にならない。
それに稲葉さんも気にする余裕がないようだ。
「おっと、それじゃあそこのベンチまで一緒にいこうか」
体から手を放そうとしたがまだ自分で立てそうになかった。
だから、両肩を後ろから支えるようにしてゆっくり十メートルほど先のベンチまで連れていく。
「ほらここに座って。 すぅぅ~はぁ~」
「……」コクコク
促すように座らせて、自分も横に座る。
二人用のベンチなのか距離が近い、もう肩と肩が当たりそうだ。
「すぅ~はぁ~」
辺りを自然に囲まれているから空気が綺麗で、何故か葉っぱとかではない…いい匂いがした。
その匂いで落ち着いた俺は稲葉さんに目をやる。
「……ぅ」ふらふら
まだ落ち着かないようだ。
目を瞑ったままふらふらしている。
「……」コテッ
頭が右に…左に…右に…と揺れて俺の肩に頭が乗った。
「へぇっ」
びっくりして頭が乗せられた肩をみると、まだ若干青い顔をしているが俺が見下ろすことになり、乱れた髪が耳にかかっている。
かわいい。どこかあどけなくて警戒心のない無垢な顔、さらに肩に頭をのせて落ち着いているようにも見えて……。
「あ」
恥ずかしくなって顔を正面に向ければバスから降りてきたクラスの人の視線をすごく集めていた。
また恥ずかしくなった俺は空を見上げて、何も気づいてない、酔ったままのふりをした。
うーん多分稲葉さん寝てるな。
*
流石の俺でもあそこまでされると心が揺られるようだが、推しの顔を思い出し酔ったふりを続ける。
さっき池田がもう見えてる宿舎だから落ち着いたら来いと言われたのでもう少しゆっくりしたいがすごい罪悪感を感じるので起こす。
「稲葉さん、起きて」
「んぅ……」むにゃー
「ほら、起きて」
「ん、ぅぅ…ん!」ほわわ
先に俺がどいてから起こせば稲葉さんがこんなに慌てる必要はなかったかも…。
というか状況的に俺やばくね。
「その…ごめんなさい、悪気はなくて…その」
省略せずしっかりと頭を下げた。
事件になる前に謝らなければ、オタクの立場は一般的に弱いことも知っているし…。
「…あ」ふるふる
一歩後ずさられたが、顔を上げてほしいと言っている気がした。
稲葉さんの顔はさっきとは真逆の真っ赤に染まり、目を泳がせながらキョロキョロしている。
「…池田が落ち着いたらあの宿舎にこいって言ってたけどもう大丈夫そう?」
「…」コクコク
とても空気に耐えられなかったので話を変えようしたのを察してくれたっぽい。
「じゃあ、行こうか」
俺も顔を見られると恥ずかしいし、きっと見られたくないだろうから先導するように少し前を歩いていった。
途中なんどか稲葉さんがこけそうになるというアクシデントがあったが無事入口までこれた。
下に落ちる稲葉さんの影がフラっとするタイミングでヒヤッとさせられた。
「集合は体育館みたい」
「…」コクコク
さすがにもう落ち着いたのか平な床ではふらつかないのか同じ距離でピッタリ後ろをついてくるのは小動物みたいと思った。
入口の館内マップを見て集合場所まで行くと入館式も終盤に差し掛かるところだった。
「はぁ、疲れた」
「お疲れ、俺は途中からだったからマシだった」
「あぁ、仲良くやってたな」
「俺のためだけじゃなく二度と言わないで上げてほしい」
多分恥ずかしいだろうし、嫌だろう。
「一回ぐらいいいだろ、実際に話きいてなかっただろ?」
「やぁ颯太君、明日の心配もなさそうでよかったよ」
明日、とはきっと明日のペアでの活動のことを言っているのだろう。
「やめてれよ」
「わかったよ、もう言わないから元気出して」
「おい司、絶対颯太が一番元気だろ…」
「確かにそうかもね」
こんなときでもどこか爽やかだな。
この二人を見ているとだいぶ疲れてるように見える、そんなに疲れる内容だったか?
実はさっき俺は結構癒されていたりしたのかな?
まぁでも俺には結ちゃんがいる。
「俺にいうのはいいけど、変な噂が立つと稲葉さんに迷惑かかるからな」
「わかってるって」
「もう言わないから部屋に移動しようよ」
入所式を終えてやっと部屋に入れる。
きっと同学年の人も部屋がどんな部屋か楽しみの人が多いだろう。
「おー、なかなか」
毎回楽しみにして入って雰囲気は良くてもどこか期待よりも落ちるこの感じが俺は好きだったりする。
「昼から登山だっけ?」
「そんで頂上で弁当だろ」
「もう荷物準備したほうがいいか」
「もうすぐ時間だし、集合場所まで先に行こうよ」
この登山は班やペアー関係なく行われ、クラス単位でならんで順番に登って行った。
……山は見た目より高く感じた。
*
やっと寝れる時間になった。
登山も終わり、数班の男子で宿舎の大浴場に入り、ご飯を食べた後軽いレクリエーションをして終わった。
俺はこの時間が一番楽しみにしていた時間だったりする。
家でやりたいことがある人にとって宿泊行事は特に楽しみでなかったりする。
「さてさて……」
二やついているの自分でもわかるが、誰も見てないし。
ちなみに部屋は二段ベッドが一つとシングルベッドが一つとなっていて、俺は二階を使わせてもらっている。
だから先生が来ても、大丈夫。安心して楽しむことが出来る。
「昨日発売した新作…と、よし」
小さな画面に映った曲番号を見て再生する。
ちなみに今日お世話になる作品もCVは結ちゃん、俺はこの声を聴かないと寝れない体になってしまった、責任を取ってほしいぐらいだ。
『こんにちは…』
耳に着けたイヤホンから聞こえる声。
ホントに演技が上手く目を瞑ると景色が見える気さえする。
「あぁ…落ち着く」
彼女はここ数か月、自分のサークルから活動を開始し、徐々にファンが増えてきている。
もちろんマイクの音質や編集、シナリオがいいこともあるのかもしれないが、結ちゃんがCVということだけで買ったので許してほしい。
明日も……。
……
…
「んー、ふあぁぁ」
俺は寝落ちしていたようだ。
やっぱり期待通りだった、シナリオも良かったけど、それをいいと感じさせる演技と声があってこそに感じた。
今は…六時か、少し早く起きたけど、二度寝する時間でもないしもう一度聞いて時間を潰そうかな。
「あぁ…」
…やっぱり最高だ。
読んでくれて感謝です。
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