稲葉さんの秘密4
学校に登校し、当たり前のように授業が始まった。
…当たり前のように。
もし稲葉さんが学校に来ていれば俺にとってもそうだった。
明日は土曜日、テストもまだ先で考えることのない休日。
『颯太、大丈夫か?』
『うん、大丈夫…』
少し遠くの席から将にも心配される始末。
今日、これで稲葉さんが結ちゃんだと確定したようなものだ。
もし違うならその方がよかった。
いつもの声からは小声で分からなかった。その他にもこんな近くに推しが居るなんて思わない。
でも、稲葉さんの部屋に台本の紙媒体があって、お母さんが声優の経験、ノウハウもある。
そう言えば、野外活動の帰り。将と司に置いてけぼりにされた時、稲葉さんが起こしてくれた時。
俺は寝ぼけた頭で結ちゃんに起こされたと勘違いしたことがあったと思う。
…今日家に行ってみよう。
あたり前だと思うかもしれないけど…昼になっても、午後の授業が始まっても稲葉さんは来なかった…。
*
もともと駅から見えていたから迷うことはないけど…、心が迷っている。
怒っているかもしれないし、責められるかもしれない…、俺はどうすればいいか分からない。
「はぁ…」
稲葉さんが住むマンションに着いた、このマンションもよくあるオートロック式で下にインターホンがあって、部屋番号で呼び出さないといけない。
だから余計に緊張するし、インターホンに出ても初めなんていえばいいか、両親が出たらどうしようとか…ネガティブになっているのかも。
「よし…ふぅ~」
長時間こうしていても不審者だし、告白するわけでもない。
部屋番号を打ち、決定を押すとチャイムの音が数回なった。
「……」
カメラもついているし、出てくれないかな。
「…はい」
「稲葉さん?」
「そうです…柏木君、どうしました?」
どうした…か、深く考えずに先に体が動いてしまった。
「えと…その、今日休んでたから、プリント持ってきたよ」
一様、担任の池田のところに今日配られたプリントをもらって来ていた。
今日は金曜で、月曜ないと困るプリントがあったし、何か理由があったほうが俺も気が楽だったから…。
「ありがとうございます。 降りていきますね」
「う、うん。 ここで待ってるから」
「はい、すぐに行きます」
通話していたインターホンが切れ、外に車が通る音がマンションのロビーに反響している。
オートロックのドアが開き、私服姿の稲葉さんが見える。
紺色のロングスカートに縞々のtシャツ、そこに赤のカーデガンを羽織っていた。
すごく似合っているし、こうやって見ると足が長いと思う。
「稲葉さん」
「…どうも」ペコリ
思えば学校で朝から会う以外がない、だからおはよう以外の挨拶をしたことがなかった。
「えと…はい、これ。 プリント、これとこれが提出のやつ」
「…」コク
少しよそよそしい空気。
それを誤魔化すように軽くプリントの説明をしていく。
「あのさ…、稲葉さん…」
結ちゃんは俺の推しだ、受験に落ちて救ってくれたのも結ちゃんだと思っているし、疲れた時、寝るときは声が聴きたくなる。
ーーだからそれだけに本人となると…どうしていいか分からなくなる。
「柏木君、この後暇ですか?」
「暇だけど…」
「家でもいいですけど、近くを散歩しませんか?」
「うん」
どこまで踏み込んでいいか本当に分からない。
でもそれ以外の部分では友達…正直モヤモヤした感じがするが…その関係はあるはず。
だから、稲葉さんと話したいと思った。
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