友達3
俺の学校までの定期だから追加でお金は要らないなぁ、なんて考えながら階段を下りる。
「えと…あと十分ぐらいで着くらしいです」
「え?」
何が?
「お母さんが迎えに来てくれるので」
「あ、そっか」
二日前の捻挫の件であんまり歩かないようにしてるんだった。
「えと、乗ってもいいの?」
「はい…その、柏木君が問題なければ」
「俺は助かるけど」
「校門のところで待っててって言ってます」
携帯でお母さんとやり取りしている稲葉さんの後ろについて学校をでる。
「もうすぐ来ると思うんですけど」
しばらく待つと、赤色の軽自動車に稲葉さんが小さく手を振り始めた。
「あれ?」
「はい」コク
俺らの前に停まった車の窓が開く。
「柏木君こんにちは」
「こんにちは」
「お母さんとかに人の家の車には乗ってはいけないとか言われてたりしない?」
稲葉さんが後ろのドアを開け乗り込んだ後、稲葉さんのお母さんの一言にキョトンとした表情をした。
確かに事故した時困るし、そういうことを教えている家もあるかもしれないけど…
「さっき連絡したらよろしくお願いしますって言ってました」
「そう! ならどうぞ」
俺も稲葉さんの横に乗り込み、ドアを閉める。
「家に遊びにきてねって言った次の日にくるとは思わなかったわ~」
「すみません…」
「いやいや、いいんだけどね」
確かに次の日にいくのはどうかと思うな。
まぁ、昨日は行くことがないと思っていたし仕方ない。
「一昨日はごめんね、仕事で電話に出れなくて、迎えに来れなかったの」
「…」もじもじ
「ホントに助かったわ、ありがとう」
稲葉さんは自分のことを言われ恥ずかしようだ。
「気にしないでください」
「それで家でなにするの?」
お母さんの純粋な疑問を言ったつもりだったと思うけど、俺は借りてすぐ帰るのかと思ってたけど…
「一昨日から私の所為で本を買いに行けてなかったみたいだから、貸してあげようと思って…」
「あら、それならいいと思うけど、じゃあ家には上がっていかないの?」
男女間で家に行くのってそんなにあっさりしてるものだっけ?
「上がっていかないんですか?」
「…」
そう思ってたけど…
「…?」うるうる
そんな不安そうな顔されたら…
「えと、迷惑じゃなければ…」
チラっと車の前の鏡に映ったお母さんの顔は楽しそうだった。
「迷惑なんて、晩御飯もどうぞ。 友達を連れて来るなんて初めてだから」
これ俺が困ってるのを分かってて言ってると思う。
「友達って家で遊ぶものですよね? 本でもすぐに家に行くし…」キラキラ
「ぷッ」
もしかして声の所為で友達が居なかったってお母さん言ってたけどその所為で友達像がおかしいんじゃないか?
お母さんも吹いちゃってるし。
「稲葉さん…それっていつもみたいな本?」
「…」コク
「それってたぶんカップル…とかじゃなかった?」
「ぷっ、はぁ…はぁ…」
「カ、カップル、ぁ」ぽわ~
気づいたのかすごい勢いで顔が真っ赤にしてキョロキョロしている。
あ、手で顔を仰ぎだした。
後お母さん爆笑してるし。
「友達を連れて来たのが初めてだから、この子がこんなにひどいことになってるとは思ってなかったの」
鏡ごしにお母さんに目を合わせると無責任なことを言ってきた。
結局、本読むだけというお母さんのアシストで気まずくならずに済んだ。
……
…
やばい、良い匂いがする。
家に入って早々、普段嗅ぐことのない匂い。
駅近のマンションの最上階、やっぱお金持ち?
「すごい数」
「ほとんどお母さんのものですけど」
稲葉さんの家に上げてもらうとものすごい数の本が置いてあった。
いくつもの本棚にぎっしりと並んでいる。
「お母さんもこういうの好きなんだ」
それにしても、本や紙の落ち着く匂いなんだけど、俺の本棚とは違った甘い、いい香りがして…ドキドキする。
「お母さん、昔声優してて。 それで…」
「え」
ドキドキも止まるぐらいの爆弾発言。
「それって、どういう?」
「アニメとか好きでしたよね?」
「うん、そうだけど」
「それの…」
「え!!」
確かに特徴的な可愛い声だと思ってたけど…そこまでとは。
ーーガチャ!
「でもね芽が出なくてやめたの」
その時ちょうどお茶を入れてくれていたお母さんが部屋に来た。
部屋の外にまで聞こえていたようだ。
「本当に声優してたんですか?」
「ええ、養成所もちゃんと通ってたのに、門が狭くて…」
「ありがとうございます」
お茶を受け取り、お礼を言う。
おいしい、緑茶だ。
一口飲んでコピー機の横に置かれたお盆にのせる。
「じゃあ、私はご飯の支度があるから若い者で適当にどうぞ~」
ちなみに車の時点で夕方には電車で帰ることになっている。
「何があるかみてもいい?」
「…」コク
……
…
これから俺はある物を見つけることになった…。
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