放っておいてください1
「葵もいいけどさぁ、稲葉ちゃん彼氏いるかな?」
「おい、真田辞めとけって…」
昨日の今日で収まる衝撃ではなかったらしい。
クラスのやつが止めてくれてはいるけど、原さんに聞かれても俺は知らない。
「…あの」
「おはよう、稲葉さん。 あれ、髪降ろしたの?」
さっきまで括っていたのにもったいない。
「おはようございます。 括っていると顔がでて人とよく目が合うので…」
うん、イメチェンで意外と可愛かったからだと思うけど。
「そっか、目が合うのが嫌なの?」
そういえば初めは目も合わせてくれなかった。
「えと、目があうと会話しないといけないので」
なるほど…
「でも俺とは普通に話せてるけど?」
「それは…ペアの時の昼ご飯で私から離れたのに来てくれたから…嬉しくて、つい。 もう慣れました」
それは罪悪感からの行動だったけど…、あとこのニュアンスだと中学ではそういうのがなかったんだろう。
ちなみに二人で話してるときには将と司は話しかけて来ない。
「そういえばこの間発売の前に言ってた本読みましたか?」
「あー、今日買いにいくつもり」
いつも通り二人で話していると…
「よっ颯太元気? 稲葉ちゃんも」
「真田…」
俺と稲葉さんの会話に真田が割って入ってきた。
これ絶対稲葉さん目当てだろ。
「あれ? 稲葉ちゃん、何か言ってよ」
「…」ぷるぷる
絡まれたのが嫌だったのか俺の後ろに来て顔をそらしてしまった。
「あー、真田ごめん。 今大事な話してるからさ」
遠まわしにどっか行けと言ってみる。
「えー、お前ら付き合ってんの」
「…」!!
「そんなことないけど」
「ならいいじゃん。 二人はどういう関係?」
「ただの知り合いだって」
稲葉さんが裾をくいくいしてるけどどうかしたんだろうか?
「…」むー
気まずいし、喧嘩になるんじゃないかって周りが静まり返っているし、誰か助けてほしい。
「ねー匠、稲葉さん困ってるっしょ!」
「葵?!!」
「ほら、こっち」
「ごめんって、痛い痛い」
原さんの参戦で真田は強引に退場させられていった。
「はぁー」
周りの空気が張り詰めたものから安心したものに変わると同時に授業のチャイムが鳴った。
……
…
「ふぁー、食べたー。 将、御馳走様~」
「良いって」
「僕まで悪いね」
野外活動の件で将に昼飯をおごってもらっていた。司の分まで奢ってくれて太っ腹だと思う。
「? どうした颯太」
「あれ…」
俺が登って来た階段とは逆方向にある階段に稲葉さんらしき人影。
もちろんいることは不思議ではないけど、あれは誰かに連れられているように見えた。
トイレの方向ならあり得るけど、何かあったのかな?
「先戻ってて」
「トイレ?」
「そんなとこ」
お節介かもしれないけど、嫌な予感がする。
「居ない」
下の階に降りてみても見つからない。
ーー結局次の授業が始まるまで稲葉さんの姿は見つからなかった。
……
…
あの後、教室に戻ってきた稲葉さんは机に突っ伏したまま顔をみてない。
でも俺にできることはないと学校の最寄りの駅まできてしまった。
正直何か声をかければよかったと後悔している。
別に毎日話していると言っても一日に数分、二人ともすることがなくて暇だったら話に行くといった程度。
付き合っているわけでもない、でも…。
「やっば、忘れものした」
「何を忘れたの?」
「宿題を机に入れたままだった」
「それはまずいね」
「俺取りに戻るから、先に帰ってて」
「うん、頑張って」
「何がだよ…」
誤魔化すつもりだったけど、司には俺の心配が伝わっていたみたいだ。
ちなみに将は部活でいない。
学校の最寄り駅からなので走って五分で戻って来れた。
「帰ってるかな」
もう帰ってたらそれはそれでいい。
靴を上履きに履き替えて一年生の教室、四階めがけて階段を上る。
ーーあと一階。
あそこの角を曲がって、教室に…
ーー「うわ! って稲葉さん?」
「ひゃ」
曲がり角まがろうとしてすぐ、稲葉さんとぶつかりそうになった。
また尻もちをつかせてしまった。
「あ、ごめん」
「はい…」
手で引っ張って立たせてあげる。
「柏木君、どうして?」
「心配だったから」
「え?」
「昼にどこかに行ってなかった? それからずっと調子悪そうだったからさ」
「本当に大丈夫です」
すごい恥ずかしいことしたかも。
「ごめん、忘れて…」
「はぁ…」
俺の行動に吐かれたため息かと思ってドキッとした。
けど、よく見れば…
「稲葉さん、本当に大丈夫? しんどそうだけど」
「はい、もう帰りますね」
足を引きずっている、気がする。
「足が痛いの?」
「…」
「この間の捻挫が治ってないとか?」
「…」
「何か、言ってよ」
元の関係に戻った気がして寂しい。
「…放っておいてください」
辛そうな表情の裏に本当にそう思っているように見えた。
「…ごめん」
俺は足を引きづったままの稲葉さんがエレベーターで降りていくのを見送ることしかできなかった。
誤字脱字、矛盾等気付いた段階ですでに出ている話に影響が出ないように直します。
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