お返し?
「…」
「稲葉さん、どうしたの?」
とことこと松栄杖を突いて俺の席まで来る。だから音でわかる。
初めはお互いに声を掛けるだけで間があったけど、もうそんなことはない。
「あの…この間のお礼で飲み物を買いに行こうと」
「あ…そういえば。 気にしないでよかったのに」
確かに、お小遣いの九割を音声作品、残りをラノベに使っている金欠な俺は嬉しいけど。
「いえ! 何がいいですか? その、好みとか分からないので」
「あー、ここって何が売ってたっけ? あんまり行かないからなぁ」
「…」?…コク「私も覚えてないです」
ちなみに俺はまた一人教室で弁当を食べていたから将と司はいない。
「なら、一緒に行ってもいい?」
折角なら奢られても罰は当たるまい。
「…」コクコク
松葉杖の状態では階段が無理なので、特別に許可されたエレベーターに一緒に乗り込む。
密室に女の子と二人…ゴクリ、なんてね。
「足の調子どう?」
「はい、土曜に病院に行って問題なければもう大丈夫です」
「そっか、良かった」
約二週間の松葉杖も終わりを迎えるらしい。
山でのあの時は必死でおんぶしたけど、治ってよかった。
「着いたー」
お金がないので来ることのない購買に来た。
「あれ、颯太くん? 稲葉さんも」
「委員長」
「…」ペコリ
「デー…間違えた、だから睨まないでよ。 何してるの?」
「気を付けてね。 この間のお礼で稲葉さんが飲み物を奢ってくれるって」
「えー、いいなー」
「…」おろおろ
「嘘だって、二人で楽しんでー。 じゃね~」
なんていえばいいかわからない稲葉さんの動揺具合で満足したのか友達とどこかへ行ってしまった。
「すごい人」
購買には長蛇の列ができ、昼飯を終えた人達が食後に買い物をしている。
その中でも飲み物のコーナーには人が集まっていた。
「うわー、俺取ってくるけど人多いし一緒に取ってこようか?」
「…」ふるふる
「あ、飲み物買わない?」
「…」ふるふる
人が多いところではあんまり話したくないのかもしれない。
『私はこれで…』
そう囁かれてみれば冷やされていないところから取って来た紅茶が握られていた。
「それ冷えてないけどいいの?」
「…」コク
体冷やすのは良くないって聞くし、気にしてるのかもしれない。
「じゃぁ、俺取ってくる」
そう言い残し、人込みの中に入る。
「はぁ…やっと取れた」
もうあんまり残ってなかったけど、俺の好きなストレートティーがあったからよかった。
「いた、稲葉さん、本当にいいの?」
「…」コク
俺が戻るとレジの列に並んでくれていた。
「ごめん、並んでくれてありがとう」
「…」ごそごそ
制服のスカートのポケットから柄のついた財布を取り出した。
「…」ごそごそ
「?」
レジの順番もあと二組ほど。
「どうかした?」
「……」もじもじ
あと一組、混んでいるように見えたけどいざ並ぶとそうでもなかった。
「その…財布はあるんですけど、一昨日本を買いに行ったので…お金が」
顔を真っ赤にして俯きからの上目遣いのコンボ。
「え? ぷっはは~」
慌てかたが面白くて笑ってしまった。
そんなことしている間にレジの番が来た。
「ど、どうしたら!!」あわあわ
「また今度でもいいよ」
「す、すみません」
稲葉さんは肩を落としてションボリしている、わかり安い。
慌てて回りが見えてないようだけど、順番が来ているので俺の財布から支払う。
「どうも」
お金を払ったあとシールを張ってもらう。
「はい、これ」
レジから一緒に持ってきていた稲葉さんの紅茶を渡す。
「あの…その…ごめんなさい」ペコペコ
「うん、大丈夫」
本当に申し訳なさそうに頭を下げているけど、高くないし気にしないでほしいな。
「お金お返しします、ごめんなさい」
「いいって、奢ろうとしてくれてたんだし、奢られてもいいでしょ?」
「でも…」ぷるぷる
意地を張っているけど、小刻みに体が揺れて恥ずかしいって思いが伝わってくる。
「今日はいいからさ、今度また頼むよ」
「…はい」
そんなに肩を落として、もしかしてずっといつ買うか考えてくれていたのかな?
「そういえば常温の飲み物買ってたけど体に気を使ってるとか?」
「そうですね、小さいころからそうして来たので」
話を変えあんまり深く考えないようにしてもらおう。
「すごいね、俺はすぐに冷えたの飲んじゃうからさ」
「慣れました。 逆に冷たいのは苦手です」
褒められたのが嬉しかったのかテンションが少し上がった様子で紅茶を口に運んでいる。
飲むときには髪が邪魔なのか手で一度どけてから飲んでいる…
「髪、括らないの?」
「顔を出すのが恥ずかしいので」
「そっか…括ったほうがいいと思うけどなぁ」
時々見える笑っているときの顔とか見たら絶対みんなと仲良くなれると思うけど…。
と言っても俺も深い友好は将と最近では司の三人でよくいるぐらいだけどね。
「そのほうが好きなんですか?」じー
純粋な疑問で返されると困るな…
「んー、っていうより…稲葉さんは笑顔が髪で隠れてもったいないなーって」
「…」あわわ
軽い気持ちで言ったけど、やばかったかも、体がまた小刻みに揺れ出したし。
「あ、ごめん」
「い、いえ。 その…今度、やってみますね」
お互い恥ずかしく、どこか居心地の悪い空気で購買から教室に戻るとちょうどチャイムがなり、昼休みも終了となった。
呼んでくれてありがとうございます(*- -)(*_ _)ペコリ
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