お返しの約束
野外活動の代休だった月曜日も終わり、登校日。
行かないといけないのはわかってる、でも…しんどいなぁ。
「あぁ~」
通学途中の電車。憂鬱な気分を音声作品で誤魔化す。
今回は結ちゃん以外の声優がやっている作品でシナリオ重視の大手サークルから出ている同人作品。
結ちゃんはデビューして日が浅く、作品数も少ない。だから毎日聞けない…。
「はぁー」
いっそのこと自分で書いて依頼するのもありかも。
幸いにも素人とは言えネットで数年書いていたし、勉強し直せばできる気はするけど…。
「着いたか」
学校って嫌いじゃないのに、どうしてあんなに行くのが嫌になるんだろう。
駅に着いた電車の扉をくぐり、改札をでる。
「はい?」
肩を誰かに触られ後ろを振り返る。
「…」キョロキョロ
「稲葉さん? その松葉杖…」
すごい「どうするか考えてなかったー」って気持ちが伝わるかのような反応が帰って来た。
『お、おはようございます』
結局恥ずかしくなったのか耳打ちで何か言っているけどイヤホンで聞こえない。
「えと、もう一度お願い」
頬を真っ赤に染めてもう一度顔を近づけられると…。
『お、おはようございます』
「え?…おはよう」
挨拶?
「…」?
「いや、大事なことかと思った。 普通に話しかけてよ、ビックリした…」
『こ、声が』
本当、朝から声フェチ相手にすごいことをしてくれる。
おかげで憂鬱も眠気も飛んで行った。
「なら小声とかでも大丈夫だからさ」
いや、日頃買い物とか、会話が必須な場面でどうしているんだ?
「はい」キョロキョロ「あの、この間はどうも…」
「病院行ったんだ」
「はい、おかげで軽症ですみました」
「そっか、ならよかったよ」
時間もないし、学校まで歩き出すと一緒に横を付いてきた。
「はい何かお礼がしたいんですが」じー
見つめられても困るな…、お礼?
「お礼って、そんなのいいよ、気にしないで」
「い、いえ。 お母さんが恩は返しなさいって」
厳しい人なのかな?
「じゃぁ、今度飲み物でも奢ってよ。 どうかな?」
多分手ごろで、しっかりと物をもらうので一番いいと思う。
「はい、それでよければそうさせてもらいますね」
声は小さいけど会話はできている。
『はぁ…』
今はイヤホンを外している、それでもわずかに稲葉さんのため息が漏れたのが聞こえた。
「何か悩み事?」
松葉杖をついているのでスピードはゆっくりだけど、背中に元気がないように感じた。
「いえ…、それより新刊読みました?」
「あ、読んだよ! 後半の…」
「あわわ~、私まだ読んでないんですよ」
「お、ごめん」
ついネタバレしそうになった。あれは本当に重罪だから気を付けないと。
「気を付けて下さい」
笑顔の稲葉さんの注意されてしまった。
やっぱり稲葉さんは表情豊かだと思う。
「代休は時間なかった?」
「はい、病院とか…」
わずかに表情が曇った、気がする。髪の毛で隠れ気味ではあるけど、多分なにかあったんだと思う。
できるだけ触れないようにしよう。
「また読んだら教えてよ」
「はい!」
……
…
*
「ふぁー、あと半日で今週も終わりかー」
稲葉さんと投稿した日から三日、金曜日の昼休み。
月曜になると嫌な気分にしかならないのに週末になると嬉しさと寂しさがあるな。
「颯太、じゃぁ俺ら食堂だから」
「じゃあね、颯太君」
俺は一人弁当を教室で食べる。
学食に弁当を持って行ってもいいけど、すごいスタッフの人と目が合うと気まずくなるからあまり行かないようにしてる。
「さてさて、じゃぁー」
っと一人になったタイミングですかさず携帯を取り出し、イヤホンをつける。
俺も最近すこい嫌なことがあった。
「はぁ…」
推しの結ちゃんのSNSが炎上した。しかも誰とも知らない結ちゃんに依頼した人が対応が悪いと騒ぎだしたらしい。
あんなに声が可愛いんだからちょっとぐらい我慢しろよ。
当事者でないファンは無責任にかばうけど仕方ない…仕方ない。
そんなイライラを音声作品で解消する。
「あの…」
呼ばれて振り返ると…
「あれ稲葉さん? どうしたの?」
「本やっと読み終わったのでこの間の話の続きをしようかと」
わざわざ話に来てくれた…なんか嬉しい。
野外活動以降、朝会えば話をするし目があえば会釈するぐらいの仲になった。
ちなみに将は朝練で一人で行くのにも慣れてきた。
「ん? 稲葉さん、しんどそうだけど…」
「はい…少し寝れてなくて…」
寝れない俺を救ったのは音声作品だけど…これを薦めてもいいかな?
流石に男女の壁があるか…。
「そ、それより何を聞いていたんですか?」
また話をそらされた…。この間の話に続き触れてはいけない部分だったっぽい。
「それは…」
「…」?
稲葉さんは話をそらすつもりで言っただけかもしれないけど…俺には大惨事。
いやでもやましいことは何もないし…。
稲葉さんもあの本読んでたから大丈夫かな?
「お、音声作品」
「…え?」
んー、よく考えれば絵のないアニメ、声付きのイラストだし堂々としていればいい気がしてきた。
「音声作品、朗読劇みたいな?」
「…そうなんですか」
「そうだ、寝れないなら一度聞いてみてよ。 俺も受験に落ちて寝れなかったときこれで寝れるようになったんだ」
「へぇー、色々あるんですねー」
「稲葉さんはアニメとか見るの?」
「…はい、人よりは見ると思います」
興味なくはないけど、居心地の悪そうな反応をされた。
また好きなことだと話しすぎる悪い癖出てるかな?
「あ、ごめん。 この話はなしで、つい好きな物については話ちゃって…」
「いえ、その…、おすすめってありますか?」
「え?」
意外とちゃんと聞いてくれてる?
「俺は男だからかもしれないけど、”結”って同人声優がcvの作品はどれもおすすめ!」
「…」そわそわ
頬を赤く染めて……照れてる?
やっぱり、女の子に女性声優を薦めるのは違うか。
俺も男性声優薦められても別に推さないし…。
「ごめん、忘れ…
「どういうところが…おすすめなんですか?」
「え? それはやっぱり声が好きで、落ち着いた声で聴いていて安心できるから…それに」
「も、もういいです! 機会があれば聞いてみますね!」
あ、聞かないやつだ。まぁ音声作品はアニメとは違って手を出しにくい部分ではある…最高なんだけどなぁ。
他にもシチュエーションボイスとか声劇とか手ごろなものネットにあるから聞いてほしい。
「それより、それより本。 私、後半のあのシーン、最後のところドキドキしました」
「あそこホントによかった、あの後さ……」
本の感想を話しにきてくれたのに俺が話をそらしてしまった。
悪いことしたな。
……
…
あの後昼休みが終わるまで悩みが解決したかのようなスッキリした表情の稲葉さんと少し小さめの声で語り合った。
音声作品は本当におすすめなのでシチュエーションボイスとか、声劇で調べてみてください。
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