幕末日本は異世界と融合しましたが、新選組は京の治安を守り続けます。
月影が京の細い路地まで差し込む明るい夜だった。
生木を裂くような耳障りな断末魔と共に、豚頭人身の化け物は地に沈んだ。新選組副長土方歳三は、その端正な顔を不快に歪めながら佩刀の血を懐紙で拭う。
「そっちはどうだ、総司」
「済みました。あいつら動きが鈍いから楽に斬れましたが、無闇に臭いから嫌ですよ」
路地の陰から、涼しい顔をした新選組一番隊組長沖田総司が姿を現す。携えた刀の先からはまだ血が滴っていた。
「全くだ。俺の和泉守兼定が豚畜生の血を吸う羽目になっちまった」
「屯所で飼ってた豚さんが化けてでましたかね」
「やめろやめろ、食い気が失せるだろうが」
土方は足元の血の海に懐紙を投げ捨て、刀を鞘に納めた。
「み、見事じゃ。あの獰猛なオークどもを一瞬で屠るとは」
沖田の背後に隠れるようにしながら震え声を挙げているのは、金色の長い髪に、翡翠のような瞳、先端の尖った長い耳が特徴的な美少女だった。
「新選組の副長と一番隊組長が出張っているんだから当然だ。くろ谷の方からのたっての依頼でなけりゃ異人の娘の護衛にわざわざ幹部を二人も出さねえよ」
「土方さん。異人ではなく、えるふ、と言うらしいですよ」
「何が違うんだ」
血刀を下げたままの沖田は笑顔だ。空いた手で傍らの少女の頭をぽふぽふ撫でている。
「彼らからえりくさ、という薬をいただいたんですが、それ飲んでから調子が良くって。きっといい人達ですよ」
「その男の肺腑は死に至る病に侵されておったようじゃ。薄めたエリクサーを朝晩口にしていれば、十日ほどで全快するであろう」
それを聞いた土方は思わず沖田の顔を見た。沖田は軽く頷いて笑みを見せる。
「……変に借りを作るんじゃねえ。うちの虚労散でも箱で送っといてやれ」
「いや迷惑でしょう。あれ効かないもの」
「馬鹿野郎、効くと思えば効くんだよ」
砂を踏みしめる音。路地の両側から新たなオークの巨体が迫ってきている。
「何でこの娘はこんなに豚の化け物に好かれてんだ」
「エルフとオークは不倶戴天の敵同士であるがゆえ……」
「俺らと薩長みたいなもんか」
「土方さん、流石にそれは薩長に無礼では?」
沖田は血振りした刀を平正眼に構えた。背中合わせの土方は無造作に歩を進めながら、刀の鯉口を切る。
「変わらねえさ。京の治安を乱す者は、新選組が斬り捨てる」
月明りに、刀身が閃いた。
なろうラジオ大賞2 応募作品です。
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