去った青鬼
これは高校生の時に部活で朗読劇をすることになり、そのために執筆した作品でした。その作品に改めて手を加え、今の自分にできる高校時代入れたかった描写や表現をすることができたかと思います。つじつま合わせがまだ上手くいってないところもあるかもしれませんが、「泣いた赤鬼」のもしものがたりとして楽しんでいただければ幸いです。
(第一章 泣いた赤鬼)
今は昔。とある人里近くの山奥に、心の優しい赤鬼が住んでいました。その赤鬼には山を越え谷を越えたところに住む親友、青鬼がおりまして、遠いながらも2人はよく遊んでいました。この時代の鬼というと人里を襲っては、金品から人の命まで奪っていくものがは多くおり、人々にとって、鬼は畏怖の象徴でした。ただ、鬼たちも人間の技術力や繁栄には一目置く部分もございますので、襲いすぎて数が減っても面白くない。そこでわざわざ怒らせでもしない限り、双方干渉しないのが暗黙のルールでございました。じゃあ何故「桃太郎」の鬼はああなったかと言いますと、どこの世にも異端児はいるものですから、その時の鬼の頭領が血気盛んだったのです。たまたまその時期に人間の英雄「桃太郎」が生まれてしまい、鬼を討伐。以来、わざわざ人前に姿を現す鬼がいなくなり、現代に至ります。では、この赤鬼青鬼はどうだったのかと申しますと、やはり異端に当たるでしょう。しかし、異端は異端でもこの2人は「桃太郎」の鬼とは違い、人間に一目置く気持ちの強い方。つまり、人間を認め、できれば仲良く暮らしたいと思っているような2人でございました。特に赤鬼はその思いが強く、こっそり人里を覗いては、人間の作るもの、暮らしぶりを真似るほどのものでしたから、人と仲良く暮らせる日を、夢見ておりました。そんなある日、青鬼が赤鬼の家を訪れると、何やら赤鬼が泣いているではありませんか。どうしたのかと聞く青鬼に、赤鬼はこう答えました。お菓子もお茶も用意して、わざわざ看板まで立てたのに、それを見た人間の木こりたちはこれは罠だと言ったのだ。誤解を解くために外に出るとみんな驚いてとんで帰っていってしまった。それを聞いた青鬼は、赤鬼の思いをどうにか人々に伝えることはできないものかと考え、ある策を思い付きました。しかしそれは、赤鬼の夢を叶えると同時に、自身と赤鬼との別れも意味しておりました。赤鬼は心が優しい。それ故私と別れることになると知れば、この策を受け入れてはくれないだろう。だが、私とて赤鬼と別れることになるのは…涙もおさまり、冷静になった赤鬼は何やら考え込む青鬼の様子を見て、はて、青鬼は何を考え込んでいるのだと心配になり、声をかけました。すると青鬼は我に返り赤鬼の顔を凝視するではありませんか。不思議に思う赤鬼をよそに、青鬼はうなずき人間と仲良くなる策を提案してきました。それなら上手くいくに違いない。決行を1週間後に決め、青鬼は家へ帰っていきました。
青鬼は親友である赤鬼に、強い友愛を感じる鬼でした。青鬼が別れを決断したのは、先程まで泣いていたのが嘘のように、自分のことを心配そうに見つめる赤鬼の顔を見て、こんな優しい鬼が、私の親友が、夢を叶えられなくていい訳がない。そうだ彼は優しい。私がいなくても親友として私を想ってくれるだろうし、きっとその優しさを人間たちも分かってくれる。そう確信してのことでした。
青鬼はこれを成功させるため、自分がするべきことを確認することにしました。第一に、人間を傷つけないこと。第二に、大袈裟に暴れても被害が最小になるよう、人里について把握すること。そして第三に、自身が去ることを赤鬼に悟られないこと。青鬼は人里を把握しつつ、自分が出ていく準備を進めるために必要な期間として、1週間と設定したのでした。やることを決めて過ごす時間と言うのはなかなか短く感じるもので、あっという間に1週間が経ち、決行の日。打ち合わせも済ませ青鬼は一人、人里におりていきました。青鬼の提案した策は、まず青鬼が人里で暴れ、それを止めに赤鬼が参上することで、人々に赤鬼は信用してもいい鬼であると思わせるといったものでした。青鬼は、この1週間の成果を、あばれながらも誰も傷つけず、生活に必要なものにさえ手を出さない徹底ぶりにて発揮してみせました。赤鬼もそんな青鬼に応えようと精一杯青鬼を制止し、追い払う役を演じきりました。逃げ帰る青鬼と、その青鬼から救ってくれた赤鬼を目の当たりにした人々は、こう言いました。
有難う!君は前にお菓子と茶を用意していると看板を立てていた鬼ではないのか?
そう口々に赤鬼について話す人々の群れから、年老いた人間が赤鬼の前に出ました。村長だと言うその人間は、こう言いました。今日はあの恐ろしい青鬼から我々を救っていただき、有難うございました。お疲れでしょうから今日はこの村の宿にお泊まりください。せめてものお礼です。赤鬼はせっかくの人々と仲良くなる機会だと、策が成功したことを一番に青鬼に話したい気持ちを抑え、彼らの申し出を受けることにしました。
赤鬼が寝静まった頃、村長を含む村の重鎮が会合を開いていました。議題は赤鬼について。
今日助けてくれたあの赤鬼だが、私はどうも信用がならん。今日村に泊まらせたのは赤鬼について調べると同時に監視するためである。そう長く拘束することも叶わんだろうから、なるべく今晩中に赤鬼の処遇について決めたい。
俺は鬼を信じるのは正直怖いが、助けてくれた恩もある。それを返すくらいはしてもいいと思っている。
私も同感だな。彼は以前、家に人間を招き、茶を楽しもうとしていたと聞いた。それが本当ならたまに行って楽しむ位してもいいと思う。
僕は、どうもうさんくさく感じてしまいます。あの一連が全て演技に思えてしまうのです。
演技…?仮にそうだとしてなんの利点があるとお思いか?
そうだなぁ、我々に取り入って、喰らってやるとか。
そうだな、彼は曲がりなりにも鬼だ。寝ている間に殺してしまった方が安全と見えるな。
それはおかしい。彼が曲がりなりにも鬼だと言ったな?ではその鬼が、わざわざこのような手を使わなくとも、素直に襲えばいいと思うのは私だけか。
一理あるな。
ではこうするのはどうか。彼が青鬼と仲間で、我々に取り入ることが目的だとすれば、何らかの形で結果を知らせる、あるいは青鬼自らが見に来ることがあるやも知れん。よって、青鬼と直接の接触がない場合は赤鬼を暫定的に味方と見なし、逆に青鬼と接触、あるいは青鬼が再び現れたそのときも青鬼を追い払うことをしない場合、我々が一丸となって赤鬼を討つこととしよう。それで良いな。
青鬼が、襲うふりをして結果を確認するという場合は?
絶対の信頼は難しいとして、仲を保つことと監視どちらも目的としよう。どちらにせよ何人かは常に赤鬼と関わることになるだろう。怪しい素振りがあった瞬間討てばよい。それが鬼より弱き我々にできる最善と見えるが、皆はいかがかな?
異議なし。
よろしい。それでは赤鬼が怪しい素振りを見せるまでは、楽しいひとときを過ごそうぞ。
その日から赤鬼の生活は一変した。家にいても人々は自分と茶を楽しみに来てくれる。村に出向けば英雄として皆に歓迎される。人々と仲良く暮らすと言う、憧れた生活を手に入れた赤鬼はこの幸せを親友に伝えたいと、ふと青鬼はどうしているのかと考えた。あの日以来、彼に会っていない。彼のお陰でこのように過ごせるのだ。彼のもとにこの素晴らしい結果を知らせに行こう。そして、自分にできる精一杯の礼をしよう。そう思った赤鬼は紙と筆を取り出し、今日一日留守にします。明日には帰ります。と家の戸に張り、さっそく出発した。山を越え谷を越え歩き、やっとたどり着いた久しぶりの青鬼の家はどことなく寂しい雰囲気がした。それでも早く青鬼に礼を言いたい赤鬼は家の戸を叩く。返事がない。青鬼は留守にしているのかもしれないと、辺りを見回すと、戸に張り紙がついているではないか。
赤鬼よ、君のことだから、きっと作戦は上手くいって、人間と仲良くしていることと思う。だが、もし君と私が仲良くしているところを人間が見れば皆はきっと、また君から離れていってしまうだろう。私は長い長い旅に出ることにする。どうか、人間といつまでも仲良く、体に気を付けて暮らしてほしいと思う。忘れないでくれ。私はいつでも、君の親友だ。青鬼
赤鬼は今までにないほど大粒の涙をいくつもいくつも流しました。黙ったまま何時間も何時間も泣き続けました。
(第二章 去った青鬼)
赤鬼が張り紙を読んで泣いていた頃、青鬼はとっぷり暮れた空を見て、今日の寝床を探していました。そこで見つけたのはとある集落。策を遂行してすぐ出発し、何日も一人で旅をしていた青鬼は、なぜか赤鬼の顔が浮かび、急に寂しくなったので、少しの期待を持って、集落を覗いてみることにしました。すると、集落には看板が立てられてあり、旅人さま、ここを進んだ先に家を用意しています。ご自由にどうぞ。と書かれていました。用意してあると言う割にずいぶん埃っぽいなと思いながらその家の椅子に腰掛けると少し休みました。休んで寂しさも疲れも和らぎ、冷静になったとき、青鬼は急に恐ろしくなり、人間がここに来て、見られたらどうしようと思いました。その直後、がらっと戸の開く音が聞こえ、慌てた頃には時既に遅く、その集落の住人であろうみすぼらしい少女が立っていたのです。しかし、少女は青鬼を見ても驚く素振りも見せず、
夜伽にお付き合い致します。ですのであなた様の持ち物をいくらか拝借させてください
と、か細く語りました。青鬼はそれを聞き、
そうか、ではこの袋から好きなものを持っていくといい。だから君の言う通り、相手になってもらおう。何、ただの話し相手だとも。
と答えました。しぶる彼女を気にかけながらまずは自分からかなと自分が見ての通り、鬼であること、なぜこの集落にたどり着いたのか等、話しを聞かせたのです。すると次第に少女も興味を持って聞き始め、自分の身の上話をし始めました。彼女が言うには唯一の家族である母親が死に、その頃から集落でもすみに追いやられるようになってしまい、そのため、たまに泊まりに来る旅人に物乞いをし、なんとか生活をしているとのことでした。そこで青鬼は、旅に備えて大量に持っていた保存食を分けることを条件に、しばらく一緒に住むことを提案しました。自身の寂しさを緩和することと、少女のことを心配しての提案でしたが、少女もそれを汲んだのか提案を受け入れました。それから数日、彼女と過ごし話をする中で分かったことは、今のこの集落は他人のことなど我関せずと言わんばかりの人たちで溢れていること、彼女の母親は、生前かなり明るい性格であり、そんな母親が大好きだった彼女自身も負けず劣らず明るかったと言うこと。そしておそらく、この集落の現状を生んだ元凶が彼女の母親の死であること…
さらに数日たった後、青鬼はある行動に出たのでした。それは、少女をもとの明るい性格に戻すこと。図らずも青鬼は持ち前の優しさで人を笑顔にする才能があったため、彼女の笑い声が集落に響くまでに時間はそうかかりませんでした。それを聞いた集落の人々は久しぶりに聞いた少女の笑い声に少なからず興味を持つようになりました。すっかり明るくなった少女は昔母親がしていたように集落の人々と話をするため、外に出ていくことが増えていきました。そんな彼女に感化されたのか人々の間でも、少しずつ笑い声が聞こえるようになりました。
青鬼はこうなると分かっていたのです。彼女の話を聞き、この集落の中心人物が彼女の母親であり、その人をなくした悲しみと、その悲しみによってもたらされた静寂は、集落を飲み込み、人々は笑うこと、楽しむことを忘れていってしまったのだと。ならば、忘れる以前の母親のように台風の目を生み出せばこの集落は少なからず明るくなるはずだと。そんな青鬼の思いが届いたのか、集落がもとの活気を取り戻した頃、元々寛容な人々の集まりであったこと、悲しみを乗り越え、少々のことでは動じなくなったこともあり、青鬼と言う存在ですら皆に受け入れられるようになっていました。もとの集落の姿を取り戻す手助けをしてくれた青鬼に人々は村の特産品でごちそうをしたり、伝統の踊りを見せたり様々な形でお礼をしました。青鬼はそんなみんなの姿を見て嬉しくなり、こう言いました。
皆さんが笑顔で元気になってくれてよかった。この少女の母親の死は確かに悲しいものだったと思います。しかし、それを悔やんでいるばかりでは、残されたものとして示しがつきません。皆にとってのこの子の母親がそうであったように、それぞれに大切な人はいるはずです。その人がもうなくなっているならその人の分も前を向いて生きていく責務が。その人がまだ生きているならその人のことを近くで、大切にしてあげてください。それがその人のためにも、自分自身のためにもなると思います…
青鬼さんにとっての、大切ってだれなの?
そう聞いたのは、あの少女でした。
それは…
そう青鬼が言いかけたとき自分が今言った「大切な人の近くで大切にする」ことと赤鬼の顔が同時に浮かびました。
…私の大切な人は大好きな、親友の赤鬼さ。私は、それが最善だと信じこみ、彼の気持ちも考えずに出てしまった。私と彼は、同じ気持ちを共有できるくらい、かけがえのない友なんだ。私の彼と会えず寂しい気持ちを彼も思っているかもしれない。彼のために自分のためにも、もう一度彼と会わなければ。だが、それで彼と村人を仲たがいをさせてしまったら…
その時は一緒にここで住めばいいよ。
人々は口々に言いました。
生きてる限りやり直せるものさ。
ここで暮らしてる間に、その村でも考え直す人が出てくるかもしれない。
私たちみたいにさ。
そうか、そうだ、うん。私は彼に会いに行こうと思います。急だけど、どうなるか分からないけれど、許してください。
許すも何も、皆あなたに感謝してるんだ。その気持ちは変わりゃしないさ。
有難う。それでは、早速旅の支度をしなくては。
(終章 青と赤の鬼)
青鬼はその後、すぐに集落を出発し山を越え谷を越え、何日も歩いてあの赤鬼の家に着きました。
久しぶりだな、赤鬼、家にいるのだろうか…いない、村にいるのか。覗きに行こうか…いや、待ってた方が…だが、彼が村人と上手く過ごせているかも見たい。何より、彼の顔を見ておきたい。よし。行こう。
村は以前よりも活気に満ちておりました。その中心にはあの赤鬼が。
よかった。君のことだから上手くいってると信じてたよ。なら、君に僕はまだ必要かな…
青鬼が出たぞぉぉぉお青鬼だぁぁあ
そんな、やっぱり見に来るんじゃなかった。
発見の声を聞いたのか赤鬼が声の方を見る。青鬼、赤鬼の2人は実に4ヵ月振りに顔を合わせました。青鬼は村人に連れられるまま、赤鬼の前に向かいました。
ごめん、赤鬼。君の村人との生活を台無しに…
久しぶりだね、親友。
え?
あはは、大丈夫だよ、この村の人たちは、君を歓迎してくれる。だから、今は再会を喜ぼうじゃないか。
青鬼は不思議に思いながらも促されるまま、村人の歓迎を楽しんだ。歓迎の会は一日中行われ、その晩に赤鬼は喜びもあってか酔いつぶれてしまった。その瞬間、暗がりから炎に照らされて村長が現れた。
何が何やら分からないと言う顔をされておるな。それはそうだろう。だが、どれもこれも赤鬼のお陰なのだよ。
青鬼が詳しく聞くと
あなたは赤鬼と我々を仲たがいさせないように去っていったそうだな。彼はその後せっかく策を労してまで築いた我々との関係を崩す可能性があるにも関わらず、我々全員の前であなたとの関係、あの一連の件について、包み隠さず話し始めたのだ。無論我々とてその可能性を考えなかった訳じゃない。やはり鬼は信用ならん、ここで仕留めるべきだと彼を攻撃するものが出始めた。だが、彼はかなりの苦痛が伴ったにも関わらず暴れることなく、なおいっそう真摯な姿を見せつけ、続けて彼は
信用していただけるまで、私はあなた方のために、なんでもやりましょう。だから、もし青鬼が帰ってきたときには、村総出で歓迎してほしいのです。
と何度も何度も頭を下げたのです。我々はその姿に友愛を見いだし、本当の意味で赤鬼を迎え入れました。だから安心なさい。皆、あなたと彼の味方です。我々は弱いからこそ愚行をおかします。こんな我々でもまだあなた方は我々を受け入れようとするでしょうか。
青鬼は
もちろん。それが私と彼の長年の夢なのだから。
と答え涙を流した。
そして、眠る赤鬼を見て
赤鬼よ、本当にお前は優しい、私のよき友だ。こんなにいい日はない。願わくば君と村人が僕との関係のようにならんことを…
青鬼は2つの星がいっそう輝く夜空を見上げながら、赤鬼のそばをずっと離れなかった。
拙い文章を最後まで読んでいただき、有難うございました。横文字を使わない、や口調を現代と少し変えるといった試行錯誤を私なりにしてみましたが、いかがだったでしょうか。赤鬼青鬼は、村と集落どちらも訪れながら、2人楽しく過ごしていくことだろうと思います。語りすぎると恥ずかしいのでこの辺で失礼。