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小さな拾い物

驚きのあまり、一瞬世界から音が消えた。

だって、え?

あの元気で黙っていられない、大半がけらけら笑っている犬のように無邪気な彼が、グルとビルに境遇が似ている?

それはつまり、彼が、



「捨てられていたって事か」



不意に後ろから声がして、慌てて振り返ると木に凭れた姿勢で顔を歪めるライラの姿があった。

叩き起こせと言われた通り、無理矢理起こされたのであろうその表情は死んだ魚に似ている。



「起きたか。

とりあえず食え。

やる事は変わらないが意識だけは持ってもらわないと困る」



アーデンはそう言うと虫籠から肉を取り出してライラに手渡した。

ライラは節々に痛みがある様子でずりずりと体を木に預けたまま座り込んでしまう。



「何があったんですか」

「森の近くで魔人の子供が二人住み着いて、男女一組と接触。

男は何処かへ逃がして女は一緒に住んでいるらしい」

「どういう事すかその面倒臭ぇの」



はぁ?、とでも言いたげに顔をしかめるライラにクリスの、やっぱり普通わかるよね、という呟きが聞こえてくる。

すみませんねぇ、普通じゃなくて。

拗ねるように体を小さくしながら、私はじろりとクリスを見た。



「いや、そんなの捨て子だからとかって言ってないで即集落に戻すべきじゃないですか。

ロッツィさんが許さないとか、関係なくないですか?」



意味がわからないと続けるライラに私は内心首を傾げた。

というのも、私自身がたかだか数日前に拾われたばかりの不審者だ。

魔人が危ないという認識を彼らが持っているのは理解したつもりだが、どうにも肉に頭ごと釣られるようなあのリザードマン達を無理矢理集落に戻すというのは可哀想に感じてしまう。

いや、見た目だけは本当に厳しいけれど。



「気持ちはわかるけどね、ライラ。

本当に無理なんだよ」

「何がですか?」

「単純な話だ。

今の戦力じゃロッツィを抑え込めん。

暴走でもされたら収集がつかないんだよ」



この数分で何回目かもわからないため息をついてアーデンは言う。

その言葉にライラは驚いた様子で声を上げ、クリスは諦めたように苦笑する。

その驚きに私はさっぱり着いていけず、ひたすらに戸惑い会話のなり行きを見守るしかできない。



「流石に三対一だぞ!?

それにアンタはロッツィさんの上官じゃねぇのかよ!」

「三対一なのが問題なんだよ。

俺の属性魔法は共闘には向かないしクリスじゃ真っ向勝負されればロッツィの圧勝だ。

そしてお前はそんなクリスに完敗している上にソイツは完全な戦力外。

ついでに言えば、ロッツィの上官だなんだと言うのであれば仮とは言え俺達はお前の上官だ。

上官の命令に従えとでも言えばお前は黙るのか?」



物凄く迷惑そうに捲し立てるアーデンはそこで言葉を切ると静かにライラを睨み付ける。

そして、相当に苛立っているのだろう、眉間に思い切り皺を寄せながら舌打ちをすると私へと視線を向けてきた。

何あの顔怖っ。



「とりあえずお前達には継続してレクリエーションをやってもらう。

だが魔人の子供を抱えているのを忘れるな。

万が一村人の影でも見付ければ即時報告をしろ。

火に囲まれて死にたくなければな」



わかったな、と言い含めるようい言うアーデンに私は一先ず頷く。

どうするつもりで続行をするのかは全くわからないがアーデンがそうすると決めたのならそうするしかないのだろう。

そう思っているとアーデンは一つの蔓の箱を私の目の前へ押し出すと私を見てニヤリと笑った。



「さぁ、お前はゲルプフロッシュと遊ぶ時間だ」



アーデンは言って蔓の箱を握り締める。

するとアーデンの握った辺りの蔓が赤く染まり、その内に煙が出始めアーデンは手を離した。



「食べ物を準備するって言っちゃったしね。

カエデ、頑張ってね」

「え?」



まさか今すぐおたまじゃくしと遊べと?

切り替えなんて出来ないままに、蔓は赤々と燃え始めている。

蔓の箱の中からは何やら苦悶に揉んどり打つような音と悲鳴が上がり、私はゾッとしてナイフを握り締めた。

と、



「ぶふっ!」



びだんっと、何かに頬を殴られて私は飛んだ。

次いでろくに受け身も取れず体を地面に強かに打ち付けて目を回しながら起き上がる。

そこには例のおたまじゃくしがいた。

既に四匹ほど斬り殺した経験のある存在。

だがそれらは無抵抗に殺せた存在なのだ。

何故急にあんな抵抗を見せたのか。

戸惑っておたまじゃくしを見れば理由は直ぐにわかった。


前足がある。

まだ変態途中の、中途半端な長さの前足ではあるが動く事は動けるらしい。

びったんびったんと不快げに尾を地面に打ち付けておたまじゃくしは周囲を確認するように首を回した後、おたまじゃくしにとって前方である私に向かって跳躍してくる。



「ひっ!?」



何でこっちに!?

泣きそうになりながら咄嗟に頭を腕で被って縮こまると背後でおたまじゃくしの着地音がして恐る恐る振り返った。

どうやらおたまじゃくしは逃走を謀っているらしく、びたんびたんと跳躍を繰り返して森へと入っていく。


ほっと息をついて正面を見ると、般若のような顔のアーデンと目があった。

怖っ。



「逃がすな、馬鹿」

「ひっ」



殴ってきたと思われるおたまじゃくしと般若のアーデン。

どちらが恐ろしいか悩むまでもなかった。

私は慌てて立ち上がるとナイフを握り締めて体を反転させ駆け始める。

駄目だ、逃がしたら私が死ぬ。

この森が私の墓になる。



「シュイーヴン」



せかせかと足を動かして前に進んで、進んで、すすん、で?



「あれ?」



全っ然進まない。

というか地面の感触がない。

そぅっと足元を確認すると、目眩がした。


浮いている。

ふよふよとまるで水の中にいるように足は空を切っている。

何これ何で浮いてるの?

怖すぎる。



「一人で行くな、大馬鹿」



背後からアーデンの呆れたような声がして私はやっと足を止めてその場で棒立ちになった。

いや、浮いているけど立っているで正解なのか?


そんな下らない疑問を持ちながら項垂れると背後からため息が聞こえてべちゃりと地面に落ちる。



「あぎゃっ」

「お前一人じゃ何もできんだろうが」

「すみません…」



落ちたときに打ち付けた足を擦って私はゆるゆると立ち上がった。



「カエデ、アーデンが厳しいだけだから気にしなくていいよ」



慰めるようなアーデンの声に私は落とした肩を少しだけ持ち上げてクリスを見て、私は固まった。

担いだ大剣の先端に、おたまじゃくしが刺さっている。

ぴくぴくと手足は痙攣しまだ生きていることが伺えるその様を見ると、少し慣れてきたとは言えどうにも気持ちが悪い。



「変なところでも打ったのかい?

顔色が悪いけど…」



違います、その大剣の先が気持ち悪いんです。

言ってしまえば良さそうな事だけれど私は曖昧に笑って受け流す。



「お、追いかけたんですか?」

「いや、剣ぶん投げて刺してた」



私の問いに答えてくれたライラはひきつった顔でクリスを見ている。

さっきまでクリスと戦っていたらしいライラにとってはかなり心に堪えたようで、ひきつった顔はどことなく青白い。

少なくともライラが私とあまり変わらない感性を持っていることに安心していると、何となく焦げ臭い臭いが鼻を刺激する。



「おい、次だ次。

クリスは馬鹿が仕損じたゲルプフロッシュだけ相手にしろ。

新人は捌け」



見ればアーデンが次の蔓の箱を握り締めて、どうやっているのか蔓の箱を燃やしている。

え、まだ遊ぶの?


勘弁してくださいとはどうにも言えず、私は泣く泣くナイフを日本刀に変えて握り締める。

やるしかない。

やらなければ私がやられる。

…アーデンに。


そうやってどうにかこうにか自分を騙しながら刀を振るう事たかだか四回。

運良く箱から出てきたおたまじゃくしに前足はなく一方的に斬り付ける事が出来ていたのだが、握力に限界がやって来た。



「いっ!?」



振り下ろした瞬間に痛みが走り、手から刀がすっぽ抜けた。

すると振り回した遠心力によって真っ直ぐと刀はすっ飛んでいきがきんっと木に突き刺さって止まる。



「…こ、殺す気か…」



おたまじゃくしの腸を取り出しながら、ライラは青い顔で此方を睨んでくる。



「ご、ごめんなさい…」



幸か不幸か、ライラの頭の上五十センチ程の所に突き刺さる刀はそこそこ深く突き刺さっているようでそのまま落ちるような様子はない。

ライラは頭上を気にしながらそろそろと刀の下から退避してから柄を手に取った。



「ぅわ!?」



引っこ抜いてくれるのかと思いきや、ライラは刀を握った瞬間に手離し、後退る。

何がどうしたんだろうか。

不思議に思っているとライラは驚いたような顔で私を振り返った。



「な、何なんだこの剣!

魔力吸われたぞ!?」

「あ、うん。

マジックノイドって言って、ずっと魔力吸ってくれるみたいだから」



そう言えば言ってなかったななんてぼんやり思いながら私は刀に手をかけて引っこ抜きにかかる。

まぁ私には魔力の抜ける感覚なんてさっぱりわからないんだけど。



「ナイフ」



呪を唱えて刀をナイフに変えてさっくり引き抜くとライラは奇妙なものを見る目で私を見てくる。



「そんなもの持っててお前は平気なのか?」



魔力が減りすぎると死ぬらしいこの世界では異常なんだろうなぁ、と思いながら私はナイフをしげしげと眺めてただ一言だけ口にした。



「都会ではそうみたい」



そんなわけ無いだろうに、私がクリスに倣って適当な事を言うとライラは微妙な顔をしながらも一応納得した様子で唸った。

どんな田舎から来たんだろうこの子。

苦笑しながら痺れた手を振ってみたが、限界はやっぱり来ていたようで小さく震えている。



「うーん、限界みたいだね。

少し休憩するといいよ。

まだ食べてなかったよね?」



はい、とクリスが少し冷めたおたまじゃくしの肉をいい笑顔で差し出してくれる。

マジか。

何気に逃げ続けていたのに。


私は苦い感情を押し殺してクリスからおたまじゃくしを受け取った。

食べたくない。

生前の奴らを今の今まで真っ二つにしていた事を思うと食べたくない。


そうは思ってもこれ以外にパンらしいパンが出てこない事はわかりきっている。

食べねば。

食べねばお腹が空く。

というより既に空いている。

私は深呼吸を一つすると、どうにでもなれという勢いでおたまじゃくしに噛り付いた。


じわり、と冷えた肉汁が僅かに溢れ、口の中一杯におたまじゃくしが広がる。

味は、かなり淡白だった。

燻しただけの肉だから煙臭くはあるものの、昨夜の臭い汁に比べれば素晴らしく美味しい。


おたまじゃくしの内は筋肉も発達していないからか肉は柔らかく口の中でほろほろとほどけていく。

時折軟骨のようなぐにゃりとした物もあるが問題はない。


意外と食べれるなぁ、とおたまじゃくしを捌くライラを見ないように気を付けながらもくもくと食べているとじわじわお腹から熱が上がってくる。

別に熱い物を食べているわけでもないのに人体とは不思議なものだ。


なんて思いながらもう一口と噛っているとその熱は段々と温度を上げていく。

温かいなぁ、から熱いへ変化するのにはそんなに時間はかからかった。

だけれどそれも一瞬で、熱はまるで体に染み渡るようにじんわりと全身へ巡ると一気に左手、もといマジックノイドのナイフへと吸い込まれていく。



「相変わらずの垂れ流しだな」



ぼんやりとアーデンは私を見ながら呟いて、肉を一つ取り出して噛り付く。

垂れ流しというと?



「魔力、ですか?」

「ああ。

魔物の肉は魔力を大量に含んでいるからな。

食えば食うほど魔力が蓄積される」

「蓄積?」

「そう、だから僕みたいに魔力が少なめの人にはお薦め出来ないね。

たまにだけど、自分の魔力量を勘違いした組合員なんかが魔物の肉の多量摂取による魔力中毒で死亡したなんて報告も上がってくるしね」



言いながらクリスは乾いた笑いを漏らしておたまじゃくしを手で引き千切っている。

あ、おたまじゃくし見ちゃった。

少々ブルーになりながらも試しにもう一口噛ってみると、確かに胃に落ちた後じんわりと体は熱を持ちゆっくりとマジックノイドへと流れていく。



「クリスさんて魔力量少ないんすか?」



ライラの問い掛けにクリスは苦笑して、おたまじゃくしから皮を引き千切る。

あ、目合っちゃった。



「少ないよ。

魔導師部隊じゃ一番だろうね」

「え?

それなら魔物の肉なんてあんまり食べれませんよね?

何か食事を携帯してるんですか?」



普通の食事を持っているのではないかと少し期待して聞いてみる。

だがその期待はクリスの軽い一言であっさりと打ち砕かれた。



「遠征中そんな荷物にしかならない物、持ち歩かないよ。

現地調達できるし自分の魔力量の管理は魔導師の基本だからね。

無駄に魔力を使うようにしてるだけだよ」



こんな風にね、とクリスは言うと足元の石を拾い上げて親指と人差し指でつまみ、ぴしりと砕いた。

ゆ、指で石が、砕けた?

ぎょっとしながらぱらぱらと地面に落ちる石の破片と穏やかに笑うクリスを見比べる。



「魔法の一種でね、簡単だよ?」



くすくす笑って、クリスは今度教えてあげるねとおたまじゃくしの腸を蔓の籠に放り込んだ。

あ、内臓見ちゃった。



「その前にお前は剣の扱いを覚えた方が良さそうだがな」

「…はい…」



そうまでして、私は何と戦わなくてはいけないのか。

また私は肩を落として、おたまじゃくしに噛り付く。

そうしていると、どうやらロッツィが返って来たらしい。

楽しそうに話すロッツィの声が段々と近付いて来た。



「やぁーっと着いたっすよ!

ビーちゃん、足痛くないっすか?」



ロッツィが斜め後ろを振り返りながら言う。

そこにはビルとグルの間に挟まれて、二人と手を繋ぐ十六歳位の女の子が歩いていた。

大きさに行動が伴っていない彼女は俯いて、少し泥に汚れた金髪で顔を隠しているようだ。



「っひ」



突然、女の子は小さく悲鳴を上げると足を止めてしゃがみ込んでしまう。



「あやや、だーいじょーぶっすよー。

この人達は僕のお友達で怖い事は絶対しないっす!」

「どうしたんだい?」



女の子の異変に、クリスは立ち上がって女の子へと歩み寄るが女の子はまた小さく悲鳴を上げて後退ってしまう。



「ビー、大丈夫だよ!

この人間達はあの雄とは違うよ!」

「嫌ならいいぞ?

ビー?」



小刻みに震える女の子に二匹は心配そうに顔を覗き込む。

いや、それはそれで怖いのでは。

少なくとも私なら卒倒する。

クリスも女の子が落ち着くのを待つ事にしたようでそれ以上は近付かずに様子を伺っていた。


どうするんだろう。

他人事のようにそう考えていると金髪の隙間から覗く青色の瞳が、私を捕らえた。



「ん?」



どうしたんだろう。

そう思っているとぱっと女の子はグルとビルの手を離して私へタックルをかましてきた。



「うっ!」



女の子の頭がお腹に刺さり、僅かにおたまじゃくしがせり上がってくる。

あ、おたまじゃくしって認識しちゃった。

慌ててそれを飲み下して女の子にナイフが刺さらないように持ち上げると、女の子は私に抱きついたままじわじわと背中に隠れてしまう。


え?

え?

何これどういう事?


戸惑ってロッツィを見るとロッツィも予想外だったようでぽかんと此方を見ている。

グルとビルは、いや、顔を見ても表情が読めん。

早々に諦めてクリスを見るが、クリスも戸惑っているようだった。



「…おい、確かコイツを襲ったのは人間の雄だって言ってたな」

「え?

あ、ああ、そうだ」

「なんかね、雄がビーの上に居てね、ビーが叫んでてね、」

「あー、いい。

わかったからそれ以上言うな」



カタカタと震える女の子に、アーデンは本当に面倒臭そうに頭をかいた。



「おい、お前」



怖っ。

アーデンは私を睨んでそう言うと森を指差した。



「新人と手錠繋いだらその餓鬼連れて木の影に行け。

万が一異変が起きたら鎖でも引っ張って知らせろ。

新人は俺達と待機だ」



さっさと動けとアーデンに無理矢理急かされてロッツィから手錠を受け取ってライラと繋がると未だ抱き付いて離れない女の子と連れ立って木の影へと移動した。

ライラ達のいる場所からは三メートル程の距離はあるけれど、魔物が襲ってきても彼らが駆け付けて来てくれる、と思う。

私は手に持っていたおたまじゃくしの最後の一欠片を口に入れて飲み込むとナイフを握り締めた。



「えぇ、と?

どうしようかな、まずは自己紹介か。

私はカエデ・トードー。

貴女は、ビーちゃん、でいいのかな?」



そぅっとそう訪ねると女の子は髪の隙間からまた私を見てふるふると、顔を横に振った。

え?

ビーじゃないの?

最初の会話から否定されて戸惑うと、女の子は小さく口を開いた。



「…リーベ…」



喋った!?



「リーベ?

貴女の名前?」



そう尋ねると、女の子はこくこくと頷いて私に抱き付いたまま見上げてくる。

あれ?

この顔、どこかで…。



「貴女、酒場でウエイトレスしてた女の子…?」



そうだ、似てる。

というか瓜二つだ。

昨日の臭い汁を出す酒場で注文を聞いていた女の子に。

ただ違うのは、昨日の女の子は快活そうな表情だったのに対してこの子は何て言うか、こう、幸薄そうな薄暗い表情をしている。



「酒場で働いてるのは、お姉ちゃん…。

私、宿屋…」



あー、この子は宿屋なんだー。

というか、こっちに来てからちゃんと喋るな、この子。



「そうなんだね。

何でビーって呼ばれてたの?」

「あの子達が、勝手に呼んでるだけ…」



ふむ、この様子だと多分あの二匹の前でもろくに喋らず、ビルが勝手にビーと呼び始めたって感じか。



「怖くないの?」



そう問いかけるとリーベはふるふると首を横に振る。

うーん、どう考えても見た目年齢に行動が伴わない…。



「リーベちゃんはいくつなの?」

「…十二歳…」

「へぇ!?」



マジでか!

言っては何だが、発育の良いことで!

身長は確かに私の肩位までしか無いが、出るところは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいるその体型と薄汚れてはいるものの可愛らしくて大人っぽく見える。

それは慣れ親しんだ童顔の日本人と欧米っぽい顔立ちの彼らとの差なのか、はたまた幸薄そうなこの表情がどことなく色っぽいからか。

何だか自分がおっさんのような思考をしている事に嫌気が差して頭を抱えると、ふとアーデンが私達を遠くにやった理由がわかった気がした。



「リーベちゃん、男の人は怖い?」



出来るだけ柔らかくそう問いかけると、リーベはぎゅうっと私に抱き付く力を強めた。

その体はまだ震えていて、私はナイフを握っていない手でリーベの頭を撫でる。



「…わかんない…。

けど、お姉さんも、あの子達も、あの人達よりもずっと怖くない…」



…これは当たりかなぁ。

どうしたものかとため息をついて私はぽんぽんとリーベの頭を撫で続ける。

私も情緒不安定なんだけどなぁ…。

けど、ここで位頑張らないと、有用性を分かりやすい形で示さないと。

ぞわりと何かが背中を撫でて、私は身震いする。



「お姉さん…?」

「ん?

ああ、大丈夫大丈夫」



へらりと笑って私はリーベを見る。

こういう時、どうすればいいんだろう。

人を慰めるなんて、仕事以外でした覚えがあまりない。

しかもこの子が抱えた問題は恐らく仕事でミスってお客さんにボロクソ言われましたとか、そういう話でもないしなぁ…。

ってなると、家族の話か。



「お姉ちゃんとは仲良いの?」

「うん、仲良し。

私達、パパもママも死んじゃったから、お姉ちゃんだけなの…」



わぁお、吃驚するぐらいガチガチの地雷踏み抜いた。

声が上ずらないように注意しながら相槌を打つ。



「でも、私、お姉ちゃんみたいに何でもできないから…。

いっつもお姉ちゃんの足引っ張るの…。

私、お姉ちゃんの側、いない方が良いの…。

それに、もう、帰れないし…」



ぐすぐすと泣いて、リーベは私の胸に顔を埋める。

あー、完全にやらかした。

まさか泣かせてしまうとは。

どうしよう。


困り果てながら私はリーベを抱き締めてみるが、いや待てよ?

リーベと酒場の女の子は姉妹で?

リーベには酒場の女の子しか家族が居ないという事は酒場の女の子もリーベしか家族がいなくて?

では何故姉妹共々あの酒場兼宿屋で働いているんだ?


それだけあの村では仕事がないのか?

あり得そうだけど、ああいう村なら農業の手伝いだって出来そうだ。

そもそも両親不在の子供が、生活を滞りなく営めるとも思えない。

この世界では子供のレベルもよくわからないのか?

いやいや、リーベを見る限りだけれど日本人と大して変わらない気がする。



「帰るって、あの酒場に?」



試しに聞いてみるとリーベは素直に頷いた。



「私達、あ、あの人のお店、手伝う代わりに住ませてもらってるの。

あ、あの人、パパとママに、わ、私達の事、た、頼まれたからって…。

でも、こ、この前、こ、ここに連れて来られた時、あ、あの人の事、あの子達が追い払ったから、か、帰ったら、ま、また、ぶたれる…!

ぶたれるの、やだ!

この前のも、き、気持ち悪くて、私、私…!」



その後、リーベは大声で泣いていた。

たかだか十二歳の子供に、なんて事をしていやがる。

私はぎゅっとリーベを抱き締める右手に力を込めて下唇を噛み締めた。

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