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厄介事の来訪

了解っすー、と跳ねるようにロッツィは真っ直ぐ走り去りあっという間に姿を消す。

すると残るのは勿論私に不信感を投げ付けてくるアーデンと私な訳で、私はどうしたものかとため息をついた。


いやまぁ、気持ちは分かるのだ。

寧ろ私がアーデンの立場…、いや細かい立場は不明ではあるけれど、兎に角素性の知れない不審者が常に自分のフィールドに居座り続けていればどんな相手かと疑い続けるのは当然の判断に思う。

此方としては何も考えていなさそうなロッツィや、何も知らないライラ、それに、何を考えているかは不明でも私の事を保護してくれているクリスは本当に有難いが、当然の反応だとは思えない。


だからこそ私はアーデンの判断を今生きる上で信用しているし、それに甘えている。

だがこうも、不信感を漂わせ会話が無くなれば口を開こうとしない重い沈黙を目の前に差し出されると、どうしたものかと考えてしまう。

魔法についてもっと聞きたいこともあるが、アーデンは必要な時に必要な情報を必要な量だけ渡してくれている気がする。

多分これ以上聞いたところで忘れてしまう未来が見えてしまっているのなら聞かない方が利口だろう。

私は再度ため息をついてからアーデンの斜め前で腰を下ろしてナイフをそっと膝の上へ乗せる。



「ゲルプフロッシュって美味しいんですか?」



とりあえず、私は沈黙に耐えかねて頭上に浮かぶ虫籠を眺める。

虫籠の中は相変わらずぶつ切りの肉塊と煙が漂い、肉塊から絞り出たのであろう水分が雫になってぶつかり合っていた。

とても美味しそうに思えない食事だが、味は臭い汁以上であることを祈るしかない。



「…まぁ、不味くは無いな。

美味くもないが」

「…食べたこと、あるはあるんですね…」

「魔物の肉は毒さえなければ良い食材になる。

ゲルプフロッシュは多産だから食い過ぎて問題になることも無いからな」



実に丁度良い食材だとぼやくアーデンに私は引き吊った笑みを浮かべるしかない。

いや、薄々気付いてはいたのだが、出来れば否定してほしい。

というより、信じたくない。



「まさかとは思いますけど、そこに積み上がってる蔓の箱の中身って…」

「ゲルプフロッシュだ」

「…全部ですか?」

「ああ、全部だな。

範囲魔法内にいるゲルプフロッシュはほとんど狩り尽くしてあるからレクリエーションに励め」



食事の心配もないぞ、と軽く言うアーデンに私はがっくりと肩を落とした。

これは、暫くおたまじゃくしと遊ぶ事になりそうだ。

嫌過ぎる。

だからと言ってレクリエーションという名のリアルサバイバルゲームをやりたいかと言われれば喜んでおたまじゃくしを捌くけれど。


そう考えているとべちゃべちゃと泥を踏みしめる音がして振り返る。

クリス達が帰ってきたのであろう。

そして私は、固まった。


そこには小さな蜥蜴が二匹いた。

いや、蜥蜴というには少し語弊がある。

つぶらな黒目、鱗状の肌、細長い体躯。

それらは正に蜥蜴と言って相違無いのだが、彼らの後ろ足にあたる部位が私の知る蜥蜴よりも遥かに長く発達し、それに合わせるようにしっかりと上体を起こしているのだ。

端的に表現するのであれば、立っている。


しかもその体は襤褸を纏い、おまけに手には過去教科書や漫画で見た石器の槍を握りしめていた。

一匹はその槍を此方に向けて警戒するような体制を取り、もう一匹はその後ろで立っている。



『ドラッヘ大森林の中でも一番安全で、一番魔物が多い』

『アーデンさんは魔法展開中で魔物の群れに襲われると範囲魔法切れちゃうかもしれないんで一応護衛みたいな感じっすね』



呆けた頭の中にアーデンとロッツィの言葉が再度流れる。



「いやぁああああああああ!!」

「五月蝿い」

「だ、だだだだだだって、アーデンさん!

ま、ままま、まも、」



がくがくと震える体をアーデンのいる方へ何とか後退させて私は二匹の蜥蜴を指差す。



「お前ら何者だ!

こ、ここは神聖な森だぞ!

即刻立ち去れ!」



しゃ、喋った!!?


槍を持った蜥蜴がそう吠えて、私は更にアーデンへと体を後退させる。

表情はさっぱりわからないが言っている内容はどう考えても穏やかではない。

どうしたら良いのかとアーデンを振り返ると別の方向からもべちゃべちゃと足音が近付いて来た。



「おや、リザードマンとは珍しいね」

「まだ子供じゃないっすか!

何でこんなところにいるんすか?」

「クリスさん、ロッツィさん!」



一瞬蜥蜴が増えたかと思ったが、足音の正体は見知った面々で私は安堵する。

アーデンは全く動く気が無さそうだが、この二人なら何とかしてくれるだろう。

…二人?



「ふ、増えやがった!」



ライラは何処かと問う前に警戒したような蜥蜴の声がする。

蜥蜴は私かクリス達かに迷うように槍を動かして、最終的に私へと槍を向けて固定する。



「兄ちゃん…」

「だ、大丈夫だ!」



槍を持った蜥蜴は後ろに立つ蜥蜴を守るように立ち、槍を構え続けている。



「君達、兄弟なんすね!

どうしてこんな森の浅いところにいるんすか?」

「五月蝿い!

ここは、神聖な森なんだ!

お前ら出ていけ!!」



ロッツィがにこにこと問い掛けるが手前の蜥蜴は全く聞く耳を持っていないらしく、どこを見ているかわからないその目で私達を見ている、と思われる。



「まぁまぁそんな怒らないで。

僕ら悪い人間じゃないっすよ?」

「誰が信じるか!

早く出ていけ!!」



取り付く島もないその様子に、ロッツィは少し困ったように笑った後、閃いたと言わんばかりに手を叩いた。



「そうだ!

お腹空いてないっすか?

僕らゲルプフロッシュの燻製作ったんで一緒に食べないっすか?」



蜥蜴のすげない態度を全く気にしていない様子のロッツィは焚き火に近付いて浮かんでいる虫籠を手繰り寄せるとサバイバルナイフを取り出して虫籠を切って中の肉塊を突き刺した。

それから適当な葉を木から数枚引き千切るとそれで肉を掴んで蜥蜴達に近寄って行く。

近付くな、と吠えるかと思いきや、蜥蜴達は涎を垂らしながらやや前のめりになって肉を凝視していた。



「い、いらねぇ!」



強気な口調で槍を持った蜥蜴がまた吠えるも、ついっと肉を動かすロッツィの腕に吊られて二匹の首が動く。

完全に注意がロッツィへ向いているのに安心して、私は膝の上のナイフを握るとそっと立ち上がりクリスの元へ急いだ。

二匹は完全に肉にお熱のようで私には気付いている様子は無い。



「クリスさん、あの、蜥蜴達は?」

「ん?

ああ、リザードマンって言ってね。

クリーヒ・ティーアの森とケルプ・ティーアの森の間にある湖付近に住んでいる魔人だよ」

「魔人、ですか…」



なんか新しい単語が出てきた…。

ケルプ・ティーアの森に関してはこのドラッヘ大森林の別のエリアの事だろうが、魔人とは如何に。

ゲーム脳からしてみれば意味は勿論分かってはいるがこの世界における魔人がどういう存在かがさっぱりわからない上にそもそも他にどんな大分類の生き物がいるかが知りたい。

そんな私の思いが通じたのか、クリスは少し唸った後、また口を開いてくれる。



「魔人っていうのはね、人間と魔物の中間と言われている存在だよ。

とはいえ人間よりも魔物に近しい存在だから迂闊に近づくのは危険だけど彼らは子供だし、ちょっと気になるところがあるからね」



気になるところ?

疑問に重ながら未だに肉に夢中になっている二匹を眺める。

見た目は完全に生理的に無理だがその様子はどこか可愛らしい。

遂に我慢の限界を迎えたようで奥の蜥蜴がまるでねだるように小さく手前の蜥蜴の襤褸を引っ張った。



「兄ちゃん…」

「うぅ、だ、だけどな、ビル…」

「残念っすねー、そこそこイケるんすけど…」



ロッツィはそう言うと肉をあっさりと肉に囓り付いてみせる。

うまっと見せ付けるように食べる様は蜥蜴を人間の子供に変換してみれば可愛くて仕方なかった。

ロッツィがにやにや笑って肉をもう二つ取り出して差し出すと、完全に胃袋と嗅覚を捕まれた二匹は慌ててそれをひっ掴んで頬張った。



「おいしー!

おいしーね、兄ちゃん!」

「んぐっ、ああ!」



はぐはぐとがっつきながら二匹は肉を食べきると手に着いた汁をも勿体無いと言わんばかりに舐め始める。



「美味しいっすか?」

「うん!

お兄さん達いい人だね!」



こてん、と首を傾げて槍を持っていない方のリザードマンが言う。

全く警戒心の無さそうな声に苦笑するが、槍を持っているリザードマンも肉を貰っている手前何も言えないらしく、無言で槍を握り締めて小さくなっていた。



「君達のお名前は何て言うんすか?」

「僕はビル!」

「…グル」



槍を持っていない方のビルと持っている方のグル。

彼らは正反対の感情を孕んだような声で自分の名前を言うと二匹はじっと虫籠へと首を固定する。



「もう一個食べたいっすか?」

「いいの!?」

「僕の質問に答えてくれたらいいっすよー」



ニヤニヤ笑いながら虫籠からロッツィはまた肉を取り出すと見せびらかすようにひらひらと振ってみせる。

気持ちいいほどに肉に釣られる二匹は半開きの口からだらだらと涎を垂らしていた。



「な、何が聞きたいんだよ!」



早く聞けと言わんばかりのグルの様子にロッツィは苦笑すると肉を差し出しながら問い掛けた。



「どうしてこんな所にいるんすか?

リザードマンの集落はもっと奥っすよね?

子供二人で何してるんすか?」



ほれほれと肉を差し出してロッツィが問い掛けるとべっちゃんべっちゃんと泥がはぜる音がする。

何かと思えばグルが尻尾を地面に打ち付けていた。

グルは槍を抱き抱えて腕を組んでいる様子を見るに悩んでいるのだろうけれど、顔だけは変わらずにロッツィの手元の肉に固定されている。



「僕ら、ここに住んでるんだ」

「ビル…」



我慢していたのにと言いたそうにグルの尻尾が力無く垂れる。

あ、尻尾すごく分かりやすい。

それに味をしめてそうっとビルの尻尾を覗き込もうとじわじわ二匹の後ろに回り込む。

だけれどビルの尻尾はどうやら襤褸にすっぽり隠れているようで、動いている気配すら見ることはできなかった。



「住んでるんすか?

でも狩り場も遠いっすよね?」



ぴろぴろと肉を振ってロッツィは更に答えを促す。

するとグルは諦めたように少し肩を落とした。



「狩り場は遠いけど、何とか生きていける。

それに俺は…、森番だから」

「森番?」

「そう!

兄ちゃんは凄いんだ!

集落で新しく出来た仕事に選ばれたんだよ!

それで、将来僕も森番になるからって一緒に連れてきてくれたんだ!」



そこまで聞くとロッツィは成る程っすねー、と頷いてから肉をグルとビルに手渡した。

それをあぐあぐと二匹は慌てて口の中に放り込む。

その様子からはグルの言う、何とか生きていける様からは程遠いように感じるが、どうなのだろうか。



「森番の仕事ってどんな事をするんだい?」



言いながらクリスは虫籠の中から肉を一つ取り出して口に含んだ。

先程気になるところがあると言っていたけれど、それはここで何をしているのかという事なのか。

魔人が居ることの弊害がわからない以上、何故ロッツィやクリスが興味を持っているのかはまったくわからないし、アーデンが我関せずと言わんばかりに黙々とおたまじゃくしを食べ続けているかもわからない。

いつからずっと食べているのかという疑問はこの際置いておくことにする。



「森番の仕事はね、この辺りで自分で生活することだよ!

後ね、悪い人間が入って来ないように見張るんだ!」

「悪い人間?」

「そう!

雄の悪い奴がビーを虐めてたんだ!

そいつをやっつけてビーと仲良くなったんだよ!」



そう言えばビー来ないねぇ、とビルは呟いてまた虫籠へと首を固定する。



「ビーって?」



今度はクリスが肉を掴んで二匹の鼻先にぶら下げるとまた二匹は肉に向けて首を固定して目離せない様子だ。

チョロい。



「ビーは人間の雌だ」

「一緒に暮らしてるんだよ!」



その一言にぴしりとクリスが固まった。

そしてゆっくりとアーデンを振り返るとアーデンは面倒だと言わんばかりに顔をしかめている。

その手には変わらず、肉が握られていた。



「おい、まさかとは思うがその雄ってのは人間か?」

「そう!

お兄さん達とは全然違う格好だったよ!」



その声にアーデンは完全に頭を抱えてため息をついた。

どうやら相当に厄介な事が発生したらしい。



「そのビーは何処にいる」

「お家だよ?

直ぐそこにあるんだ」

「連れて来い…」

「え?

何でだ?」



グルの尻尾に少し警戒したように力が込められ、クリスは柔らかく微笑みながら虫籠を指差した。



「折角沢山食料があるからね。

もう一人君らみたいにお腹を空かせている子がいるなら食べさせてあげようと思ってね」

「いいの!?」



クリスの問い掛けにビルは跳ねるように飛び付き、お尻を左右に振る。

不思議と見えはしないがあの薄い襤褸の中で尻尾を振っている様子が想像できて微笑ましくなった。

だが、恐らくアーデン達がそのビーを呼び出したい理由は別にあるのだろう。

さっきのゆっくりと振り返ったクリスの仕草からもそれは明らかだった。



「勿論。

僕達は食事の準備をするからビルとグルはロッツィと一緒にビーを呼んで来てくれるかい?」

「いいっすね!

さー、行くっすよ!」



ロッツィはそう言うとビルとグルの手を繋いで引き摺るように歩き出し、戸惑うようなビルの声と怒ったようなグルの声は少しずつ遠ざかって行く。

そして残ったクリスとアーデンは揃ってため息をつくとがっくりと肩を落とした。



「これは面倒だよ、アーデン…」

「退治したって雄は村の人間だと思うか?」



多分、そう言ってまたため息をつく二人に私は首を傾げて素直に疑問を口にした。



「何か厄介事、ですよね?」



そう聞くとクリスとアーデンは疲れたように私を見て、そしてまたため息をつく。



「お前は本当に、どんな教育を受けてここにいるんだ…」

「今はカエデが羨ましいよ…」



何だか、凄く失礼な事を言われている気がする。

いやそれよりもちゃんと説明がほしい。

何か面倒事があるならば共有してもらわないと困る。

私は少しむっとしながらもう一度教えてくれと頼むと、アーデンが肩を落としながら口を開いた。



「生物はいくつかの種類があってだなぁ、あー、今回は人間と魔人の話だ。

あ、クリス、新人叩き起こせ。

いつ厄介事が本格化するかわからん」

「ああ、分かったよ」



クリスはそう頷くと直ぐ近くの木の根元へと移動した。

そこには完全に意識を失っているらしいライラが、完全に燃え尽きた様子で打ち捨てられていた。

姿を見ないと思っていれば、どうやら相当スパルタコースでしごかれていたらしい。

驚いてクリスに問おうとするが、それよりも速くアーデンが口を開いて私は押し黙った。



「魔人が何かはわかるか?」

「え!?

えぇ、と、人間と魔物の中間と言われている存在、ですよね?」

「そうだ。

もっと正しく言えば魔物の特性を持ち、人と同じ言語を操ってコミュニケーションを計り、文明的な生活を送る存在を魔人と呼んでいる。

あのリザードマンも魔人の一種で、魔人は人間の国家には属していない。

何故かわかるか?」



疲れているからか、とんとんと話を進めるアーデンの言葉に慌てて頭を働かせる。

えぇ、と?

魔人が人間の国家に属さない理由?


頭の中にリザードマンがグレンツェの街を歩く様子を想像してみる。

いや、わからん。

RPGとかでは普通にリザードマンや獣人が人間と共存している物もあれば、完全に雑魚敵として台詞もなく無限に湧き出てくる物もある。

この国でその魔人とやらがどういう位置付けか不明な上、魔物にも現時点で襲われていない以上その理由はさっぱりわからなかった。



「えぇと、せ、生活環境が違うから、とかですかね?」



乾いた笑いを漏らしながらそう言うと、アーデンは本当に呆れ返った様子で頭を抱えてしまう。



「それもそうだが…、あのなぁ、さっきも言ったが人間の大半は魔法がろくに使えん。

その上人間は非力でまともにやり合えう事なんか出来ないんだよ。

森という最も資材が豊富な環境に住み入る事が出来ないのも、俺達人間が生存競争の中で最下層だからだっていうのは流石にわかるよな?」



半ば苛立った様子のアーデンに、私は戸惑うしかできなかった。

確かに魔物や魔人とやらが存在すると聞いた時は驚いたし怖かった。

けれど、それでも私の中で生存競争の最上位とも思える人間が一気に最下層まで下がるというのは、常識として信じられる話ではない。


と、思ってはいるが言える筈もなく。

私は真剣な顔を作って曖昧に返事をした。

それをアーデンは訝しそうに見てきた後、深々とため息を吐き出してまた説明を続けてくれる。



「だったら、お前の肉親がもし、魔人に拐われたらどうする?

お前の父親は?

母親はどうする?」



そう問われて、私は息を飲んだ。

アーデンが言いたい事を理解してではない。

考えたくもない事を思い出してしまったからだ。



「ぁ、えっと…、そうですね、警察に連絡しますかね」

「ケーサツ?」



ああしまった。

この国警察いないのか。


浅慮な物言いに後悔して、私は止まってしまった頭を動かす事を意識する。

アーデンが望む答えを探して有耶無耶にしなければ。

細かく突っ込まれても、一通り聞いてくれるクリスに話すなら兎も角、私を訝しげに睨むアーデンに一から説明するのはかなり骨が折れるのだ。

出来ればもう少し頭が働く状態にしておきたい。


私はアーデンの言葉を思い返しながら、私の子供が拐われたとして考える。

しかも多分、目の前でだ。


…………あー、どうしようちょっと想像付かない。

衝動的に動くか警察に連絡するか。

多分後者だが、後者をどう説明するかが問題だ。

前者だとしても、どうするかわからない。

相手を探し出して殺す?

いやいや、そんな度胸私にあるだろうか。


そもそもそんな大切な人ができるイメージがわかない。

これをプレゼンテーションの資料にすればイケるかとも思ったが、如何せん文明社会の日本ではコピーしてファックスするよう携帯で連絡すれば五分で終わる内容である。

そんの物騒な話にはならないし、業種がら競合他者に資料を盗まれたとしてもノウハウが一部流れてしまうだけで商品情報などは完全に一緒の物を販売しているのだから、盗まれて困る資料などは個人情報を除いて殆ど無い。


そうしてああでもないこうでもないと、うんうん唸っているとその内アーデンは見かねた様子で再度ため息をつく。



「この辺みたいな村でな、近くの森で魔人の子供を見たって言えば囲って火を放って殺すんだよ。

大人になれば食われるかもしれないってな」

「え!?」



つまり、グルとビルを捕まえて森に火を放つという事だろうか。

少し可愛いと思い始めていた分、衝撃が走る。

いや、見た目はやっぱり厳しいけれど。



「せめてその退治したって人が森で行方不明であればまだ良いんだけど、村へ帰っていたり組合員だったりするとね…。

グルとビルの安全は保証できないんだよ…」

「く、組合員、ですか?」



また新単語である。

私の中の能天気な部分がそろそろ単語帳がいると悲鳴を上げるが私はそれを無視して発言したクリスを見た。



「ニホンは組合員もいないのかい?」



本気で驚いた様子で、気を失ったライラから私へと視線を動かすクリスに、私は曖昧に返事をする。

いや、居ますよ、組合員。

けど何の組合かによるじゃないですか。

労働者組合とか、商業組合とか、農業協同組合とか、もう様々ですよね。


と言ってしまいたい。

頼むから私にこの世界の常識をください。

一々聞き直されたくないです。

そんな願いを本気で心の中で唱えてみるが勿論叶う事はない。

私はどうせ訝しそうな顔をしているであろうアーデンの方は見ないようにしながら話の続きを促した。



「組合員っていうのはね、国を自由に行き来できる公設傭兵団体だよ。

組合員は依頼を受けて魔物討伐や森での採集を生業にしていてね、場合によって魔人討伐をする事もあるんだけど、これだけ人里近くに魔人のグルとビルが住んでいるとなるとかなり危険だね。

しかも人と交戦してしまっているし…」



そこで唸るクリスに私は疑問に思う。



「グルとビルに集落に戻ってもらえば良いんじゃないですか?」



ここに居るのが危険なのであればそもそも居なければいい。

それにリザードマンはもっと森の奥で集落を作って住んでいるというではないか。

ここに留まる必要がわからない。

そう思って口にすると、クリスは困ったように頭を抱えてしまう。



「多分それは無理だろうね」

「どうしてですか?」

「ロッツィが許さない」

「ロッツィさんですか?」



急に出てきた名前に戸惑う。

確かにロッツィは二匹の相手を進んでやっていた様子だったけれど、集落に戻すことを反対するのはよく分からない。

ここにいるのは危険だと言うのは、アーデン達がわかっている以上ロッツィもわかっている筈だ。

…多分。



「そもそも、リザードマンがこんな場所に新しい仕事を作ったって言っていたが、それはリザードマンの特性上考え難い。

ここは川は有るが幅が広いわけでもないし、主食は集落よりも森の奥のケルプ・ティーアの森の方が豊富だ。

簡単に言えば、生活するのに全く向いていないのに、あんな子供二人を集落の外に放り出している訳だ。

そこから考えられるのは何など思う?」



そう言うアーデンに向き直って考えてみる。

えぇ、と、つまり、アメリカのハイウェイに子供二人を放り出したとしよう。

あ、無理だこれ。

詰んだ。



「…捨て子ですか?」

「だろうな」



ふむ、だから心優しいロッツィはその捨て子を見捨てられないと、そういうわけか。

私は唸る。

心優しい故に厄介事を抱え込むのは、何とも生き苦しいものである。

いっそ捨て置ければいいのに、それが出来ないのであろう。

厄介なものだ。


あっけらかんと、そう考えてみたがアーデンのついたため息が、そんな私の馬鹿な考えを吹き飛ばした。



「ロッツィの境遇も似たような所がある。

放ってはおけないだろうよ」

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