老軍師キタオオジの過去
「元エリートも肩書きが無くなったらただのジジイだよ。」
老軍師キタオオジはそう語った。
一流大学を卒業し、一流企業に勤め、妻も子供もいて、絵に書いたようなエリート人生。
エリートにあらずは人生にあらずとまで、若き日のキタオオジは思っていた。
しかしやがて家族と別れ、そのうえ何者かの手によって妻子は惨殺されてしまった。
キタオオジが警察署内の霊安室に駆け込んだ時には、そこには変わり果てた妻子の遺体が横たわっていた。
「すまない、すまない、私が仕事一途で家庭を顧みなかったからだ…。」
犯人は捕まらず、虚しい時間だけが流れる。
それでもようやく定年間際に部長にまではなることができた。
妻子を失った悲しさ、悔しさ、犯人への怒り、憎しみ、虚しさ、それらを一時でも忘れるために、紛らわすために、ますます仕事に打ち込んだ。
そして定年退職の時を迎えた。唯一の居場所である会社からも去った。打ち込める仕事も無くなり、本当に生き甲斐もなくなった。
「ここまで生きてきて、最後はこのザマか…。」
キタオオジにはもはや、一流企業のエリート社員という肩書きが無くなったら、何も残ってはいなかった。
還暦を過ぎ、定年を迎えて、キタオオジには頼れる人が誰もいなかった。
これが独居老人の悲しき顛末というものかと、キタオオジは思っていた。
人付き合いも拒絶し、半ば引きこもりのような生活となっていた。感情も、表情を顔に表すこともなくなり、まさに生きる屍と化していた。
そして、誰にも看取られることもないままに、ついに本当に屍になってしまった。
その死因は、夏の暑い日にエアコンをつけずに寝ていたことによる熱中症だったという。
元エリートの独居老人の熱中症による孤独死ということになったが、この日は他にも熱中症による死者が相次ぎ、そちらの方がマスコミで大きく取り上げられた。
ところがその後部屋を調べたところ、なんともう1つの屍が見つかった。
そのもう1つの屍こそ、キタオオジの妻子を殺害した犯人のものだった。
つまりキタオオジは、自分の妻子を殺害した犯人を、警察にも頼らずに、復讐という理由で自らの手で殺した。
そしてキタオオジは、自らの手で殺したその犯人の死体を床下に埋めて、その上で何食わぬ顔をして生活していたという。
そして気がついた時には、オビワン・ヨーダ・キタオオジという名の老軍師となっていた。
「いったいここはどこなのだ、見たこともないような植物が生い茂っているぞ…。」
ここは地獄か、死者の国かと思ったキタオオジ。
キタオオジは、今は亡き妻と子の名前を呼ぶ。
しかしその呼び掛けに、応える者は誰もおらず、結局あてもなくさまようことになった。
そこで最初に出会った仲間は、なんと学者のアイラクだった。
「あなたは…?私は学者のアイラクといいます。
しかし、私が学者であることと、アイラクという名前以外のことは思い出せないのです。」
「私は老軍師のキタオオジという。
正しくは、オビワン・ヨーダ・キタオオジという名前だ。
しかしな、私がなぜここにいるのか、なぜこのような格好をしているのか、一切思い浮かばないのだよ。
私が軍師であるということと、オビワン・ヨーダ・キタオオジというこの名前、それ以外は一切思い出せないのだよ、思い出そうとすると、頭が痛くなって、思い出せないのだよ…。」
「あなたもですか?実は私もそうなんですよ。
もしかしたらこれも、何かの縁なのかもしれませんね。
共に参りましょうか。」
これがキタオオジとアイラクの最初の出会いだった。
やがて、マーク・ハミルス、ハッサン・ガントフ、エルザ・マリーシア、商人ハン、踊り子クラリスとも出会っていくことになり、そして現在に至ったということだった。
キタオオジ「これでやっと、全てを思い出したよ。」
前世で妻子の復讐のためとはいえ、罪をおかしたというキタオオジ。
異世界での旅はキタオオジにとって、その罪を償うための、贖罪の旅という意味合いもあると語った。




