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最終決戦・大内裏大極殿 白面童子、眠りにつくの事

(道理で……石清水(いわしみず)八幡宮(はちまんぐう)に神気が無かったはずだ。まさか、自分の姪に、自分の娘に神降ろし……『御霊(みたま)移し』の儀を執り行うとは……!)



薄れ行く意識の中で白面童子はその事実に驚愕した。人間の娘に(カミ)を降臨させ、その威光により様々な奇跡を呼び起こす、最も原始的で、それ故に強力な呪術。しかし(カミ)を降ろされた依代(よりしろ)はもはや己の意識を保つこともできず、強大な(カミ)の存在意識に飲み込まれて消滅してしまう。



(己の実子を生贄にして最後の切り札を『ここ』に隠しておったか、頼信……!)



白面は頼義の父、上野介頼信に初めて畏怖の念を覚えた。兄頼光に比して武勇譚も出世物語にも乏しい彼の存在は、言わば「日陰の者」という印象すら彼女に与えていた。その頼信に最後の最後でとんだ一撃をかまされた白面は己の不明に恥じ入った。



(せめて……御方様だけでも……!)



崩れ行く身体を必死に繋ぎ止めて白面童子が酒呑童子を逃がそうともがく。しかし当の本人はいたく不満げな面持ちで頼義を睨んでいた。



「なんだよ!なんだよそれ!!お前、つまらないぞ、こんな結末、僕は望んじゃあいない!!」



酒呑童子は吐き捨てるように言った。



「あーあつまんない、いいやもうどうでも。死ね。お前ら全員死ね。あとは僕一人で殺して回るからもういいよお疲れさん。さあ白面」



酒呑童子は足元でうずくまる白面童子の顔を爪先で小突く。



()()()()()()()。今すぐだ」



金平は一瞬この鬼の王が何を言ってるのか理解が追いつかなかった。五体満足な男が、手足を引き千切られて瀕死の女に向かって「殺してこい」と命令している?そんな巫山戯(ふざけ)た話があるだろうか?



「ぬ、主様、堪忍しておくれやす。今は、とにかくご避難を……」


「やれよ。殺せ」



冷酷に酒呑童子は言い放つ。あくまで自分は手を汚すつもりもないらしい。



「そん、な……(あちき)は……いや、『(わらわ)』はそなたの、そなたの、実の……!」



邪魅(じゃみ)の瞳」が怪しく光る。白面童子は必死になって最後の慈悲にとすがりつくが……



「や・れ・よ」



岩のように一瞬身を固くした白面が、全身から血を、両眼から涙を流しつつ



「はい、御方様……全ては、御方様の御心のままに……」



と呟いて金平たちの方へ向き直った。白面の惨状から察するに、もはやここから二人を追い詰めるほどの技も力も残っていないのは明白だった。それでも白面は残った手足で引きずるように少しずつ、少しずつ近づいていった。



「殺ス、殺ス……殺スううううう!」



咄嗟に金平が頼義をかばおうと前に出る。しかし頼義はそんな彼を静かに制して自ら前に躍り出た。頼義は膝を折り、惨めに地べたを這い回る白面童子に目の高さを合わせて、優しくその頬の手を添えた。



「もう良いのよ、もう誰も恨むことも、憎むことも無いの……『彼方(かなた)』へ、還りなさい」



それまで虚ろな瞳で虚空を見るばかりだった白面童子に、再び理性の光が戻った。そして、



「余計な……ことを……」



とだけ言って、彼女は目を閉じた。

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