決戦・朱雀門砦 頼義、告白するの事
金平が急いで朱雀門をくぐり大内裏へ入った時には、すでに戦闘は始まっていた。
念のために大内裏内の警護に回した正規軍五百名は本丸である朝堂院の門周りを厳重に警戒していたが、突如乱入してきた八騎の女武者にたちまちの内に蹂躙されてしまった。兵士たちは予想外の襲撃に動揺し、中には襲撃してきた女武者に見知った顔があって、その者が自分たちを襲ってくるなどとは信じられないという衝撃になす術もなく大混乱に陥った。
「無理に戦うな!応天門を守ることに集中しろ!!」
そう叫ぶ金平の声も周囲の混乱の中では届かず、兵士たちは抵抗むなしくみるみる数を失っていった。
「くそおっ!!」
金平は逃げ惑う兵たちを押しのけて正門たる応天門へたどり着き、門扉を背にしてかろうじて防御の体制を整えることができた。
すかさずそこに御陵衛士の内の二人が殺到し、金平に襲い掛かる。金平は自慢の剛力で二人を押し返すが、一見華奢な女性にしか見えないこの女武者たちは、恐るべき速度と腕力でもって金平を攻め続けた。その剣技たるや、金平が「最強」と認めたあの碓井定景にすら肉薄するほどの凄まじさだった。
(まさか、この世に定景に匹敵しうるほどの者がいようとは・・・!)
二人の撃剣ををしのぎつつ、それでいて金平の心は焦るどころかこの強敵と相見えることに心が躍った。十二神将の報告で碓井定景がすでにもう亡いことは知った。金平はその時、友を失った悲しみ以上に、あれほどの使い手と再び矛を交える機会を失ったことを嘆いた。
(おもしれえ、上等じゃねえか!!)
朝堂院へはこの応天門をくぐるより手はない。金平がここを死守する限り本丸へはたどり着けまい。あの妖馬がどれほどの高さを跳躍できるのかは知れないが、それは考えないことにした。
(まずは、目の前にいるこの二人を・・・!!)
そう勢い込んだ刹那、背後の応天門の扉が前触れもなしに開いた。
「・・・・・・!?」
驚いた金平が二人と切り結びながら横目で開いた門の先を見る、そこには・・・
「南無八幡大菩薩、天よ、我に七難八苦を供したまえ」
静かな声で祈りを唱えながら、不動将軍源頼義は手にした大弓を番えた。
矢は金平を襲った女武者の一人の胸に深々と刺さった。矢を受けた女武者は大きく飛び退いて距離を取り、無言で刺さった矢を引き抜いた。
「てめえ・・・何ノコノコ出てきてやがんだ莫迦野郎!!」
怒鳴る金平にもう一人の女武者が殺到する。頼義はその女武者に向けて第二射を撃ちこんだ。女武者は紙一重でそれをかわし金平に一撃を見舞う。矢を避ける動作が余計に加わったため打ち込みが十分でなかった分、金平は余裕をもって打ち返した。その反動で後ろに反り返った女武者に、頼義はすかさず抜き打ちで一撃を送った。女武者はさすがにかわし切れず、左腿を斬り裂かれ、片足で跳ねながら先の女武者と同じように距離を取った。
金平は頼義の姿を見た瞬間こそ激高して怒鳴り散らしたが、その後に続く弓矢と剣の手さばきに思わず息を飲んだ。よもやこの少女がこれほどの技量を持ち合わせていようとは思ってもみなかった。
頼義は静かに女武者二人を見据える。その姿には今までには見受けられなかった、少女らしからぬ威圧感があった。手傷を負った女武者たちのもとに他の御陵衛士たちが集結する。そして、
「これはこれは、最後に会してからまだ日も経ぬというに随分と貫禄が出たな、頼義。どうだ、大将の重み、兵を背負い、その命を背負うということの重責、身に染みたか」
女武者の囲みをかき分けて惟任上総介が言った。
頼義は答えない。その傍らには十二神将の一人、貴人大将が従者のごとく恭しくかしこまっていた。
「お前・・・使ったな?そうかお前、初めから・・・」
金平が怒りを込めて頼義を睨みつける。頼義は悲し気に目を伏せて金平とはかたくなに目を合わせない。
「金平どの、ごめんなさい・・・。私、嘘をついていました。いえ、本当は自分でもわかっていたのに、知らないふりをしていた、気づかないふりをしていたの。この眼、この力・・・そう、父上がなぜ私と目を合わせてくださらなかったのか。それに・・・ああ、竹綱、私、竹綱に謝ることもできなかった・・・知ってたの、知ってたのに私・・・あの時、怪我をしてまで桜の枝を取ってきてくれたあの子の身を案ずるよりも、桜の枝が手に入ったことを喜んでいた。私、私は・・・」
涙をこらえながら、そこまでを一息に言い切った彼女は・・・
「鬼・・・だから・・・」




