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プロローグ

 普通の高校生活を送る。去年の三月、中学を卒業して高校生になろうとしていた時期の俺はそんな漠然とした目標を掲げていた。


 波乱に満ちているわけでもなく、かといって灰色というわけでもない。どこにでもいるような、いわばモブのような存在。そんなものを目指していたのだ。


 そこそこ友達を作って、そこそこ勉強にも励んで。甘酸っぱい恋愛は……まだ具体的に想像できていなかったけど。


 とにかく、中学の時のようにはならない。自分に出来ることをほどほどにやる。それでいいのだ。俺はアニメの中の「正義のヒーロー」じゃないのだから。


 そんな決意を持って高校に入学した俺だったが、しかし、その決意はわずか一年とちょっとで儚くも消え去ろうとしていた。


「古木新先輩、ですよね」


 その鈴の鳴るような声を聞いた瞬間、自分は死後の世界にいるのかと思った。

 俺はもうすでに死んでいて、天国にいるのだと。だから、目の前にはこんなにも幻想的な光景が広がっているのだと。そう錯覚してしまった。そう思えるくらいに、その姿は神秘的だった。


 季節は春の終わりと初夏の始まりのちょうど中間あたり。時刻は夕方の五時を過ぎたところ。場所は学校の屋上。そして目の前には一人の女の子。大きく暖かい夕日を背に、柔らかい微笑みを浮かべ、きらきらとした宝石のような大きな瞳でこちらをじっと見つめていた。腰まで伸びた長い黒髪が光を反射して艶やかに光っている。


 グラウンドで精力的に活動しているのであろう運動部のかけ声がやけに遠くに聞こえる。触れれば折れてしまいそうに見える華奢な体躯に、驚くほど整った容姿のその女の子が作り出したファンタジーの世界とすら思える光景を目の当たりにして、夕日に美少女って映えるんだなと場違いなことを考えていた。


「少し、いいですか」


 不意に紡がれたその声に、意識が現実に引き戻される。ここは天国でも幻想でもファンタジーでもない、れっきとした現実なのだと当たり前のことを思い出して疑問が頭に浮かんだ。


 俺はこの少女を知っている。それは当たり前のことだ。何故ならこの少女はその美少女っぷりと、そして()()()()が原因で入学してまだ間もないにもかかわらず、校内屈指の有名人だったから。


 だが俺のことを知っているのはおかしい。俺は至って普通の生徒だ。不良でもないし変人でもないしイケメンでもない。目立つような属性は何も持っていない。そんなモブであることをむしろ誇らしく思ってすらいるモブの中のモブであるところの俺の名前を何故有名人が知っているのか。そしていったい俺に何の用だというのか。


「単刀直入に言います。一つ、伺いたいことがあります」


 そんな俺の胸中を知ってか知らずか、彼女は話を進める。俺は一言も言葉を発していない。いや、発することが出来ないでいた。わりかし弁が立つ方だと思っていたが、今はこの空気に飲まれているせいか口が開かなかった。彼女はそんな俺から視線を外すことなく続けて言葉を放った。


「恋愛の定義って、何だと思いますか。恋愛は、善ですか。それとも、悪ですか」


 一度も微笑を崩すことなく彼女はそう言った。俺はそれを見て、得体の知れない『何か』に触れたような、不思議な感覚を感じた。


拙い文章を最後まで読んでくださってありがとうございました!

本日はもう一話投稿します。まだお付き合いいただけるという方はぜひ。

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