ウサギとカメ

作者：大鳥居

　あるところにウサギとカメがいました。

　彼らはそれぞれに、昔、先祖がかけっこをして負けたウサギの末裔と勝ったカメの末裔でした。

　何か事があるごとに争っていましたが、ついにかけっこで勝負をすることになりました。

「もう、今回という今回は許せねぇ。かけっこでケリをつけようじゃないか」

　ウサギはこれ以上我慢出来ないと怒髪天を衝く勢いです。

「ふん、その勝負受けてやる。ご先祖様同様に勝利してやるよ」

　カメはウサギの挑発を受けて、胸を反らせて答えます。

「じゃあ、あの木まで競争だ」

　ウサギの指さした先、地平線の彼方に、ぽつんと一本だけ立った木がありました。

「よし、あの木までだな」

　カメも地平線の先にある木を見据えて、勝負を受けます。

「ご先祖様は油断して負けてしまったが、今回はそんなヘマはしないぞ。お前が来るのをゴールで待って、そして、遅れて着いたお前を見ながら腹を抱えて笑ってやる」

　ウサギも本気です。

　そして、ウサギとカメはお互いに顔を見合わせて頷き、一斉に走り出しました。

　ウサギは全力で走り、後ろを振り返ろうともしません。カメはその後ろ姿を追いかけて一生懸命走りましたが、みるみるその姿は小さくなり、そして見えなくなりました。

　カメは全力で走ります。昼夜を問わず全力で走ります。

　途中でウサギが休んでいてくれないかと、道の脇をちらちらと幾度となく見ましたが、そんな気配はありません。

　晴れの日も雨の日も、カメはひたすらに走り続けました。

　地平線の彼方にある木に辿り着くまでは決して諦めることは出来ません。カメの先祖はその諦めの悪さでウサギに勝つことが出来たのを知っていたから。

　カメはついに地平線の彼方にあった木が近づいてくるのを実感します。

　それからどのくらい走ったのか、そもそも何で走っていたのか、そんなこともわからなくなるくらい無我夢中で走り、やっと地平線の彼方にあった木に辿り着きました。

　ゴールテープなんて粋なものはありませんが、カメは達成感に包まれました。

　ハッと我に返り、周囲を見渡します。

　でも、近くにウサギの姿はありませんでした。

　カメは近くにあった石の上に座り、これからやってくるだろうウサギを待ちます。

　カメは思いを巡らせます。

　ゴールで待ち構える僕の姿を見たら、勝負に負けたことに気付いてガッカリするだろう。そしたら思いっきり腹を抱えて笑ってやる。

　そんな風に色々と考えながら、カメはウサギがゴールするのを待ち続けます。

　晴れの日も雨の日も、ひたすらにウサギがゴールするのを待ちました。

　どのくらいの日にちが過ぎたでしょうか。

　それでもカメは待ち続けます。

　そしてある日、カメの座っていた石の近くに小さな小さな子ウサギがやって来ました。

　カメの周りにどんどんと子ウサギが集まってきます。

　そして、その後から母ウサギがやって来ました。

「すみません。お休みのところ申し訳ありませんが、場所を移動していただけないでしょうか」

　母ウサギはカメに向かってお願いしました。

　カメはどうしてなのか、事情を飲み込めませんでしたが、石を降りて移動します。

　ウサギたちはその石を囲むと、祈りを捧げ始めました。

　カメはその様子を眺めながら、ふとそれまで座っていた石を見ました。

　今まで座っていて気付きませんでしたが、そこには何か文字が彫られているようです。

　カメはその文字を目を凝らして読みました。

『かけっこ勝負に勝ったウサギ、ここで負けたカメを待つ』

良くある話(短編的に)

ジャンルを童話にしようか悩みましたが、オチ的に童話ちゃうやろと思い、ヒューマンドラマにしました。ご容赦ください。