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心の中の風邪  作者: 龍之介
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私の入院日記 その5

 こうした精神科病院が、普通の病院と最も違うのは、まずお見舞いが滅多に来ないということである。

 普通の病院なら、毎日といわないまでも、そこそこお見舞いが来たりするのは、そんなに珍しいことではない。

 しかし、ここはそれが滅多にないのだ。

 ヤマダ君は僕よりも長く入院しているというのに、これまで家族(彼はまだ独身で、両親と兄弟がいる)がやってきたのは、月に一度がいいところだそうだ。

 カガミさんは結婚していて、子供さん(男の子)が一人いる。子供さんは義母、つまりお姑さんが見ていてくれるので心配はないらしいのだが、問題はご主人である。

 初めのうちは割合い頻繁に来てくれたそうだが、今ではもう全くと言ってよいほど顔を見せない。

 義母が時々来てくれるのがせめてもの救いだ、と寂しそうに言っていた。

 オオタさんはまだ独身なのだが、入院して以来、母親がやはりヤマダ君同様、月に一度くらい来てくれる程度で、父親は全く顔をみせないという。

『仕事が忙しい』というのがその理由らしいが、彼女曰く『父は私の病気に全く理解がないの』だそうである。

 一人、彼女だけに限らない。この病棟にもそんな患者さんは大勢いるそうだ。

 ここは『急性期病棟』といって、比較的症状の軽い人ばかりなのだが、他の病棟には、長い人で10年近くも入院している人がいるという。

 となると、僕などはまだましな方かかもしれない。兄は今アメリカに出張しているので無理だが、両親と姉は割に頻繁に来てくれる。

 父は某私立大学の理学部で教授をしている。

 一見、無口でぶっきらぼうにみえるのだが、私の話も良く聞いてくれるし、いろんなことを教えてくれたりもする。

 母は専業主婦だが、結婚前までは小学校の教師をしていたくらいだから、聞き上手で話し上手だ。

 二人は病気に関しては殆ど知識はなかったのだが、私が入院すると知ってから、関係の本を読み漁り、病気について調べ、出来るだけ理解をしようと努めてくれている。

 有難いことだ。

 姉は姉で、現在は夫(つまり義兄にあたる)と二人で、ホームページの制作会社を立ち上げ、二人で順調に業績を上げている。

 私の病気のことも、ネットであちこち調べ、今では相当に詳しくなっている。

 こんな家族の話をすると、

『貴方は幸福ね』という答えが異口同音に帰ってくるのだ。

 本当にそうだと、自分でも思う。

 今までは、家族が自分のために何かしてくれるのは、

『当たり前だ』と思って、特に感謝もしなかった。

 しかし、ここに入って、初めて『自分の幸福さ』が実感できた。


 入院中、私がもっとも仲良くなったのは、ヤマダ君以外ではカガミさんだった。

 勿論、私は独身男、彼女は既婚者である。

 恋に似た気持ちを持ってはいたかもしれないが、まさかこの狭い病棟の中で、手を握ったり、ましてやそれ以上の行為に及ぶなんて出来る訳もないし、しようとも思わなかった。

 



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