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心の中の風邪  作者: 龍之介
3/5

私の入院日記 その3

 食事は三食とも、さっき通って来たホールで、全員で食べるらしい。

 稀に本人が『どうしても』という場合は病室で摂ることも出来るらしいが、原則は全員揃ってという規則になっているようだ。

 私たちは二人で喋りながら廊下を歩いていくと、それぞれの部屋から、箸箱とコップを持った患者さんたちが出てきて、みんなホールに向かって歩いていく。

 どうやらヤマダ君は、他の患者さん、特に大抵の女性患者さんとは仲がいいようで、大抵は向こうから話しかけてくる。

 しかし、男性の患者には、向こうから話しかけてくることはまずない。

 話しかけても、無視するか、素っ気ない返事が返ってくるばかりだ。

 ホールに着くと、もう患者たちがほぼ全員集まって来ていた。

 大きなワゴン車のようなものが、いつの間にか入って来ていて、看護師さんと、介護士さんが、そこからお盆に乗せた料理を取り出して、それぞれの名前を呼んで手渡している。

 特別な事情(つまり糖尿とか、高血圧のある人)にはそれなりの食事が出されるため、いちいち名前を確認して渡すらしい。

 私も言われた通り、ヤマダ君と二人で列に並んだ。

 二人とも、別にどこといって他に悪いところはないので、そのまま食事を受け取り、テーブルに着こうと、あちこちと見回す。

『あ、ちょっと待って』ヤマダ君が言った。

 何でも、こう見えて席順が決まっていて、やたらなところに座る訳にはゆかないんだそうだ。

 僕はヤマダ君と一緒に、

 ここなら大丈夫という席に座った。

 ちらり、と隣を見る。

 そこには、グレーのスウェットの上下を着た30歳くらいの、黒い髪をショートカットにした、大人しそうな顔をした女性と、

 髪を茶色に染め、長袖のピンクの、ちょっと派手目なトレーナーに、紺色のジャージを着た、20歳くらいの女性が座って、箸を動かしていた。

 茶髪の女性の方は何だかおしゃべりなのか、食事をしながらも、黒髪の女性に、しきにり何か話しかけているが、黒髪さん(仮にこう呼ぼう)は、ただ、

『ええ』とか、

『うん』とか答えるばかりで、無駄口は一切聞かずに、黙々と食事をしている。

 私も、あまりじろじろ見ては悪いと思い、ヤマダ君と話をしながら食べていた。

『あの、彼女の名前は?』

 それとなく、ヤマダ君に訊ねてみた。

『ああ、カガミさんですよ。』

 ヤマダ君によると、彼女の名前は『カガミサナエ』といい、今年で30歳丁度、既婚者だそうだ。

『あんまり詳しくは知らないんですけどね、何でも少し鬱が酷くって、それで入院したみたいですよ』

 ヤマダ君は、意外と詳しく教えてくれた。

 食事が終わり、僕らは立ち上がろうとした。

 同時に、カガミさんも立ち上がった。すると、お盆の上の箸箱が滑って、床の上に落っこちた。

 すかさず僕が、自分のお盆をテーブルに置いて、拾ってあげる。

『あ、ありがとうございます・・・・』少しどもりながら、カガミさんは丁寧な口調でお礼を言ってくれた。透き通って細いが、綺麗な声である。

 隣にいた女性は『オオタハル子』さんだと、こっちが聞きもしないのに、一方的に名乗ってきた。食器とお盆を返すと、私とカガミさん、そしてヤマダ君とオオタさんの四人は、いつの間にか一つのグループになってしまった。

(私としては、出来ればカガミさんとだけ話がしたかったのだが・・・・苦笑)


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